産業の空洞化とは? 因果関係を意識しながら理解しよう
中学入試では、多くの学校で記述式の問題が出題されます。記述式の問題のなかでも多いのが、社会科において「社会的な現象の理由」を説明させる問題。単なる暗記中心の勉強ではなかなか太刀打ちできませんが、ものごとの因果関係を意識して勉強していた子は得点しやすいでしょう。
社会的な現象の理由を説明させる問題のなかで、近年の入試でも出題されている「産業の空洞化」について解説します。
Contents
産業の空洞化とは?
「産業の空洞化とは何なのか?」について、小学生でもわかるように解説します。
産業の空洞化とは「企業が現地生産をすること」
産業の空洞化という社会現象は、以下のようにシンプルに言い換えることができます。
産業の空洞化とは……
日本の企業が現地生産をすること
日本の自動車会社がアメリカで車を販売するために、日本ではなく現地のアメリカで車を生産することも産業の空洞化の一例です。ちなみに、ある有名な新聞社の経済用語解説にも上記の言い換えが書かれています。
原因と結果を押さえると理解が進む
「空洞化」という言葉の響きから難しく考えている子も多いようですが、「産業の空洞化」そのものはシンプルな概念です。原因と結果(因果関係)を押さえることで、すっきりと理解することができます。
■産業の空洞化を押さえるためのポイント
・空洞化が起きる「原因」は何か?
・空洞化が起きた「結果」はどうなるのか?
【原因】なぜ現地生産をするのか?
多くの日本企業は、海外で現地生産をしています。では、なぜわざわざ遠い外国で現地生産をするのでしょうか?
企業の大きな目的は、利益をあげることです。そして企業は、以下の合理的な理由から現地生産をしています。
■企業が現地生産をする理由
1、生産にかかる費用を安くするため
2、貿易摩擦をふせぐため
3、円高の影響をふせぐため
中学入試では、企業が現地生産をする理由がよく問われます。記述式の問題として出題されることも少なくないため、3つの理由について詳しく解説していきます。
現地生産をする理由【1】生産にかかる費用を安くするため
海外で現地生産をしたほうが、ものを作る費用を安くすることができます。具体的な例として、自動車を日本でつくった場合と、現地生産した場合とを比べてみましょう。
現地生産をすると「人件費」が減ります。人件費とは、工場などで働く人たちに払う給料などのこと。日本より人件費の安い国でものをつくったほうが、生産にかかる費用は安くなります。
そして、現地生産をすると「輸送費」も必要なくなります。日本で自動車をつくって海外で売るためには、船で運ぶ必要があります。しかし現地生産をすれば輸送費はかかりません。
最後に「関税」についてです。日本でつくった自動車を外国に輸出するときには、基本的に関税という税金がかかります(※)。一方で現地生産をすれば、関税がかからなくて済みます。
※経済協定を結んだ国と国のあいだでは、関税がかからないこともあります。近年だと「環太平洋パートナーシップ(TPP)協定」が有名ですね
現地生産をする理由【2】貿易摩擦をおさえるため
企業が現地生産をする2つめの理由が、「貿易摩擦」をおさえるためです。貿易摩擦とは、輸出や輸入をきっかけとした争いごとのこと。貿易摩擦の特徴的な構図は、以下の図のとおりです。
たとえば、自動車産業がさかんなA国という国があったとします。そこへB国という国が、安くて品質のよい自動車をたくさん売りにきたらどうなるでしょうか? おそらく、A国でつくっていた自動車が売れなくなりますよね。その結果、A国の自動車会社で働く人の給料が減ったり、仕事がなくなったりして失業します。すると、A国とB国のあいだで争いごとが起こります。これが貿易摩擦です。
そこで企業は、貿易摩擦をおさえるための解決法として現地生産をすることがあります。現地生産をすれば、その国に住む人に働く場所を提供できたり、地域の活性化にもつながったりするからです。現地生産は、貿易摩擦をおさえるためのひとつの手段なのですね。
現地生産をする理由【3】円高の影響をおさえるため
企業が現地生産をする3つめの理由が、円高の影響をおさえるためです。円高とは、日本円の価値がぐんぐん上がってしまうこと。近年は円高になる傾向が強い状況です。では、円高になると何が起こるのでしょうか?
「円高」の詳しい説明は割愛しますが、円高になると販売する製品の価格を高くする必要があります。しかし、値段を高くするとほかの会社にお客さんを持っていかれてしまいます。一方で現地生産をすれば、円高の影響(円安の影響)を受けずに済みます。円高や円安はコロコロ状況が変わるので、現地生産をすることで会社のお金の計画も立てやすくなります。
[ひっかけ問題]現地の要望を取り入れた製品をつくれるから?
中学入試では、産業の空洞化に絡めて以下のようなひっかけ問題が出題されることがあります。駒場東邦中学の過去の入試でも出題されました。
現地生産をするのは、現地の人々の声を直接きくことで、現地の要望を取り入れた製品をつくることができるためである。
上記のような目的で海外に進出する会社はありますが、「産業の空洞化」という点では誤りです。
【結果】現地生産を進めたことで何が起きた?
日本企業は海外での現地生産を進めてきましたが、結果として日本国内に大きく3つの影響が出てしまいました。
■日本企業が現地生産を進めた結果
1、日本での仕事が減ってしまった
2、技術が日本で育ちにくくなってしまった
3、お金が海外に流れてしまった
現地生産を進めた結果【1】日本での仕事が減ってしまった
日本の工場でものをつくるのであれば、そこで働く人が必要です。ところが工場を海外に移すことで、日本人の仕事が減ってしまいました。こうした現象は「雇用の空洞化」ともいわれています。
現地生産を進めた結果【2】技術が日本で育ちにくくなってしまった
工場でものをつくるには、高度な技術が必要です。ところが工場が海外に移転してしまった結果、工場でものを作る技術が日本で育ちにくくなってしまいました。
現地生産を進めた結果【3】お金が海外に流れてしまった
企業は、儲かったお金の多くを投資(工場や設備などの増強)のために使います。日本国内で投資されれば日本の国益にもつながりますが、工場が海外に移転したことで、本来は日本で使われるはずだったお金が海外に流れてしまいました。
まとめ
産業の空洞化が起こる原因と結果をまとめてみました。中学入試において、社会科の記述問題は年々増加しています。しかし因果関係をおさえていれば、意外とあっさり記述できてしまう問題も多いのです。因果関係について普段から意識しながら勉強することで、記述問題を攻略していきましょう!
※記事の内容は執筆時点のものです
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