
子どもがかんしゃくを起こしたときの対処法―― 親子のノリノリ試行錯誤で、子供は伸びる
こんにちは。中学受験専門塾 伸学会代表の菊池です。
「お母さん(お父さん)なんてイヤ!あっち行け!」
そんな風に言われたときにはどうしたら良いでしょうか?
いったん従った方がよいでしょうか?
そんなご質問をいただきましたので、今日はこうした子どもがかんしゃくを起こしたときの対処法についてお話しようと思います。
小学生にもなると、物を投げたり、ゆかに寝そべって暴れたりするようなことは少なくなっていくものですが、それでも子どもが感情的にわめくことはあるものです。
例えば、子どもがゲームばかりしていて勉強をしないのでゲームを没収したら泣きわめいた……なんてのはよく聞く話です。
他にも、勉強を見ていて、間違いを指摘したら怒りだしたなんてのもありますね。
こうしたときにはどう対応したら良いのでしょうか?
Contents
「叱り飛ばす」はご法度
まず、やってはいけないのは、子どもを叱り飛ばすこと。
親からすると、そうした子どもの問題行動に対して怒りの感情が湧いてくることもあると思いますが、叱ることで余計にかんしゃくが酷くなり、状況が悪化することもあります。
仮に叱ることで子どもが静かになったとしても、それは子どもが成長したということではありません。
ただ怖いから静かになっただけです。
感情の嵐が吹き荒れているとき、子どもの脳は「学びを受け入れるモード」になっていません。
ですから、残念ながら叱っても子どもの脳はそこから何かを学ぶことはできません。
成長が無いのですから、その後も同じことが起こります。
結果として、私たちは何度も同じことで怒るはめになります。
「またこれか・・・」とうんざりした経験がある親御さんは多いことでしょう。
どうすれば子どもに学ばせることができるのか?
どうすれば失敗を成長のきっかけにできるのか?
その方法を理解してもらうのが今回の記事の目的です。
脳は2階建てになっている
そのためにまずは知っておいて欲しいこと。
それは、「子どもの脳はまだ建設中」だということです。
子どもの脳は産まれた段階ではまだ完成には程遠く、長い年月をかけて変化していきます。
私たちの脳は、進化の過程で、原始的な生物の脳から人間の脳へと徐々に大きくなってきました。
そうした経緯から、人間の脳の中には、原始的な部分と人間的な部分がそれぞれ別の機能を担いながら存在しています。
1階の脳のはたらき
脳の下方、中心部にある「1階の脳」は「爬虫類の脳」とも言われ、人間の一番基本的な神経・精神活動を行っています。
強い感情、呼吸や睡眠や覚醒のサイクルの調節、消化の調節などです。
1階の脳は外敵に襲われるという緊急事態に備えて、小さいときから十分に機能しています。
そして、何かあると急な反応に備えて素早く動きます。
緊急事態ですから、じっくり考えたりはしません。
体の筋肉を、走って逃げたり、戦ったりするために緊張状態におきます。
これは「逃走・闘争反応」と呼ばれます。
試合や試験のときに緊張して頭が真っ白になったりするのも、実は脳が「緊急事態だ」と判断して反応しているということなのです。
2階の脳のはたらき
それに対して、脳の上方、外側にあるのが「2階の脳」です。
こちらは意味のある人生をおくり、健全な人間関係を楽しむための“思考”や“感情”や“人付き合いの方法”など、様々なスキルを担っています。
「適切な判断をすること」
「計画を立てて実行すること」
「自分を振り返って見つめること」
「感情と行動をコントロールすること」
「思いやりをもって他者に接すること」
例に挙げたような、まさに子どもに身につけさせたい能力を担っているのが「2階の脳」です。
こうした複雑なことをじっくり考えられる「2階の脳」は、産まれたときには未発達で、幼児期と小児期のあいだに育ち始めます。
そして、どのようなことを経験するかで育ち方が変わっていきます。
脳は経験によって物理的・肉体的に変わるのです。
1階・2階に分かれた脳の仕組み、そしてそれぞれの脳の鍛え方については、こちらの記事でも詳しく解説しています。ぜひ読んでみてください。
子どものかんしゃくを脳の成長につなげる3ステップ
子どもがかんしゃくを起こしているとき、脳の中では2階の脳がオフラインとなり、1階の脳が活発に動いています。
悔しさ、悲しさ、怒り、恥ずかしさ、失望感など、子どもの心の中ではいろいろなネガティブな感情が暴れています。
この暴れる1階の脳を落ち着かせ、2階の脳の理性的な働きを引き出すことが、私たち大人がかんしゃくを起こしている子どもに対してするべきことです。
そうした経験を積み重ねるほどに、子どもの脳は成長をし、1階の脳を鎮めて2階の脳を働かせるのが上手になっていきます。
この章では、かんしゃくを通じて脳の成長をうながす具体的な方法をお伝えしましょう。
端的にまとめると、「つながり」を作ることです。
ここでの「つながり」という言葉には3つの意味が込められています。
1つめは、子どもとあなたとの間で心の「つながり」を作ること
2つめは、子どもに自分の行動と起こった結果との「つながり」を理解させ、受け入れさせること
3つめは、子どもの脳内の神経ネットワークの「つながり」を、文字通り肉体的な意味で作ること
STEP1.親子間の心の「つながり」をつくる
まず最初にすべきことが、子どもの気持ちを落ち着けることです。
そのために、子どもと親御さんとの間で心の「つながり」を作りましょう。
この1つ目の「つながり」を作る基本的な方法は、子どもの声に耳を傾け、共感をたくさん示すことです。
子どもの言うことを復唱するのも、ちゃんと聞いていることを伝えて安心させるための効果的なテクニックです。
そうやって子どもに寄り添い、行動の裏にある気持ちや考えを理解しようと努めましょう。
親や周囲の人間が「自分」を受け入れていると感じ、相手が「自分の気持ち」をわかってくれていると感じられれば、「自分の行動」が受け入れられていないとわかっても、子どもは落ち着きを取り戻すことができます。
「あなたの行動」は許せないが、「あなたの気持ち」はわかるし、だから「あなた」のことは許していると伝えましょう。
また、スキンシップも、親が子どもとつながる最も有効な方法の1つです。
愛情をこめてふれることで、オキシトシンなどの気分が落ち着くホルモンが脳や体に放出され、コルチゾールのようなストレスホルモンの量が減ります。
頭をなでたり背中をさすったりしてあげることで、泣きわめいていた子どもが落ち着いたという経験は、親ならきっと何度もありますよね?
子どもが混乱しているとき、すなわち2階の脳が止まって1階の脳が暴れているときでも、愛情をこめてふれることで、状況を落ち着かせて「つながり」を作っていくことができるかもしれません。
そうして1つ目の心の「つながり」ができれば、1階の脳が落ち着き、2階の脳が働きだします。
すると、教えに耳を傾けて学び、自分で良い判断ができるようになっていきます。
つまり、2つ目の「つながり」を作る準備が整うのです。
STEP2.事実を共有し、理想を問いかける
子どもに何か言って聞かせるのはこのタイミングです。
理性的な2階の脳が働きだしたタイミングで、客観的な事実を伝えて共有し、理想の状態を聞き、なぜ良くない状態になってしまったのか、理想の状態に近づくために今後どうしたら良いと思うか、を問いかけましょう。
そうすれば子どもは教訓を得て成長します。
何度も同じ失敗を繰り返し、何度も同じことで叱らなければいけないという事態を避けることができます。
そして、相談にあるように、「お母さん(お父さん)なんてイヤ!あっち行け!」と子どもが言う場合には、それは1つ目の「心のつながり」を作るのに失敗したというサインです。
子どもの1階の脳が落ち着く前に「お説教」をすれば、子どもは「攻撃された」と受け取ります。
攻撃を受ければ、1階の脳の「逃走・闘争反応」が強まります。
「あっち行け!」は、まさに「逃走・闘争反応」らしい発言だと思いませんか?
準備が整っていなかったと気付いたら、1つ目の心のつながり作りからやり直しです。
子どもの気持ちが落ち着くように、お子さんの性格に合わせてサポートをしましょう。
それとあわせて、事後的でも良いので、失敗の原因も分析しておきましょう。
子どもの気持ちに寄り添うことができていなかったのか、それとも落ち着くまでに必要な時間を待てなかったのか。
自分の子どもへの働きかけ方の改善点を探し、次に同じ状況になったらこうしようという方針を決めておきましょう。
そうすれば、次からはもっと上手にアプローチをして、子どもと心のつながりをスムーズに作ることができるようになりますよ。
STEP3.1~2を繰り返すことで脳のコントロール力を磨く
そうやって、1階の脳を抑え、2階の脳を働かせる経験を繰り返していくと、子どもの脳に変化が起こります。
1階の脳と2階の脳をつなぐ神経線維(=3つ目のつながり)が強くなるのです。
そして、原始的な衝動=1階の脳の働きを抑える2階の脳の力が強くなっていきます。
この1階と2階のつながりによって、上下の脳は統合され、前頭前野と呼ばれる脳の重要な部分が活発に働くようになります。
前頭前野は、感情のバランスを取ったり、やるべき行動に注意を傾け集中したり、衝動を抑えたり、他者と共感したりといった、自己コントロールを司っています。
この前頭前野が発達することで、子どもは自己コントロール力を身につけていくのです。
親であれば、子どもにそういった能力を身につけさせたいと思いますよね?
あなたが子どもと心でつながって、子どもに2階の脳を働かせる経験を積ませれば、算数や国語よりもずっとすばらしい能力を子どもに与えることができます。
まとめ
子どもがかんしゃくを起こしたら、まずは1つ目の「つながり」=心のつながりを作りましょう。
話すよりも先に聞くこと。
教えるよりも先に共感を示すこと。
そして、子どもが教えに反発しやすい状態から教えを受け入れられる状態になるまで、じっと待つこと。
すべてはそこから始まります。
そうすれば、2つ目・3つ目の「つながり」に自然とつながっていきます。
もちろん実践することは大変です。
私だって、問題行動を起こす子どもに対して、「いいかげんにしろ!」と怒鳴りたくなることはたくさんあります。
(実際に怒鳴ったことも・・・)
人間は良くも悪くも「共感」してしまいますから、相手の2階の脳がふっとんで1階の脳が活発になり「かんしゃく」を起こしていると、こちらにもそれが伝染してしまいがちなのです。
つまり私たち自身も、2階の脳を働かせられるか、1階の脳と2階の脳がつながっているかが試されているわけです。
時には私たち大人の側が失敗してしまうこともあるでしょう。
でも、失敗しても何度でも再チャレンジできるので大丈夫です。
そして、うまくできるたびに、子どもだけでなく私たち大人の脳も強くなり、もっとうまくできるようになっていきます。
うまくできたときに得られるものはとても大きいです。
子どもの脳が成長し、さらに子どもとのあいだの信頼関係が深まります。
だから、大変ですが、子どもがかんしゃくを起こすようなときは、成長のチャンスと前向きにとらえましょう。
ぜひ、「つながり」作りを心がけて対応してみてくださいね。
※記事の内容は執筆時点のものです
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