連載 中学受験との向き合い方

受験生をサポートできる家族のあり方 ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2020年1月24日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

今回は「親子」の関係性から少しだけ裾野を広げて、「家族」という関係性から中学受験を考えてみましょう。中学受験をキッカケに家族の絆を深めるための考え方や、家族でできるサポートについて解説します。

家族同士が無関心になることを防ぐ

かつてノーベル平和賞を受賞したユダヤ人作家・エリー=ウィーゼル氏が、「愛の反対は憎悪ではなく、無関心である」と言っていたことがあります。家族がチームとしてうまく機能していない場合、親も子もお互いが無関心でいることが多いです。

無関心になってしまう理由として、家庭内で起きた衝突や問題をきちんと解決せずに放っておくことが挙げられます。怒りや憎悪を放置することは、いつしかその感情を通り越して、相手に対して無関心になってしまうからです。

また、子供は「自分は関心を持たれる値打ちがない存在」という認識を一度持ってしまうと、自己肯定感が下がり、そのまま上がらなくなってしまいます。そうならないためには、問題事が起きたら早急に解決に向かおうとする姿勢が必要です。

問題事が起きたら早急に解決にむけて取り組む

家族内で衝突や不和が生じると、家の中に不穏な空気が漂います。こうした毒の混じった空気(“気の毒”)は、あまり長い間吸わない方が賢明です。こういったときに、家庭内の空気を正常にするのは大人の役割。「今、空気が悪いな……」と感じたならば、大人が積極的に家内の空気清浄すなわち解決の方向に働きかけることが必要です。たとえば、「あのとき、あなたが○○と言ってきておかあさんはとても悲しく思ったんだよ。どうしてそういうことを言ってきたのか、そのときの気持ちを聞かせてほしいな」というように、自分の気持ちを伝えながら子供の意見にも耳を傾ける姿勢を見せるべきです。

また、親が子供に対して言いすぎてしまった場合は、親の側からすみやかに謝る姿勢も大事です。もし当事者同士で解決の糸口が見つからないときは、それ以外の大人が間に入ってもいいでしょう。

避けてほしいことは「あいつと話してもしょうがない」「もうどうしようもない」など、勝手に見切りをつけるような気持ちを持ってしまうことです。そうした気持ちを、子供は敏感に感じ取ります。前述で「愛の反対は無関心である」と述べましたが、お互いに関心を持ち、関わり合うことを諦めないことで、家族のつながりは保たれると私は思っています。どんなに納得ができないことで衝突をしても、しっかりと話し合う姿勢を持ちましょう。ケアについては、何度も取り上げますが、I don’t care. とは「気にかけない」ことであり、それは即、傷や痛みを放置することに繋がります。

家族はいつでも心の安全地帯

  • 家に帰れば誰かが「おかえりなさい」と言ってくれる
  • 疲れたときに体や心を休められる
  • 不安や心配事があったときに話を聞いてくれる
  • 励ましやサポートが手に入れられる

上記は、家族という組織が心の安全地帯になるための条件の一部です。これらの条件が当てはまると、そこは居心地が良く、養生できる環境であると考えられます。それは家族だけでなく、ホームルーム(教室)、ホームタウン、ホームオフィス(会社)などでも同じこと。こうした空間にいる人間は、何かに対して積極的にチャレンジができるし、ギリギリのところまで挑戦してみようという気持ちになりやすいです。逆にホームルームが安全でない時、子どもは不登校という形で自主避難するしかなくなります。さらに困ったことに、ホームが安全でない(=家内不安全)時は、人は行き場を失い、あの世に安らぎを求めてしまう場合すらあります。

「失敗しても誰かが必ず支えてくれる」という安心感があるからこそ、目標に向かって大胆に邁進できるのです。では、家族が丈夫で範囲の広いセーフティネットになるためには、どうしたらいいのでしょうか。

役割を固定せず、家族一人ひとりに合ったサポート方法を見つける

目標に向かって大胆に邁進できるのは、道中で転げ落ちてしまっても「家族が必ず支えてくれるはず」という想いがあるからです。家族全員が丈夫で範囲の広いセーフティネットになるためには「父親は父親らしく」「母親は母親らしく」というように役割を固定しないことが大切です。家族というのは個性を持った人間が集まった組織ですから、それぞれにやりやすい支援の方法があります。

たとえば、弟であっても「お兄ちゃん、今日は疲れたよね」と労ったり励ましたりするような声掛けをしてもいいのです。美味しい料理をつくって子供の気持ちをねぎらう役割がお父さんであってもいい。固定観念を捨てて、自分に合ったサポート方法を見つけるのがいいでしょう。大切なのは、家族の一人一人が安全地帯をつくる当事者、すなわちピースメーカーとしての自覚を持つことです。

片親や家族全員が揃いにくい境遇の場合

片親であったり、父親が単身赴任だったり、親が帰宅するのはいつも夜遅くだったりと、家族全員が揃う時間がなかなかない家庭もあると思います。物理的にその人が家のなかにいるかいないかという点も重要ですが、それ以上に重要なのは、家族みんなの心の中にその人がどう存在しているかどうかです。

「お父さん、今頃どうしているかな?」
「こんなとき、お母さんならなんて言うかな?」

というように、家族会話内に不在メンバーを登場させて、存在を確認し合うようなことはとても大事です。これを普段から自然とできている家庭は絆が強く、心理的に丈夫であることが多いです。私はかつて出稼ぎが常態化した地域で調査し、このことを確認しました。

弟や妹が受験勉強の邪魔をしてしまう場合

受験勉強に励むお兄ちゃんに、「一緒に遊ぼうよ」と声をかけてしまう弟や妹もいるかもしれません。こうしたケースが起きたときには、ただ弟や妹を叱りつけるのではなく、“教育のチャンス”ととらえてみましょう。

おすすめしたい声掛けは、「お兄(姉)ちゃんの身になって考えてみて? 今、どんな気持ちだと思う?」。こうした言葉を受けると、子供なりに兄や姉の気持ちを想像するものです。これは、相手の身になって考えるトレーニングにもなります。相手の気持ちを思いやる姿勢をうながすことで、家族間にも心遣いや気遣いが生まれる。そうして精神的にも成長できた弟や妹は、家のセーフティネットの一員として、受験生を支えてくれることでしょう。

自宅を癒やしの場として機能させる

家族の形態はさまざまですが、大切なのはそれぞれが役割にとらわれずに、あるがままに構えること。そして、誰かが不在であってもその人に関心を持ち続けることが大事です。

中学受験は思うように成績が上がらなかったり、残り少ない日数を意識して焦ってしまったりと、気持ちが不安定になりがちです。しかし自宅が心の安全地帯、つまり「癒やしの場」として機能していれば、そうしたネガティブな気持ちを軽減することができるはずです。お互いに思いやりを持って温かく接することを心がけましょう。


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。「一家にひとり、一課にひとりのコミュニティ・カウンセラー」を育てることを目標としている。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。

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