連載 親子のための、「探究」する中学受験

子どもの「やる気」を育てる親のアクションとは|親子のための、「探究」する中学受験

専門家・プロ
2020年6月02日 中学受験ナビ 編集部

変化の激しい時代でも活躍できる人材を育成するために始まっている教育改革。「思考力・判断力・表現力」が重要だとする方針で注目が集まっているのが「探究型学習」や「アクティブ・ラーニング」です。とはいえ中学受験にはどんな影響があり、どう対応していけばよいのか、不安や疑問を感じる方も多いのではないでしょうか。この連載では、「探究×受験」を20年以上実践している知窓学舎の塾長矢萩邦彦先生に、次代をみすえた中学受験への臨み方についてうかがいます。

子どもにやる気を持ってほしい! そう思わない親はいないのではないでしょうか。中学受験を控えていればなおさらです。偏差値が下がる、宿題が進まない、事あるごとに気になるわが子の「やる気」問題について、親が持つべき意識とベストな働きかけの視点で矢萩邦彦先生にお話しいただきました。

子どもの「やる気」は、大人の態度や意識の鏡

「うちの子はやる気がない」と言って悩む親御さんは非常に多いものです。この悩みを解消するためには、大前提として以下の2点がとても重要です。

[1]親自身が「やる気」を持って過ごす姿をみせる
[2]自己有用感を高める声がけをする

まず[1]ですが、自分は日ごろから楽しく学んでいるか? と振り返ってみてください。子どもと同じように受験勉強をしろという意味ではありません。仕事のことでも家のことでも趣味のことでもいいのです。自分なりの学びを楽しみ、学んだことを楽しんでアウトプットしていると、それを見ている子どもの知的好奇心ややる気も育っていきます。

モチベーションが低く、愚痴や文句ばかりのネガティブな大人に「やる気を出しなさい」と言われても心に響かないのは想像できますよね。特に思春期にさしかかって反抗心も芽生える小学校高学年から高校生が相手の場合は、なおさらだと覚えておきましょう。

学びによって自分がアップデートすることを楽しんでいる姿。それを親が子どもに見せることは、積極的に物事に取り組む「やる気」を引き出すために、とても大切な土壌なのです。

声がけひとつで、子どものやる気は育つ

次に[2]についてです。やる気というのはそもそも何でしょう。私は、やる気の根源にあるのは「自己有用感」だと考えています。自己有用感とは、自分の存在が周囲に影響を与えていると信じられる感覚のことです。

たとえば、自分がいてもいなくても変わらない教室に1年いたら、と想像してみてください。自分が発言しても反応がない、意見を求められるわけでもない、そんな状況では自己有用感は育ちません。自分の存在が無力だと感じていれば、当然「やる気」も出ないわけです。

この例をそのまま子どもの日常に当てはめてみれば、学校や塾の教室だけでなく、家庭内の環境も自己有用感に影響するのは必至です。そこで重要になるのが家庭内での声がけです。

勉強に限らず日々のすべてにおいて、子どもの発言や行動に対して「応答」することが大切です。命令形や、一方的な主張ではいけません。また、無反応や、てきとうにごまかすことも良くありません。

一度子どものアクションを受け入れたうえで意見を言う、つまり子どもと対話を持つのが大事です。一方的ではない、対話をベースとした応答が返ってくることで、子どもは自己有用感を得ることができます。

私が主宰する知窓学舎でも、子どもたちのアクションにどう応答するかは、授業の核ととらえています。「いまこのテーマに反応したね」「その意見いいね!」「さっきノートみたけどこんなこと書いてたね。あれは俺はこう思うよ」など、一人ひとりの小さなアクションを見逃さずにキャッチするようなイメージです。

対話をするということは「予定調和」ではありません。どんな意見が出るか分からないですし、一人一人感じ方も違うので、展開を完全に予測することも難しいのです。ですから、講師が一方的にしゃべるような講義スタイルに比べると、細やかな対応が必要ですし、労力も伴います。しかし、対話によって授業は深みを増しますし、生徒たちも学びの実感や自己有用感を得やすくなります。

家庭内での声がけも、「対話になる応答」を心掛けてやってみてください。子どものやる気アップのために、今日からでも始められる行動です。

学校や塾と「評価の基準」を変えてみる

また、「やる気が出ない」という子どもにありがちなのが、学校や塾での成績がイマイチで、評価されていないと感じている状態です。こうした場合は、学校や塾とは違う評価基準でその子を見てあげると、自己有用感を高めることが可能です。

違う評価とは、たとえば昆虫のはなしでも、鉄道のはなしでも、教科とはまったく関係ないことでもOKです。「学校や塾では評価されないかもしれないけど、私はいまのあなたの考え方いいと思うよ」とか「その活動おもしろいね」といった声がけでいいのです。

自分の存在が認められる場所が、学校や塾の評価の中だけではないことを知れば、自己有用感は高めることができますし、結果、やる気の底上げによって勉強面にも好影響となることは大いにありえます。

評価基準を子どもに合わせるという考え方は、受験からの「逆算ロジック」を捨てることでもあります。

中学受験をさせたい

だから勉強させたい

だからやる気を出してほしい

これが逆算ロジックです。受験をゴールにおいて逆算して必要なことを身につけるというものです。高校受験や大学受験にも同じようなロジックがありますが、本来学びは逆算から生まれるものではなく、個人の興味関心や好奇心、探究心が深まることで得られるものです。中学受験をさせるためにやる気を出させたい、という順序はおかしいことを親は理解すべきでしょう。

点数や偏差値を見て「もっとやる気を出してほしい」と嘆くよりも、日ごろの対話や声がけに注力することをおすすめします。

奇しくもコロナショックに直面して、予測不可能な時代を生きる術がいかに重要かを、社会全体が突き付けられています。子どもたちにはテストをクリアするだけのやる気ではなく、前向きに時代を乗り越える力をつけてほしいものです。その大きなカギが、子どもへの日々の声がけにあることを、多くの大人に意識してほしいと思います。


これまでの記事はこちら『親子のための、「探究」する中学受験

※記事の内容は執筆時点のものです

矢萩邦彦
矢萩邦彦 専門家・プロ

実践教育ジャーナリスト・知窓学舎塾長・株式会社スタディオアフタモード代表取締役CEO・教養の未来研究所所長。1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場で「パラレルキャリア×プレイングマネージャ」としてのキャリアを積む探究型学習・想像力開発・パラレルキャリアの第一人者。15000人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした統合型学習塾『知窓学舎』を運営。「現場で授業を担当し続けること」をモットーに、実践教育ジャーナリスト・教育カウンセラー・探究学習コンサルタントとしても活動している。グローバルビジネス学会・日本アクティブ・ラーニング学会・日本産業カウンセリング学会・キャリアコンサルティング技能士会所属。著書に『中学受験を考えた時に読む本』(編集著:洋泉社)、『先生、この「問題」教えられますか?』 (石川一郎・矢萩邦彦著:洋泉社)など。Yahoo!ニュースで『越境ウォーカー』を連載中。

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