連載 中学受験との向き合い方

スマホやゲームなどの誘惑との向き合い方 ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2020年2月10日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

スマホやゲーム、テレビなど、受験生を魅了するアイテムがあります。それらに夢中になり過ぎてしまうと、勉強はおろか寝不足などで日常生活に支障をきたすこともあります。これらの誘惑とどのように向き合っていくべきかを解説します。

誘惑を攻略するうえで知っておきたいこと

ゲームやテレビ番組は子どもだけなく、大人までも夢中にさせてしまうことがあります。まずはその原因について考えてみましょう。

① その手に乗らない ―― ゲームやテレビ番組は“魅惑する”ように作られていると心得よ

ゲームは一段階クリアすると次のステップに進めるという「達成感」 (快感)を上手に仕込んであります。だからやめられなくなるし、やめられなくなることが制作者側の狙いなのです。次へ次へと誘う仕掛けが、巧みに仕組まれています。テレビ番組を制作する側にとっては視聴率がとても大切な指標です。多くのテレビ番組が「見せる」(魅せる)ように工夫されていますよね。

② その手をいただく ―― 学びを“魅惑する”ようにアレンジする

たとえば目標達成スキルを最大限に活用します。達成可能で、具体的、どこまで進んだか認識可能…。そんな目標を日課として立てて、一日一日「達成した」という快感を得られるようにアレンジします。一日という時間内にできることには限界があります。ならば、その限界の”界”を視覚化して、界に達したかどうかを認識できるようにすれば「達成した」実感が得られやすくなります。これは快感ですから、やめられなくなくなるかも知れません。

子供自らが目標をつくり、ふりかえりをする

受験勉強に集中してもらうために、親御さんがゲームを子供の手が届かないところに隠す、スマートフォンを回収する、「勉強が終わるまでテレビを見るのはやめよう」と一家総員で我慢をする、ということがあります。しかし当人の考えが反映されていない取り決めだと、かえって子供の反発を招くなど、逆効果になることがあります。子供は親から「私はあなたを信頼していない」というメッセージを受け取った気持ちになりかねません。もしもそうなると、子供から親への信頼も“値引き”されてしまうでしょう。まずはお子さん自身の力で抑制できるようにすることです。そのためには、自分の「やりたいこと」と「やるべきこと」を分別して、行動の目標をつくる必要があります。

目標設定はセルフ・コントロールの力を育てる第一歩

たとえば1日3~4時間ゲームをやっていた子が、いきなり親御さんから「今日からゲームは1日1時間だけにしよう」と言われても納得できないと思います。自分で納得して決めた目標ではないため、自己制御(セルフ・コントロール)の力が育たないばかりか、抑圧されていると感じてストレスもたまりがちになってしまいます。

そうならないために、まずは1日のすべき勉強時間を子供自身に確認してもらってください。そのうえでどのくらいの時間好きなことができるのかを考え、目標をつくってもらいます。その結果もし仮に、お子さん自身が「ゲームは1日1時間にする」としたのであれば、親御さんから言われたときよりも目標の効力は強いはずです。

親子でフィードバック。子供自身が成長を実感

目標をつくったら実行します。しかし、子供の意思だけで最初から100%コントロールできるのは稀でしょう。したがって、定期的に親子でふりかえりの時間を持つようにします。うまくいかなかったときに親御さんがやってしまいがちなのが、「自分で決めたことなのに、なんでできないの!?」といった「なんで?」で威圧する言動です。そうではなく、まず「誘惑に負けてしまったときに気持ちの中でどんなことが起きていたの?」「我慢できたときには何を考えていたの?」などフラットな目線で語り掛け、子供の気持ちを聴くことです。

子供の心の中にも天秤があって、「宿題を終わらせなくちゃいけない。でもゲームがしたい」という葛藤があったかもしれません。そうした想いを言語化させてみることです(絵が描くのが好きなお子さんなら、そのときの自分の気持ちを絵で表現・視覚化してみるのもいいかもしれません)。自分の気持ちを表現して、客観視してもらいます。

そのうえで、今度同じことが起きたときにどうするかを話し合ってみてください。その際も親は話すことよりも、子供の話を否定せずによく聴くことに意識を傾けます。親がリードしてルールを決めるのではなく、子供に考えてもらうことです。どうしても、子供から意見が出てこない場合は、親が「たとえば、提案なんだけれどね…」と、エクスキューズのひと言を挟んで、提案してみてもよいでしょう。

もしも自分で定めた目標を守れたり、以前よりも目標に近づいているのであれば、その子の成長で祝福に値します。「自分で決まりをつくり、それを守れた」という自信と、自分をコントロールする力が身についたことを実感できるはずです。この力が備わっていれば、「ゲームがしたい」「スマホを触りたい」という自分の気持ちをセーブして、自分のやるべきことを優先的に取り組めるようになります。また、別の誘惑が出てきたとしても、お子さん自身で制御できるようになっていくことでしょう。

子供が夢中になるものを、親が受け入れる姿勢を持つ

スマホやゲーム、漫画など子供が夢中になるものはたくさんあります。これらを趣味として楽しむ子供も多いですが、大人は勉強時間を奪う「悪いもの」と判断しがちです。しかし、自分の好きなものを否定されれば、誰だって悲しいもの。前項で説明したとおり、子供が夢中になるもの(子供の誘惑になるもの)であっても、セルフ・コントロールの力を身につける助けにもなります。また、親御さんの向き合い方によっては、セルフ・コントロール以外の面でも子供の成長を育む機会になりえます。

子供の「教える」姿勢

ゲームやスマートフォンなど、時代の流れとともに新しいものがどんどんつくられていきます。親がそれらをすべてフォローしていくのは困難ですし、子供よりも知識が長けている必要はありません。親御さんにしてもらいたいのは、子供が夢中になっているものに対して関心を持ち、「私も知りたい」といった姿勢を見せることです。

たとえば、面白そうな漫画を見つけたら、漫画好きなお子さんにどんな漫画なのか聞いてみるのもいいでしょう。子供の立場からすれば、自分が好きなものに親がプラスの感情を持っている、という気持ちになるのは嬉しいはずです。好きなものを少しでも知ってほしいという気持ちから、子供は一生懸命教えてくれることでしょう。

ゲームや漫画などに限らず、「教える」という姿勢を早い段階から身につけることは、お子さんの今後の人生に役立つ財産となります。緻密なデータはないのですが、東大生のなかには、幼いころに親に何かを教えるという経験をした人が多いそうです。ひとに何かを教えるためには、自分の頭の中で知識を整理する必要があります。そのうえで、違った考え方を持つ他人に、動作・操作・知識を伝えなければなりません。このように、教えるという行為はとても複雑な営みなのです。

子供が好きなものを受け入れる姿勢を見せることは、親子で同じ時間を共有する喜びを感じつつ、お子さん自身のコミュニケーションスキルを磨き、知識を定着させるためのプロセスを体得できるチャンスといえます。

誘惑のなかにも、得られる財産はたくさんある

子供を夢中にさせるさまざまな誘惑は、一歩引いて見てみると決して悪い面ばかりではありません。自制心を持ってかかわることができれば、学びを得られることもあるでしょう。また、「やりたいことを我慢する」「やりたくないことを我慢してやる」という姿勢は、受験によって身につく一生ものの財産です。ぜひ親子でセルフ・コントロールにチャレンジしてみてください。


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。「一家にひとり、一課にひとりのコミュニティ・カウンセラー」を育てることを目標としている。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。

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