連載 中学受験との向き合い方

勉強に必要な時間管理のしかた ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2019年6月14日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

前回は、勉強に向き合う子供に親はどう接するべきかについて解説しました。今回は中学受験における時間管理について⽥中先⽣に伺います。

勉強の時間管理の重要性

何度でも繰り返しますが、中学受験は目的ではなく手段です。中学受験を使って生き抜く力を養うのです。私たちの寿命は有限です。有限な持ち時間をどう管理していくかを中学受験という練習の場を使って学んでほしいと思います。

受験本番までの時間は、どの受験生であっても限られているもの。有限の時間の使い方が結果に影響します。そのためには「1日○時間勉強する」という日単位の時間管理だけでなく、週・月・年単位で勉強時間を考えていく必要があります。

たとえば「4時間勉強するつもりが今日は3時間しか勉強できなかった……」という場合は、週単位の勉強時間のスケールのなかで、未消化の時間をほかの日に組み込んでいけばいいんです。

このように時間のスケールを変えて計画を考え直すことも、人生に大切な「時間を管理するスキル」のひとつです。必ず将来役に立つでしょう。「人生100年時代」といわれる昨今、およそ24時間×365日×100が人間の「持ち時間」です。

では、子供自身が勉強の時間を管理できるようになるためには、どうするべきなのでしょうか。次にその方法と、親の対応をお伝えします。

子供が自分で時間を管理できるようにする方法

まず、「この時間は誰のものか?」の感覚を身に着けさせることです。「自分の時間」という感覚があれば、自分のものである時間を自分で管理することに納得がいくでしょう。もちろん、子供が小さいときは授乳であれ体位交換であれ、親が管理するしかありません。

しかし、子供の発達とともに「子供の管理下」にあるモノゴトが増えていく。やがて一人前になったとき、自分に関わる概ねすべてのモノゴトを自分の管理下に置けるようになります。

10歳なら10歳なりの「自分の管理下」にあるモノゴトがあるはずで、「自分の時間を自分で管理する」練習は、起床、登校、勉強、就寝などの各場面で小学校に入った頃からでも可能です。

子供に勉強時間を軸に時間管理の練習をさせるために親がするべきことは、子供にどういった流れで勉強時間を組み立てればよいのかを気づかせることです。

練習ですから、「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやる」が昔からの王道です。はじめの一週間は親がイニシアティブをとって一緒にプランをつくってそのコツを子供に伝授しましょう。

次の週からは次のサイクルを子供自身が実行することです。

  1. 自分で計画させてみる(P)
  2. 実行させる(Do)
  3. 振り返る(See)

3の「振り返り」は、できたところや、うまくいかなくても頑張ったところを親がほめてあげる、何にどれくらいの時間を要したかを確認する、同時に計画どおりにいかなかったところなどの改良点を考えさせ、次の週の計画立案に活かしてもらう過程です。

このようにPDSサイクルを体験学習に用いていけば次第に「自分の時間を自分で管理する」ことが上達していくでしょう。

親は前に出すぎない。子供を見守るのも大事な役目

注意したいのは、子供が試行錯誤をくり返しながら頑張っているときに、「それじゃあダメじゃないの!」と否定したり「そろそろ勉強する時間でしょ?」と急かしたりすることです。

こうしたネガティブな言葉は「自分には無理だ」という意識を植えつけることになります。またそれ以上に有毒なのは子供が「この時間管理は誰のことか?」がわからなくなってしまうことです。

親は子供より前に出すぎてはいけません。子供が自ら動き出すまでじっと待ちましょう。勉強に対して少しでも自発的・前向きな気持ちが出ているのが読み取れたら、すぐにほめてください。そうするといい気持ちで勉強に取り組むことができるでしょう。そういう瞬間を親は見逃さないことです。

勉強で必要なことは、勉強時間の質を上げること

勉強の時間管理の振り返りで気をつけてほしいのは、勉強時間だけでは学習の質と量は測れないということです。技術であれ知識であれ、行動したことによって、なにを吸収してどんな変化が起きたのかが重要です。

たとえば、「1日5時間勉強する」と時間設定しても、集中力がかけたまま勉強した場合と、ずっと集中しながら勉強した場合とでは、得るものはまるで違うはずです。その時間内の勉強でどれだけ気づいたことがあるか、どれだけ暗記ができたのか、計算の練習ができたのか。取り組んだ時間だけを重視するのではなく、取り組んだ時間の中身(質)も大切なのです。

質と量が伴ってこそ、勉強時間が勉強時間としての価値を持つのです。

親子での対話を糸口に、時間の質を保つ

時間の質は、時間の経過とともに落ちていく傾向にあります。こういった時間の質を落とさないためには、「心身を休めること」。これは以前の記事でも紹介しましたね。そのときに話した「効率」と「時間の質」は同じ関係にあります。

「はかどらなくなってきたな」と感じたら、まず良質の休息をとる(Rest)。さらに甘いものを食べる、顔を洗う、場合によっては軽い運動をするなどのリセット(Refresh)をして、そのあとの時間の質を高めればいいんです。

ただし、最初のうちは子供自身で質が下がっていることに気づかないことがあります。そうした場合、「子供の疲労度を測るよい方法」では、親が子供の勉強に付き添っているときに、グラフを使って聞いてみることで子供の状態を確認していました。

もしお子さんがひとりで勉強するようになったのであれば、定期的に親子での対話を取り入れて、問題がないかを確認しましょう。たとえば、以下のような流れがよいですね。

「今日の勉強はどうだった? ご飯の前後に勉強したけれど、どちらの時間も集中してできた?」

「晩ご飯の前はけっこう頑張れたけど、お腹いっぱいになると眠くてスピードが落ちた気がする」

「明日同じようなことが起きたらどうする?」

「うーん、ちょっと顔でも洗おうかな。無理ならご飯前に勉強する時間を多くしてみる」

「たしかに顔を洗えば、気分もさっぱりするかもしれないね。また明日どうだったか教えてね」

このようにすることで、本人が自分で発想し行動することができます。自分で考えた対策が合っていると思うなら続ければよいし、合わないと感じたら再び改善すればよいでしょう。

子供から行動案が出なかったときや、悩んでいるときは「ひとつ提案なんだけどさ……」と親から切り出してみるのもいいですね。

子供は「自分で持っている知識の中にないもの」を出されれば、それを吟味することができる。子供の心の中の道具箱もそれで豊かになります。こうした過程で育まれる当事者意識というのは、受験の合否にかかわらず一生の宝になるでしょう。

試験当日の時間配分を考えるには、“ゆとり”が必要

試験問題は時間が足りなくなるようにつくってあるのが基本です。できるだけ自分の100%の力を発揮するには、はじめに問題全体を見渡して、どこから解いていくのが高得点に結びつくかを戦略的に考えていく必要があります。そのためにも、ある程度の脳に“ゆとり”が必要です。

ゆとりをつくるには、しっかりと体を休めること、不要なストレスをかけないこと、試験直前のリラクセーションです。すっきりさわやかなコンディションで試験に臨めば、限られた時間のなかで本来のパフォーマンスを発揮できるでしょう。

時間が足りなかったとしても、ネガティブになる必要はありません。大事なのは、持ち時間のなかで持っているものを十分に表現できたのかということ。翌日以降の試験で慌ててミスを犯すことなどがないように、気持ちを切り替えましょう。

受験勉強は効率よく時間を使うためのトレーニングでもある

「受験本番まであと○日」という意識は、残り時間が少なくなればなるほど、どんどん強くなっていきます。

これは子供以上に親が神経質になることが問題かもしれません。親の時間切迫感によってイライラが高じ、焦って子供を叱る → 怒られたからしょうがなく勉強する。こういったサイクルでは、子供が成長する糧にはなりにくいもの。勉強時間の質も下がるし、子供の考える力も奪ってしまいかねません。

繰り返しますが、「子供の時間は子供が管理する」ものなのです。子供=他人ですから他人様のモノゴトに口出しをする際にはそれなりの礼節が必要です。

受験勉強は、合格するためだけの勉強ではなく、効率的に時間を使うためのトレーニングにもなります。それを身につけるためには、子供自身が時間の使い方について悩み、考え抜いて、自分なりの方法を確立していくのがベストです。

受験が終わったときに「学びが多い受験だった」「成長を感じられる時間だった」と子供自身が感じられるような対話を心がけていきましょう。次回は「受験直前期の過ごし方」についてお話しします。

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。「一家にひとり、一課にひとりのコミュニティ・カウンセラー」を育てることを目標としている。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。

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