2020年中学入試動向と、コロナショックが中学受験にもたらす影響|親子のための、「探究」する中学受験
学校生活の節目となる春。世界を巻き込むコロナショックによって想定外の新生活を迎えている方が多いことでしょう。2020年の入試動向の振り返りとともに、今後の中学受験界・保護者への影響について、大手進学塾を経て探究塾を主宰する矢萩邦彦先生に聞きました。
2020年 首都圏中学入試の動向
各校の出題内容を分析してみると、いわゆる難関校と中堅校で傾向が分かれたと考えています。
難関校はリベラルアーツ的な、教科を越境し「さまざまな分野の情報を活用した思考力を問う」出題が、「やや増加」しました。なぜ「やや増加」かというと、難関校ではいままでもこうした問題を出していたからです。教科の知識だけを問うのではなく、その知識を使って考えさせるような出題は例年ありました。2020年はそれがより増えた、ということです。
一方、中堅校では「潜在的な可能性を評価する」学校が増えました。潜在的な可能性を評価するとは、前提となる知識がなくても答えられる問題です。たとえば以下のような問題です。
もし、あなたが武田信玄のように大雨による水害の多い地方を治めるとしたら、どのようなことをしますか
武田信玄がどんな人物で何をしたか、知識がなくてもその場で考えて解くことができます。今知識があるかどうかではなく、課題に対しどのようなアプローチをするのか、視点はどうなのか、を問うのです。
いわゆる思考力型入試やアクティブラーニング型入試、21世紀型入試、特殊入試などといわれる入試は、ほぼこの傾向です。
タイプは違えど、難関校・中堅校共に思考力型の出題が増えたことに関連して、国語と算数の難易度にも変化がありました。思考力型入試で試されるのは知識量や解答スキルではないため、いわゆる中学受験算数で訓練するような難問を増やす必要はありません。その結果、2020年入試の算数は易化傾向にあったと思います。
対して国語は難化傾向でした。知識の詰め込みでは答えられない、潜在的な可能性を評価する問題を作りやすいこともあると思いますが、問題自体の難易度というよりも、問題文やテーマの難易度が上がった印象です。今年受験者数が伸びた学校は、こうした思考力型入試を取り入れていたところが多い結果となりました。
特徴的だった「算数選抜」入試の人気のワケ
従来の中学受験界では、算数の得意な子が入試に強いという傾向がありました。そのため塾業界も算数スキルの強化に力を入れてきたという背景があります。
ところが思考力型の入試では、算数が得意な子が強みを活かせなくなりがちです。そこで、算数が得意な子たちが流れて人気となったのが「算数選抜」という入試です。算数1教科試験ということですね。10〜20人程度の少人数枠ですが、算数で勝負したいという子にはマッチします。
以前から存在していた算数選抜ですが、今年は実施する学校が増えました。さらに、今までにはほとんどなかった女子校での算数選抜が行われたのも特徴的だったといえます。比較的男子の方が算数が得意な子が多く、算数選抜も男子校や共学校での実施が多かったのです。この変化は、従来と入試傾向が変わってきたという一つの指標になっていると思います。
中学受験の目的はさらに二極化する
2020年入試が終わった頃から日本社会もどんどんコロナショックの渦に巻き込まれてきました。次世代の教育のテーマにある「正解のない問いに向き合える力」が試される状況に、図らずもなってしまいました。
雇用や経営の不安などが話題になるなか、中学受験に挑戦するマインドも少なからず変化するでしょう。私としては今後中学受験の目的はより二極化すると考えます。
探究型の学びが広がってきた昨今ですが、このコロナショックを受けたいま、「やはり安定した大手に就職が一番安全」という従来型の思考に戻る保護者の方も増えるのではないかと思います。一方、「どんなに社会が変わろうと対応できる力が本当に必要だ」という考えもより強くなることが予想できます。親も学校も、従来型の安定思考か、探究的なチャレンジ思考か、この二つの傾向がより明確に分かれてくるような気がします。
みなさんはいかがでしょうか? 子どもたちのために最適な学びとは何か。今一度、本気で考えておきたいですね。
これまでの記事はこちら『親子のための、「探究」する中学受験』
※記事の内容は執筆時点のものです
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