連載 『二月の勝者』で考える中学受験のリアル

「偏差値を一気に上げる方法があります」これってホント?|『二月の勝者』で考える中学受験のリアル

専門家・プロ
2021年11月06日 西村創

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テレビドラマ『二月の勝者-絶対合格の教室-』の内容を受験指導専門家の西村創さんが「実際の現場ではどうなのか」という視点で考察します。

※原作やテレビを見ていない方の完全ネタバレにならないように留意していますが、本コラムでは内容の一部分を紹介しています。予備知識なく原作漫画や録画したドラマを楽しみたいという方は、先にそちらを見ることをおすすめします

受験指導専門家の西村創です。今回はTVドラマ『二月の勝者』の11月6日放送の第4話を題材に、塾現場を知る者として「実際はどうなの?」といった点をお伝えしていきます。

[考察・その1]偏差値を一気に上げる方法があります

考察のひとつめは、「偏差値を一気に上げる方法があります」という黒木先生のセリフです。

このセリフは実際のリアル度50%です。さらに黒木先生は、言いました。

「この半分を解いてください」
「うしろの半分を解く資格がないと言っているんです」

偏差値を上げる方法として、解く問題の取捨選択を生徒に指示するのは、実際の塾の指導現場でもよくあることです。

では、なぜリアル度を100%ではなく50%にしたのでしょうか?

それは模試の問題の難易度は前半が基本で、後半が発展――というわけではないからです。

テストなどの問題は「大問」と言って、関連した問題のグループをまとめて、「大問1」とか「大問2」などと言います。

たとえば算数の「大問1」は<四則計算>で、そこに小問が5題。「大問2」には<場合の数>の小問が5題。「大問3」には<平面図形>の小問が5題あって、「大問4」には<立体図形>の小問が5題あるといった感じです。

このケースでいえば「大問1:四則計算」と「大問2:場合の数」の問題を5題ずつ、計10題解いて、うしろの「大問3:平面図形」「大問4:立体図形」の計10題は無視するというのが『二月の勝者』の黒木作戦です。

全部の問題を時間内に解こうとすると、焦って解けるはずの問題を落として点数が取れない。であれば、いっそ基本的な問題の大問1と大問2だけに絞って解く。着実に取れるところで取るという作戦です。

この「着実に取れるところで取る」というのは、模試や入試で得点を最大化するための常套手段です。

しかし、問題の配点は難易度に応じて決められているわけではありません。やさしい問題でも、むずかしい問題でも、1問「5点」というように問題の難易度と配点の高さは比例しない場合があります。

また、着実に取れる基本問題が、前半にある大問1、大問2のすべての小問に集中しているわけでもありません。取りやすい基本的な問題は、大問1、大問2の丸ごとではなく、「各大問のなかの小問群の前半の問題」である方が一般的です。

たとえば計算問題だけで構成されている大問1や大問2であっても、そのなかの小問4や小問5などは、かんたんには正解させない問題にしているケースが多いです。

そんな問題に取り組んで時間を浪費するくらいであれば、うしろにある大問3や大問4のなかの小問1や小問2の方が、意外とかんたんです。

[考察・その2]講習の申し込み、ノルマです

考察2つめは「講習の申し込み、ノルマです」という黒木先生のセリフです。

こちらは、実際のリアル度100%です。リアルすぎて塾の社員を引退している私ですら、リモコンの電源ボタンにそっと手が伸びそうになりました。

このドラマを見ている日本全国の塾の社員は、「講習申し込みのノルマ」という言葉を聞いて、一気に嫌な気持ちとともに、職場の上司の顔が浮かんだのではないでしょうか。

塾にとって、これからの受験シーズンは稼ぎどきです。だから、たとえば今だったら、塾の社員は冬期講習、正月特訓、特定校入試対策授業を申し込んでもらうための営業に必死です。

塾の社員はまだこれらのオプション講座に申し込んでいない子の最近の模試の結果を分析して、できていないところを浮き彫りにして、オプション講座がそれを解決する手段としてふさわしいことを、どういう言い方をすれば、保護者に納得してもらえるか、伝え方を考えます。

ここで、塾という枠組みのプロ社員に徹することができない講師は、佐倉先生のように、

「それぞれの家庭には、それぞれの事情があるんじゃないかと思うんですけど……」

などといったように、会社の方針に不信感を持つことなります。佐倉先生のような講師はどこの塾の現場にもいます。

一方、各校舎の校長は週に1回くらいの本部会議で逐一、「各校舎の講座にどれくらい申し込みがあるか」、「申し込み目標に対して現在の申し込み数はどれくらいか」、「そのギャップを埋めるためにいつまでにどうするか」を報告するのです。

そして申し込み目標に対して、現在の申し込み数に大きく届いていない校舎の校長は、部長から大勢の校長達の前で詰められます。「講習申し込みノルマ」は、塾の社員、特に校長にとっては、リアルかつ非常に重たい言葉なのです。

次の考察にいきましょう。

[考察・その3]夫婦の意見が一致していないと中学受験は失敗する

次は「ご夫婦の意見が一致していないと中学受験は失敗します」という桂先生のセリフの考察です。

こちらは、実際のリアル度50%です。

それぞれ別の親に育てられて人生観、教育観、価値観が固まってから一緒になった、もともと他人だった夫婦が、意見を一致させるのなんて土台無理な話です。

だからちょうど今くらいの時期、受験生は入試が近づいて、残された模試の回数が減ってきて、具体的な志望校の合否判定の現実を突きつけられ、同時にいろんな講座のために湯水のように口座から塾の費用が引き落とされていく――という、子供にも親にも精神的な負荷が増えてくる時期には、どこの家庭でも親子間、夫婦間で衝突が起こりやすくなります。

だから、「夫婦の意見が一致していないと中学受験は失敗する」というのは、少し大げさです。

むしろ親子、夫婦で意見を一致させなければならないと考えると、うまくいきづらくなります。意見を一致させるのではなくて、お互いどこまでであれば妥協できるのか、その妥協点を共有するのが現実的かもしれません。そんな感じで、なんとか受験のゴールにたどり着くご家庭をたくさん見てきました。

私が生徒のお父さまと面談すると、

「いや、妻にこんなこと言ったら大変なことになるから、先生にしか言えないんですけど……、私は別に息子が第一志望不合格になってもいいと思ってるんですよ」

とか、

「妻と娘は性格似てるから、衝突ばかりしてるんですけど、私からすれば………って。あ、今から言うこと、妻には言わないでくださいね」

だなんてよく言われます。

一方、生徒のお母さまと面談すると、

「主人は『これ以外の学校は受けさせない』って言って聞かないんですよ」

とか、

「うちの人は仕事が忙しくて家のこと、子供のことは私任せで、受験に無関心で非協力的なんです、もう話にならなくて……」

というようなことを、これまで何回も聞いてきました。

でも、子供からすると両親の意見が一致しないのは、悪いこと“ばかり”ではないのです。両親の意見が一致して、その意見が子供と一致しない方が、子供は気持ちの逃げ場がなくなります。

たとえば、両親共に子供の受験に熱狂的になっているパターンです。これは、子供にはキツいものがあります。親の期待に応えられない場合、子供は自分を責めかねません。

私の経験上、両親のいずれかが子供の受験に熱心で、もう一方の親は受験に対して冷静で、のめり込まないで、でも反対はしない。主体的に意見は言わないけど、説明会の申し込みや過去問購入や願書の手配、情報収集や整理などのサポートはする――そんな感じのご両親のお子さんの受験は、うまくいっていました。

夫婦はパートナーの子供への接し方を見て、子供にとって必要な「役割」を演じられるといいですね。

……と、それがうまくいかないから中学受験は大変で、『二月の勝者』のようなドラマが生まれるわけです。そして、そんな作りごと以上の本当のドラマが待ち受けているのは、これから受験シーズンに突入する実際の受験生のご家庭です。振り返って「あのときは大変だったけど、あの頃があったから今があるんだよね」と、家族で前向きに振り返ることができるように、応援しています。

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※記事の内容は執筆時点のものです

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