連載 親子のための、「探究」する中学受験

偏差値の見方2 「脱・偏差値偏重」のススメ|親子のための、「探究」する中学受験

専門家・プロ
2020年2月20日 中学受験ナビ 編集部

変化の激しい時代でも活躍できる人材を育成するために始まっている教育改革。「思考力・判断力・表現力」が重要だとする方針で注目が集まっているのが「探究型学習」や「アクティブ・ラーニング」です。とはいえ中学受験にはどんな影響があり、どう対応していけばよいのか、不安や疑問を感じる方も多いのではないでしょうか。この連載では、「探究×受験」を20年以上実践している知窓学舎の塾長矢萩邦彦先生に、次代をみすえた中学受験への臨み方についてうかがいます。

前回の記事「偏差値の見方1」で偏差値偏重の価値観から抜け出そうとお伝えしました。とはいえ、偏差値の存在価値が非常に大きかった時代を生きてきた親世代であればあるほど、なかなか難しいことでもあります。どうしたら、偏差値にとらわれることから脱出できるか、意識の持ち方や大切な視点について矢萩先生に聞きました。

偏差値よりも、成長ポイントが重要

僕が20年以上前から探究型の学びを推奨している理由は、「学ぶ」ということの本質に近いと考えているからです。学びの目的とは、ひと言でいえば「豊かに生きること」ではないでしょうか。だとすれば、個性を活かし、個人の興味関心を軸にする探究型の学びが、理想的な姿だと思うわけです。

わが子に「勉強してほしい」「賢くなってほしい」と願うのは親の常ですが、それはなぜかといえば、自立して豊かな人生を歩んでほしいからですよね。しかし、その願いは非常に抽象的なもので、決められた「正解」はありません。となると、つい目に見えてわかりやすいものにすがってしまいたくなる。「いい学校に入る」「いい企業に就職する」などはその最たるものでしょう。

偏差値も同じです。一指標でしかない数字なのに、子どもの成長を測る強力な評価軸になってしまう。それはおかしいことなんです。知らなかったことを知った、以前はできなかった問題が解けるようになった、間違った問題を振り返って理解し納得できた、そういう体験があるなら子どもは必ず成長しています。その成長が志望校合格点に達しているかいないかなどは最優先事項ではありません。成長した点をまずはしっかり認知して欲しい。そこから対話的な学びははじまります。

偏差値を見るまえに、子どもが自分の成長を実感できているか、そこを注意深く見てみてください。偏差値が下がったことだけを指摘して落ち込ませるのではなく、以前と比べてアップデートした点はどこかを気づかせてあげるほうが、学習意欲は向上します。

中学受験をする子どもたちは、年齢的にも親の影響が非常に大きいものです。親の意識の持ちようで、子どもの価値観や意欲も左右されやすいからこそ、親は「豊かに生きるため」という学びの目的を忘れてはいけません。その目的にプラスにならないような中学受験ならやらないほうがいい。学ぶ楽しさや、自分がアップデートされていく喜びを感じられていればこその中学受験ですから。

模試の結果が返ってきたら偏差値をまず見る、その行動を変えることから始めてみましょう。偏差値について語るより、子どもと一緒に内容を振り返り、反省点や達成感について語るほうが、何倍も成長のためにプラスになると思います。重要なのは偏差値ではなく、「子どもの成長ポイント」。これは必ず覚えておいてほしいです。

模試は、偏差値「だけ」見なくていい

偏差値偏重の価値観がいまだ消えずにある一方、探究型の学びを支持する保護者の方も非常に増えています。新たな価値観が増えるのは歓迎すべきことですが、一種のトレンドになってしまうと、本質の理解が追い付かないまま、上滑りの知識や体験だけが広がってしまうという懸念もあります。

探究型学習に目覚め、「探究! 探究!」と言っていたはずのお母さんが、中学受験をすることになったとたん偏差値偏重主義に陥ってしまうというようなこともめずらしくありません。探究型がいいなあと思っていても、子どもの成長に注目したいなあと思っていても、模試の結果を見ると偏差値に目がいってしまう人は本当に多いのです。

いっそ、模試は受けていいから「偏差値だけは見ない」くらいの気持ちでいいと思います。模試を受けること自体は意味があります。自分の中で「ここはできた・できなかった」「知らなかったことを知れた」「好きな問題あった」など振り返ることができますし、自分と相性のいい問題を探ることもできます。

〇×をつけて振り返ることなどは、探究的にも大事です。「苦手だと思っていたけれど違った」などの発見があるかもしれません。こうした点をふまえれば、模試は自分のアップデートを実感するためのよい機会になり、モチベーションを高めるためのツールにできます。ところが偏差値だけが、モチベーションをダウンさせる要素なわけです。「なんとなく」ではなく、本心から「偏差値は重要ではない!」と親が思うことは、非常に大切なことだと思います。

目的は「合格すること」ではなく、わが子が「自立して豊かな人生を歩むこと」です。絶対的な正解などなく、子どもの数だけ道があることを今一度かみしめて、目先の偏差値で子どもの可能性を邪魔しない覚悟を持ちたいものです。


これまでの記事はこちら『親子のための、「探究」する中学受験

※記事の内容は執筆時点のものです

矢萩邦彦
矢萩邦彦 専門家・プロ

実践教育ジャーナリスト・知窓学舎塾長・株式会社スタディオアフタモード代表取締役CEO・教養の未来研究所所長。1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場で「パラレルキャリア×プレイングマネージャ」としてのキャリアを積む探究型学習・想像力開発・パラレルキャリアの第一人者。15000人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした統合型学習塾『知窓学舎』を運営。「現場で授業を担当し続けること」をモットーに、実践教育ジャーナリスト・教育カウンセラー・探究学習コンサルタントとしても活動している。グローバルビジネス学会・日本アクティブ・ラーニング学会・日本産業カウンセリング学会・キャリアコンサルティング技能士会所属。著書に『中学受験を考えた時に読む本』(編集著:洋泉社)、『先生、この「問題」教えられますか?』 (石川一郎・矢萩邦彦著:洋泉社)など。Yahoo!ニュースで『越境ウォーカー』を連載中。

中学受験を考えた時に読む本先生、この「問題」教えられますか?