連載 親子のための、「探究」する中学受験

探究心・思考力を育む作文の書き方|親子のための、「探究」する中学受験

専門家・プロ
2020年10月07日 中学受験ナビ 編集部

変化の激しい時代でも活躍できる人材を育成するために始まっている教育改革。「思考力・判断力・表現力」が重要だとする方針で注目が集まっているのが「探究型学習」や「アクティブ・ラーニング」です。とはいえ中学受験にはどんな影響があり、どう対応していけばよいのか、不安や疑問を感じる方も多いのではないでしょうか。この連載では、「探究×受験」を20年以上実践している知窓学舎の塾長矢萩邦彦先生に、次代をみすえた中学受験への臨み方についてうかがいます。

中学入試で思考力型の出題が増えていることは、この連載でも何度かお伝えしました。日本の教育改革においても思考力の重要性が指摘されています。自分の思考を文章で表現して伝える力は、今後ますます重視されるでしょう。とはいえ、記述問題や作文が苦手という子は多いです。作文の上達と、思考力を育むために家庭でどんなことができるのか、大手進学塾を経て探究塾を主宰する矢萩邦彦先生に聞きました。

一文の正確な理解がはじめの一歩

作文の力を高めていくには段階があります。まずは一文(「。」までのひと続きの言葉)を正確に読み書きできることが大事です。そのためには、5W1Hといった具体的な情報を意識します。

When:いつ
Where:どこで
Who:誰が
Why:なぜ
What:何を
How:どのように

何を伝えたいのかが分からなければ、読解はできませんし、自分で文章を作ることもできません。いきなり全体ではなく、部分に分解することで、伝えたい情報が整理されてハッキリしてきます。それらの情報や主語・述語を意識して、一文という単位で読み書きをする練習が、作文力を身につける第一歩になります。

一文が書けるようになったら、いくつかの文からなる100~200字程度の短文を書いてみましょう。日記などでも構いません。ここでも情報を分割して、できるだけ具体的に書いてみてください。一文は短くても大丈夫です。短文が書けるようになったら、長文(400字以上を想定)に挑戦します。

このように、作文力はステップを経て身につくものであると理解しておくとよいでしょう。もしわが子が作文が苦手そうだと感じたら、ステップのどの辺りでつまずいているかを確かめてみると、適した学習方法をみつけやすいと思います。短文がうまく書けないうちに原稿用紙を与えて長文を書かせたりすると、苦手意識につながるので要注意です。

長文を書くときは「なぜ」を深める

長文を書く際は、理由を考えるのが王道の手法のひとつです。短文でトレーニングした5W1Hの視点で情報を分解し、事象や意見を書いたら、「なぜ」という問いを立てて理由を書いていくのです。

なぜそんなことが起こったのか?
なぜ自分はそう考えたのか?

自分なりの理由をみつけたら、「なぜなら~」と文章をつなげて書いていくことができます。こうして理由を深めていけば、長文も書けます。

しかし、大事なのは文章量を増やすことではありません。それよりも、問いを深めていくことが重要です。理由を考えることで「何事にも因果関係があるのでは?」、という意識が生まれます。世界のさまざまなものを「なぜ」の視点で探究する。こうした経験を積むことで思考力が伸びやすくなるのです。重要なのはこの点だということを忘れないでください。そもそも作文は、自分の「言いたいこと」があって書けるものです。主張・意見が思い浮かばなければ書けませんから、「なぜ」で思考を深めることがとても大事なのです。

親御さんも「思考停止」にご注意

理由を探究する動物は人間だけといわれています。理由を考えなかったり、理由が気にならない状態のことを私は「思考停止」と呼びますが、中学受験は親がこの思考停止状態に陥りやすいのです。そうならないために、私は中学受験を志す親御さんも「なぜ中学受験するのか」という問いを意識すべきだと思います。

お子さんの日々の勉強を「偏差値を上げるためのタスク」「合格圏内に達するための作業」としか見ることができなかったり、入試から逆算した取り組みとしか見られていないのなら要注意です。逆算のロジックにとらわれて思考停止しているかもしれません。中学受験へのチャレンジが、子どもの思考力や探究心を高める体験になるよう、周囲の大人はいつも心に留めておくべきだと思います。

おすすめは「毎日書かない」日記

作文力を高めるには、5W1Hで情報を具体的に分解することと、理由を深堀りしていくことが大事です。そのうえで、日々家庭でできる作文力アップのテクニックをあえてひとつ挙げるとしたら、私は「日記」をおすすめします。それも「毎日書かない」日記です。

おもしろいことがあった、驚いたことがあったなど、興奮した出来事があった日にだけ書くのです。週に一回でも、月に一回でも構いません。特に何もない日に無理やり書く必要はありません。

感動や驚きがあったときだけでいいので、それを書き留める習慣をつけましょう。自分の心が動いた体験は格好のネタです。文章も書きやすくなります。短文の練習にも、長文の練習にもなり、楽しみながらトレーニングできると思います。

このときに重要なのが、家族の声がけです。日記にするような感動・おもしろ体験があったときは、「おどろいたよね、おもしろいよね、なんでだろうね!?」と声をかけて、一緒に楽しみながら対話をしてみてください。お子さんの思考を深めるとてもよい後押しになります。もちろん、同じ出来事や体験について、親子でそれぞれ日記を書いてみるのも効果的です。

日記を書いたら、書いた内容をときどき見返すのもおすすめです。作文力や思考の成長を測れますし、どんなことに感動する傾向があるのかといった、興味・関心の「軸」もわかってきます。こうした「軸」を知ることは、最適な教育環境を選ぶ際の判断材料にもなるので、学校選びなどにも役立ちます。

作文に興味が薄い子には、「会話の文字起こし」

作文力は段階的に高めるのがよいと言いましたが、そもそも作文に興味が薄い子もいます。文字を書くのが苦手だったり、書くことが面倒だと感じている子もいます。

そんなときは、「会話の文字起こし」をしてみるのもひとつの手です。30秒くらいの短い会話でいいので、親子で会話をしてみます。それを録音して、音声を聞きながら文字にしてみるのです。すると思った以上に意味のない言葉(あー、えー、など)や、指示語(あれ、それ、など)が多すぎたりして、文章としてはとても読みづらく、伝わりづらいものができるはず。その文章を読んで、子どもが「会話と文章ってこんなに違うの!?」とでも思ってくれたら成功です。

表現方法がぜんぜん違うことに気づき、認知できる、といった体験が重要です。これによってすぐに「作文が好きになった」「文章がうまくなった」などの効果を求める必要はありません。「文章は会話と異なる表現だ」と、一段高い視点からとらえられれば、一歩前進です。

会話の文字起こし以外では、LINEやメッセンジャーなどのプライベートチャットを使う手もあります。
たとえばお母さんとのLINEの画面をプリントアウトして、同じ内容を友達など別の人に伝えるとしたら、文章や言葉遣いをどう変えたほうがいいかを考えてみるのも、おもしろいと思います。表現を工夫しないと伝えたいことが、伝わりにくいことが体感できるでしょう。「お母さんなら通じることも、友達だと通じないから、もうちょっと補足して書かなきゃ」といった具合です。

どんな学びも、驚きや感動が鍵。驚きや感動は、探究心を育む大切な要素です。作文というとても抽象的な活動と、子どもの心の琴線に触れるような体験を結びつけてあげられるよう、大人は意識していたいものです。


これまでの記事はこちら『親子のための、「探究」する中学受験

※記事の内容は執筆時点のものです

矢萩邦彦
矢萩邦彦 専門家・プロ

実践教育ジャーナリスト・知窓学舎塾長・株式会社スタディオアフタモード代表取締役CEO・教養の未来研究所所長。1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場で「パラレルキャリア×プレイングマネージャ」としてのキャリアを積む探究型学習・想像力開発・パラレルキャリアの第一人者。15000人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした統合型学習塾『知窓学舎』を運営。「現場で授業を担当し続けること」をモットーに、実践教育ジャーナリスト・教育カウンセラー・探究学習コンサルタントとしても活動している。グローバルビジネス学会・日本アクティブ・ラーニング学会・日本産業カウンセリング学会・キャリアコンサルティング技能士会所属。著書に『中学受験を考えた時に読む本』(編集著:洋泉社)、『先生、この「問題」教えられますか?』 (石川一郎・矢萩邦彦著:洋泉社)など。Yahoo!ニュースで『越境ウォーカー』を連載中。

中学受験を考えた時に読む本先生、この「問題」教えられますか?

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