連載 中学受験との向き合い方

中学受験のメリット、私立中学校に行くメリット ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2019年3月26日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

子供の小学校生活は意外に短いもの。わが子の進路を考え早くから不安に駆られる親御さんも多いでしょう。公立中学校に行くべきなのか、私立中学に行くべきなのか。中学受験に挑戦させたいけど、子供をその気にさせるにはどうしたらよいのか……。連載初回となる今回は、田中先生に中学受験のメリットについて聞きます。

挑戦で身につくもの

中学受験に挑むことの最たるメリットは、「我慢強さ」が身につくことだと考えます。この我慢には2つあります。

ひとつは、友達と遊びたいけど遊ばない、ゲームをしたいけど勉強する、という「やりたいけどやらない我慢」。もうひとつは、算数は苦手だからやりたくないけど弱点を克服するために頑張る、学校の行事で疲れていて休みたいけど塾に行って授業を受ける、という「やりたくないけどやる我慢」です。

この2つの「我慢強さ」は、人生で大いに役に立つものです。「若い頃の苦労は買ってでもせよ」ということわざがありますが、中学受験はこの「若い頃の苦労」だと私は考えています。

ただ、受験ですから、必ず合否がつきまといます。なかには、一生懸命勉強を頑張ったけれど、結果がともなわなかったという親子がいるのも事実です。頑張ったのに報われない結果があることを、デメリットと捉える方がいるかも知れませんが、それは捉え方の問題だと思います。

大切なことは最後までやり抜くことであり、「負け」や「失敗」を糧にすることです。そして学びで得た経験や力は一生ものです。結果がどうあれ、『今まで数年間、学んできたことはたくさんあるんだから、これって貴重な体験だったよね。これで4月から無事に中学生だ。おめでとう』というように、子供が頑張った経験を家族で祝福してあげることです。受験勉強を頑張って親から祝福してもらえたという体験は、子供の心に必ず刻み込まれ、それは今後の大学受験や就職試験などを突破するための大きな原動力になると思います。

私立中学の「建学の精神」は、秘伝の焼き鳥のタレに似ている

私立中学校は、平成30年時点で全国に778校あります。中学受験というと、偏差値や有名大学への進学実績を学校選びのポイントにする親御さんも多いです。しかし、肝心なことは学校1校1校の「理念・意味」を吟味することです。

私立中学校と公立中学校(中高一貫校も含む)の違いは、「建学の精神」の有無でしょう。私立の学校は創始者が私財を投じてつくった学校ですから、こんな人間を育てたいという「理念・意味」がその根底にあります。

この「建学の精神」は、老舗の焼鳥屋が守り続けている一子相伝のタレの「味」に似ています。歴史が長くなれば長くなるほど、いろんなものを取り込んで濃厚な「味」になっていくのです。子供たちは中高の6年間、このタレにどっぷりと浸かり、心にその「味」を染みつかせて卒業していきます。その「味」とは、ほかでもない、意味の「味」なのです。

いくつかの私立中学の「建学の精神」を見てみましょう。

浅野中学校は、「九転十起」という校訓を持った神奈川の私立中学です。在校生たちは学校行事や部活動の試合など、いろんな場面でこの校訓を目にします。学生時代には特に意識する人も少ないかもしれませんが、卒業をしてから学業・仕事で壁にぶつかったとき、大きな病気になってしまったという苦境に立たされたときに、この言葉を思い出す人は多いはずです。浅野中学校・高校の卒業生たちは何度転んでも立ち上がる人間と呼べるのではないでしょうか。

また、開成中学校の理念のひとつは校章が示している「ペンは剣より強し」です。これをどう読むかによって変わりますが、「何があっても剣は抜かないぞ」というのが基本的なメッセージですよね。力や権力に屈せず頼らず、学問によって磨かれた言葉や論理、思想で勝負していくというのが、卒業生たちに染み込んできた「理念・意味」と呼べるでしょう。

学園祭や学校見学会で、先生や生徒の様子を見て「建学の精神」、すなわち「理念・意味」を感じ取れるのであれば、その学校は志望校の選択肢に上がってくるのではないでしょうか。子供の性格や適性と学校の教育理念がうまくマッチすれば、それはとても幸せなこと。それを見極めるのに1年、2年の時間をかけて吟味していいと思います。

子供の気持ちを中学受験に向けるために

親御さんが子供を私立中学に入れたいと思っても、子供の気持ちを受験に向けさせるのが難しいことがあります。このとき、どのように子供と接するべきなのかを解説していきましょう。

おすすめできないのは、子供に「進路はお母さん(お父さん)が決めるからね」などといって中学受験に挑むことです。子供と同じだけ親が長生きできるならいいのですが、ほとんどの親子はそれが適いません。「あなたは、あなたの人生に責任があるんだよ」という姿勢にどんどんシフトしていくべきです。

とはいえ、小学生の子供には自分の将来像をうまくイメージできないのも事実ですから、人生の先輩として、親が子供と大いに語り合うことが重要だと思います。

たとえば、「中学に入ったらどんなことがしたいの? 部活動は何部に入りたい?」と親子で中学校生活について話し合って子供の進路意識を刺激したり、その一方で「あなたは○○中学校に向いていると思うんだよね」ということを語ったりするのはOKです。その流れで「ちょっとつき合ってくれる?」と誘って、学校見学や卒業生と接触する機会を持てばいいと思います。

要するに、子供の生き方の決定権を親が握るということと、親が子供に影響を与えるということは違うということです。「最後に決めるのはあなただからね、それを尊重するよ」といえば、子供は自分の選択が尊重されていると感じますし、親御さんの想いも子供の心にしっかり残ります。また、子供のなかに、自分の人生への強い当事者意識も育っていくでしょう。この当事者意識と自己効力感、そして自己肯定感は未来の社会から強く求められているものです。

受験は自分との戦い

「受験戦争」という言葉がありますが、受験は他人との戦いではなく、「自分との戦い」です。勉強を続けていくなかで、我慢強さを磨き、ひとつの目標に向かって努力していく。合否ももちろん大事ですが、肝心なのはその道のりのなかで、何を経験し何を学び取ったかということ。

親御さんは、ゆったりと子供の成長を見守るのがよいですね。そのなかで子供が苦しんでいたり、悩んでいたりしたら声をかけてあげればいい。「お父さん、お母さんはあなたのことをちゃんと見守っているよ」という姿勢を見せることで、子供自身も目標に向かってしっかりと努力を続けていくことができるでしょう。


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※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。「一家にひとり、一課にひとりのコミュニティ・カウンセラー」を育てることを目標としている。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。

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