連載 中学受験との向き合い方

勉強を自分事と思ってもらうには ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2020年10月01日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

中学受験は「親の受験」などと評されます。しかし、答案を書くのは子供たち。主人公はわが子です。理想的な親の姿勢は「この子の受験のお手伝いをさせてもらいましょう」といったものだと思います。親は主人公の隣に付き添う側近、お供のような存在でいるのがよいでしょう。とはいえ、受験生はまだ小学生の子供ですから、横道・脇道に進もうとすることがあります。知っていることにも限りがあります。

課題はどのように行動を自分事(じぶんごと)化してもらい、軌道修正していくかです。その課題達成の過程は、より汎用の「自分事意識」を育てる機会です。「圧倒的な当事者意識」は経済産業省の「『未来の教室』と EdTech 研究会」の中で提言されている「50センチ革命」を起こせる人材にとって必要だといわれています。

子供の気持ちの変化を尋ねる

「今日は勉強したくない。遊びたい」普段から勉強を真面目にやっている子供がこんなことを言い出したときは、ストレスがたまっている可能性があります。

このときにおすすめできない親の振る舞い方は、「勝手にしなさい!」などと、感情をぶつけて子供を突き放してしまうことです。こうした発言は、子供を不安にさせます。あるいは「遊びに行ける。よかった」と子供が思うかもしれません。後者の場合、同じ言動で勉強などのやるべきことから逃れるようになることもあります。

もし親が感情をぶつけたくなったら、気持ちが爆発する前に6つ数えてみたり、深呼吸をしたりすることです。一時停止ですね。「6つ数える」ことにご興味がおありでしたら、アンガーマネジメントという言葉を調べてみてください。一方、以前紹介した「3・2・1・0リラクセーション 」は私のおすすめです。

自分の気持ちを落ちつけたら、わが子がなぜ横道にそれようとしているのかに眼差しを向けます。親目線から見て子供は今「いつも通り」でしょうか。勉強に集中できていなかったり、家庭内でイライラしたり、いつもとは違うように感じたら、息抜きを勧めるべきです。良いコンディションを持続させるには、ひと休みや気分転換が必要です。「今日は勉強のことは忘れていいから、遊んでおいで」などと言ってあげるのがいいでしょう。

遊びから帰ってきた子供は勉強のやる気を再燃させているかもしれませんから、親としてはその瞬間を見逃さないことです。「今日は楽しめたの?」「思いきりパーッと遊べた?」などという言葉掛けをしたうえで「さっき、勉強したくないって言っていたけど、今あなたはどう思っているの?」と、子供に気持ちの変化を振り返ってもらうことです。こうした親子の話し合いは、子供が気分転換のコツや、やる気の上げ方を学ぶ大事な機会にもなります。

交換条件や、アドバイスを示し過ぎない

親としては、「気分転換も大事。でも、今日はきちんと勉強してほしい」ということがあるでしょう。そういったときは、勉強と遊びをどうやって両立させるのかを考えてもらうことです。以下のようなやりとりで話し合ってみるといいですね。

:「今日、遊びに行ってもいいかな?」

:「今日このあとやる予定の勉強はどうする?」

:「17時半くらいには帰ってくるから、その後に勉強するよ」

:「そうか。そのあと、19時から21時ごろまで習い事があるよね」

:「うーん。じゃあ今日の習い事を土曜日に振り替えるとか」

:「ドタキャンされた先生の身になって考えてごらん。そして、誰が先生にその振り替えの連絡をするの?」

:「う~ん……」

この会話はあくまでも例えですが、重要な点は、親御さんが、子供の考えを否定していないこと、子供からアイデアが出てくるのを待っていることです。親は答えを出さない代わりに、現実原則を示しつつ、子供に考えさせ、悩ませています。

遊びも勉強も子供自身にとっては自分事ですから、自分のことは自分で考える習慣を持たなくてはなりません。親御さんは「○時間遊びに行ったら、その分この日(この時間)は○時間勉強してもらうからね」などと、具体的な交換条件を示したくなりがちですが、まずは堪えてしてほしいと思います。こうした他者への交換条件の提示は、相手をご褒美で釣る行為と似ています。

一時的には効果があるかもしれませんが、長く続けてしまうと、子供のなかで「ご褒美がもらえないと勉強しない」のような価値観が形成され、自分自身で学びの意義を見つけにくくなってしまうのです。そうではなく、子供の考えを待ち、互いに合意をしたうえで「ここで勉強する」という意志を持たせましょう。

子供の言葉を待つ

前述のように子供のアイデアを待って、親子で約束したのに「遊んで疲れたから、また今度」「今日の分は明日やる」と言ってなかなか勉強しようとしない子はいます。親としては、黙って何度も見過ごすわけにはいきませんよね。しかし、こうした場面でも「あなた、さっき自分でやるっていってたじゃない!」と感情をぶつけるのはおすすめしません。「さっき、あなたが自分で言ったことを思い出してほしいな」などと子供に振り返りを促し、子供の言葉を待つことです。

:「遊んで疲れたから、勉強は今度やる」

:「そうか。ところでさっき、あなたはなんて言ったんだっけ?」

:「……。遊びから帰ったらやるって言った」

(ニコニコ顔で)
「そうだよね。私もそう聞いた。そこのところを君がどう考えるか知りたいな」

(子供の考えを聴く)
「君の時間をどう使うかを決めるのは、誰のこと?」

:「自分のこと」

:「そうだよね。自分の事だから、しっかり考えて自分で決めてごらん」

こうしたやりとりをさわやかに、ニコニコしながらしてみましょう。お子さんの成長度合いにもよりますが、親が感情的になってしまうと、子供もヒートアップして「売り言葉に、買い言葉」状態になりがちですから気をつけなければなりません。

もし子供が自分をコントロールして勉強をはじめたら、親はその瞬間を見逃さないことです。このときに励ましたり、ほめたりするのはよいですね。自分の発言に責任を持って行動するのは良いことだと、実感できるでしょう。こうした行動は、大人になってからも大事な能力です。

遊びも勉強も自分のこと

有害なことや、誰かを傷つけることでない限り、子供の「○○したい」という気持ちはあまり抑えつけない方がいいと思います。受験勉強中に表れるこうした欲求は、気分転換や息抜きの場合があります。息は抜かないと吸えません。気分転換を終えたあとは、親御さんが声掛けをして、子供の今の気持ちを確認したり、フィードバックすることです。

勉強であれ、遊びであれ、その体験からどう感じ、何を学んだのかを意識することは自分事化に不可欠ですから、親御さんにはそういった関わり方をぜひ身に付けてほしいと思います。自分のコンディショニングを意識しながら、行動選択をしていく姿勢とスキルも受験を通して培われる一生モノの貴重な力なのです。


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。「一家にひとり、一課にひとりのコミュニティ・カウンセラー」を育てることを目標としている。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。

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