連載 中学受験との向き合い方

受験のストレスと向き合う ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2019年4月05日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

中学受験にはストレスがつきもの。受験生のいる家庭では、ストレスとどう向き合うべきなのでしょうか。田中先生に中学受験のストレスを乗り越える方法について伺いました。

夢や目標の実現のためには、ストレスはつきもの

そもそもストレスとはどういったものでしょうか? 厚生労働省ではストレスについて「もともと物理学の分野で使われていたもので、物体の外側からかけられた圧力によって歪みが生じた状態」という説明をしています。これをもとに、私はストレスを「何らかの原因により心や身体が影響を受けた状態」と定義しています。

図で表すと上のような形です。ストレッサーとは、「誰かに怒られる」「事故に遭う」、といった負荷の原因となる出来事。ストレス反応とはストレッサーの影響で、「不機嫌になる」「呼吸や脈拍が乱れる」などの、心と身体にひずみが生じた状態です。

この一連の流れのなかには、「出来事(ストレッサー)を自分自身がどうとらえたか」というフィルターが存在しています。

たとえば、目の前の壁になかなか落ちないシミを見つけたとき、「なんとしてもキレイにしなくては」と思うのか、「まあいいか」と思うのか。前者のほうがストレス反応は大きくなりますよね。

このように心の持ちかたによって、ストレス反応は増減します。そして、夢や目標の実現にはストレスはつきものです。中学受験をひかえているお子さんも、多くのストレスをかかえるでしょう。次からは、子供の「ストレスに負けない心」をつくる、親の7つの行動習慣について説明していきます。

ゴジラはリスさ ―― ”ストレスに負けない心” をつくる7つの行動習慣

1.【ゴ】合理的に考える
2.【ジ】自分のことは自分でする
3.【ラ】ライフスタイルを改善する
4.【は】発散・表現する・楽しむ
5.【リ】リラックスする
6.【ス】スキルを磨く
7.【さ】サポートを確保・活用する

これはストレスに負けない心をつくるための行動習慣を7つにまとめたものです。頭文字を取って「ゴジラはリスさ」となるように、覚えやすい形に整えています。それぞれの項目をみてみましょう。

1. 【ゴ】合理的に考える

叱るときも、なにかを指導するときも、親は合理的に考えて行動しましょう。合理的とは、道理や論理にかなっていることですね。合理的思考のひとつが、物事をゴッチャにしない「分別思考」です。分別思考とはどういったものか、いくつか例を示します。

●「存在」と「行為」の分別
子供が悪いことをした場合、行動へのダメ出しは必要です。しかし、子供の存在を否定したりしてはいけません。「生まれてこなければよかったのに」などという、存在を否定する考えや言動はNGの最たるものですよね。

●「変えられること」と「変えられないこと」の分別
過去は変えられないということです。受験生親子は、「あのとき○○してればよかったのに」という考えに陥りがちです。しかし、起こった出来事に対して、「変えられること」と「変えられないこと」を分別して考えなくてはなりません。

●「部分」と「全体」の分別
子供は算数の一部の単元が苦手なだけなのに、親が「あなたは算数(全般)が苦手だから……」という言葉を発していないでしょうか? 算数すべてが苦手と決めつけてしまえば、苦手意識も強くなります。

2. 【ジ】自分のことは自分でする

この線引きは、家庭によってさまざまでしょう。答えを出すためのカギになるのは「それって誰のこと?」「それを決めるのは誰?」という問いです。

たとえば、「宿題をするのは誰?」という問い。親が子供の宿題に余計な口出しや手出しをしたら、子供に「宿題をするのは僕のことだ」という当事者意識が育つでしょうか? 

「中学受験って誰のこと?」という問いもあります。あきらかなのは、試験を受けるのは「子供のこと」、進学後の学校生活を送るのも「子供のこと」ですよね。一方で、受験に関わる費用を出すのは「親のこと」です。「学校を選ぶのは誰のこと?」という問いもできるでしょう。入学後に「親が選んだこんな学校、もう行きたくない!」などと子供がいう事態を回避するためにも、親子で話し合いきちんと認識を共有しておくべきです。

この「自分のことは自分でする」というのは、自分の人生への当事者意識につながります。また、自分でやって「できた!」という気持ちが、子供の自己効力感、自己肯定感を高めます。これらは、ストレスに負けない心をつくるうえで大切な要素です。

「自分のことを自分でする」ための基本ステップは、自分の一日を自分で始めること、つまり「朝、自分で起きること」ですね。一日を始めることへの当事者意識は、やがて一年、一生へとつながります。

3. 【ラ】ライフスタイルを改善する

お子さんの睡眠、栄養、休息は足りていますか? 不規則な生活はさまざまな悪影響を及ぼします。また、普段から家族でコミュニケーションがとれる環境も整えましょう。「今日はこんなことがあったんだよ」と家族で語り合える関係性は、ストレスに負けない心をつくるために必要なことです。

4. 【は】発散・表現する・楽しむ

これは、ストレスを発散する、面白かったことを表現して楽しむということ。愚痴だったり楽しかったことだったり、子供が親に話したいことはたくさんあります。忙しい親御さんも、1日3分は子供の語りを傾聴する時間をつくりましょう。このときに大切なことは3つです。

1.最後まで聞いて口を挟まない
2.否定しない
3.自分のいいたいことは後回しにする

親から話したいことがある場合は、子供の話を聴いてからです。耳の痛いことは多くても3つにおさえましょう。具体的な話をする前に、「3つ伝えたいことがある」と予告することで、子供は心のドアを開けて待っていてくれます。話が終わって「最後まで聞いてくれてありがとう」といえば、相手の心にも届くでしょう。

5. 【リ】リラックスする

仮にストレッサーの影響で緊張しても、もとの状態にゆるめる(リラックスする)方法を知っていれば、ストレス反応が軽減します。受験生親子は自分流のリラックス法をいくつか携えておけるとよいですね。自律訓練法、マインドフルネスなど、さまざまな方法がありますが、わずかな時間で、親も子もできる簡単なリラクセーション法があります。こちらは次回紹介します。

6. 【ス】スキルを磨く

親は子供のスキルを磨く手助けをしましょう。磨くべき子供のスキルはコミュニケーション・目標設定・時間管理の3つです。

●コミュニケーションスキル
コミュニケーションは誤解を生まずに人間関係を円滑に進める、必要なものを手に入れるための基本的手段です。受験期にかかわらず、生きていくうえでとても大切なスキルですね。

●目標設定スキル
「具体的で実行可能な小さい目標を設け、日課にする」といったスキルです。毎日目標を達成することで、子供の自信も育まれます。

●時間管理スキル
時間を意識して計画を立て、立てた計画に沿って行動する能力です。「いつまでに、なにをする(作業時間の目算と配分)」などですね。時間管理スキルは、勉強だけでなく、気持ちを切り替えるうえでも重要な意味を持ちます。

7. 【さ】サポートを確保・活用する

親からのサポートがしっかりしている子供は、苦境を成長の糧にします。成績がなかなか上がらない、友達と遊びたい、そんなときでも我慢強く志望校合格に向けて取り組めるものです。

親が子供にするサポートには「経済的」「知識や技術的」「労力的」、そして「心理的」などさまざまな面があります。そのなかで最も強力な心理的サポートが、「親がついていてくれる」という子供の実感です。この「親がついていてくれる」という安心感を、不安が上回ったとき、子供が心に傷を負ったり自信をなくしたりという事態が起こります。

親のサポートの本質は子供の「“あるがまま”の受容」です。しかし、受験生の親の多くが「あるがままなんて、受け入れられない」と考えがちでしょう。「勉強しないし、親のいいつけも守らない!」こういった思いが「“あるがまま”の受容」の前に壁として立ち塞がります。

その壁を乗り越える思考が「【ゴ】合理的に考える」で紹介した分別思考です。分別思考のより詳しい説明は別の機会にまわし、ここでは1日10秒の「“あるがまま”の受容」で子供に安心感を与える作法を紹介します。

子供に安心感を与える10秒コミュニケーション

受験生親子のコミュニケーションで大事なのは、「自分の戦いだけれど親がついていてくれる」と子供が感じることです。

そのために子供が見たい親の顔(ニコニコ顔)を毎日見せてあげましょう。「毎日ニコニコなんかしていられない」とお思いでしょうが、1日10秒間でよいのです。

1日5回×2秒=10秒のニコニコ習慣

1.「おはよう」
2.「いってらっしゃい」
3.「ただいま・おかえり」
4.「いただきます・ごちそうさまでした」
5.「おやすみ」

それぞれ2秒間ほどで充分。このときだけは相手の見たい顔、笑顔を見せてあげます。学習塾のテストの結果が悪かろうが、勉強しようがしまいが、忘れものをしようが、関係ありません。ちゃんと子供の顔を見て挨拶すれば、子供のちょっとした変化に気づく機会にもなります。

おはようは、また元気で会えてよかった。おやすみは、また明日の朝に会おうね、という気持ちが込められています。家族と「また会える」状態は、幸せの土台ですよね。安らぐ場所がある、存在が認められる場所があるということは、かけがえのない幸せなのです。

毎日のこの10秒間は親が子供の「“あるがまま”を受容する」時間です。子供が「親がついていてくれる」と感じられるよう、毎日笑顔を見せてあげてほしいと思います。それ以外の時間はスイッチを切り替え「勉強頑張るんだよ」と、声掛けしてあげればよいのです。

結果に固執しすぎることなく、おおらかに子供を見守る

親が子供を励ますとき、「わたしがついているよ」という声掛けをしますよね。それは、「心のなかにいる」ということ。子供にそう思われるような関わり方が親のサポートの本質です。

まずは「そばでニコニコする」のを忘れずに。そのためには、親自身がリラックスしていることが肝心です。子供の全存在(あるがまま)を受け入れて、ゆったりとした構えでコミュニケーションをとればよいのです。中学受験は大学受験や高校受験と違って、結果がともなわなくても進学先が決まります。合否だけに固執することなく、おおらかに子供の成長を見守りましょう。


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。「一家にひとり、一課にひとりのコミュニティ・カウンセラー」を育てることを目標としている。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。