連載 中学受験との向き合い方

中学受験をすることは可哀想? 考え方を変えるヒント ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2020年12月15日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

子供に中学受験をさせようか迷っている親御さんのなかには「小学生から受験勉強をさせるのは可哀想では……」と悩む人がいます。なぜ可哀想だと思ってしまうのでしょう。その要因と、そうならないための勉強や受験との向き合い方について解説します。

「受験勉強は可哀想」と思う要因

なぜ中学受験をさせることが、可哀想なことだと思うのか。それにはふたつの要因があるように思います。ひとつ目は「ある種の勉強に対して、ネガティブなイメージを持っている」こと。そしてふたつ目は「中学受験を勝ち負けで考えている」ことです。その理由と解決策を順にお伝えします。

勉強に対するネガティブイメージを拭うには

子供のころ勉強がわからないとバカにされたり、間違えたら叱られたり……そんなイメージを潜在的に持った経験はありませんか。もしお子さんがこうした勉強と苦痛が結びつく考えを持っている場合、勉強は「つまらない。つらい」と感じてしまうかもしれません。そして、嫌々ながらわが子が勉強する姿を見ている親御さんは「受験勉強をさせることは、子供にとって可哀想」と思うことでしょう。しかし、お子さんの勉強へのネガティブなイメージは、親御さんの声掛けで変えることができます。

勉強の達成感へ導く声掛け

子供に「勉強はつまらない、苦しい」と思わせないために大事なこと。それは、わからないことがあったり間違えたりしても叱責せず、代わりに課題や問題を克服する姿勢を育むような声掛けをすることです。たとえば、次のような声掛けです。

  • 「ここまで解けたんだから、もう一度考えてみよう」と励ます
  • 「教科書の例題を解きなおすと、この問題もわかるかもしれないよ」とヒントを与える

なかなか思い通りに正解が導き出せないときは、本人にとって苦しい時間です。さらに正解(○)かそうでないか(×)という二元論で考えてしまうと「ここまで解けていたんだ」というアナログな見方ができなくなってしまいます。そうすると「7割の達成感」というご褒美を味わうことができません。「達成感」や「進捗の実感」はやる気を持続させるためにはとても大切なことなのです。

たとえば、ピアノを習っている子であれば、練習で何度も失敗しながら、苦手な箇所を少しずつ減らして演奏会に臨みますよね。あるいは、サッカーを習っている子であれば、何度も練習して完成度を高めたシュートで得点を決めます。どちらも練習中は苦しいかもしれません。完璧な出来栄えでなくても、「指が回らなかった3か所のうち1か所はうまく弾きこなせた!」とか「3割のシュート成功!」が約3割の達成感や爽快感を生むはずです。

勉強も習い事と一緒で「苦労を乗り越えて成功を手にすること」の気持ちよさが味わえる経験です。子供にとって勉強が苦しいだけのものになるのか、苦しいけれど達成感のあるものになるのかは、親御さんの姿勢・声掛けで変わるということを忘れてはいけません。そして「苦しかったけれど努力して乗り越えた」という体験こそが後述する中学受験の教育効果なのです。

子供に合う学習スタイルかを確認する声掛け

子供によって脳の使い方(これをおおざっぱに「認知の仕方」と呼びます)に多様性があります。これは情報のインプット、プロセシング、そしてアウトプットのスタイルに影響します。「はてな」だらけだった学習項目が、ちょっと認知の仕方を工夫すると「あ、そうか!!」と納得できる場合もあります。

子供の学びを支えるには学習スタイルに違いがある点に留意することも大切です。親が思う勉強方法が、子供に合うとは限りません。塾や学校の授業も同じです。その子に合ったスタイルやレベルの学習と、授業のスタイルやレベルにギャップがないか、気を配る必要があります。

私自身、小学4年生で塾をやめたことがあります。その理由は、塾の先生の説明に「ズレてる」という違和感が生まれたからです。先生の説明は一応正しいのですが、的の中心を射ていない感じが、それをうまく言語化できない私にモヤモヤとなって残ったのです。こうした「ズレ」を探すためには、自宅での学習態度や塾・学校でのテストの誤答の仕方をもとに、注意深く子供を観察してみることです。

そのうえで、勉強方法が合っていなかったり、授業についていけなかったりする様子が見られたときは、親御さんから「勉強のペースが早そうな気がするけれど、今のペースで進んでも大丈夫かな?」「以前はわからないところも、途中まで考えたことを書いていたけれど、この空欄はどうしたのかな?」などといった声掛けが救援に役立つかもしれません。そして前述の私自身の経験からご提案できる親からの質問は「何かモヤモヤしてる?」です。

親御さんからの声掛けをきっかけに、「実は、勉強していてもすぐに眠くなっちゃう」「先月から授業の内容が全くよくわからない」というように、言い出しづらかった自分の問題点を打ち明けてくれるかもしれません。そのうえで親子で話し合ったり、塾や学校の先生に相談したりして、本人の納得できる解決方法を探してみてください。きっとお子さんに合う学習スタイルに近づけるはずです。大事なのは合わない学習スタイルのまま無理に進めて、「自分は勉強ができないんだ……」などと子供の自尊心や自信を損なわせないことです。

中学受験を勝ち負けで考えないためには

中学受験を勝ち負けで考えていると、「どんなに頑張っても、受からなかったときが怖い」「この3年間は無駄になってしまうのでは」という思考を持ってしまいます。そして「結果が伴うかわからないものに、子供を頑張らせるのは可哀想なのでは……」といった迷いが生じることでしょう。

そうならないためには、中学受験の見方を変える必要があります。考えてほしいことは、「中学受験を何のためにするのか?」です。

これは私の持論ですが、中学受験は教育活動です。勝ち負けで教育活動の価値が左右されるのではなく、その過程で何を学んだかが何よりも大切なのです。教育活動であるからには教育目的があります。その筆頭は「困難な状況にあっても、最後までやり抜く大切さを学ぶこと」です。申し上げるまでもなく、最後までやり抜く力は一生ものです。合格・不合格も大事ですが、それよりもそこに至るまでのプロセスで何を得たかの方が大事なことだと思います。ぜひもう一度、中学受験の意義について考えてみてください。

それでも「可哀想」と思う場合

心配性な親御さんのなかには、前述したふたつの要因を解消したとしても、子供が勉強を頑張りすぎているように見えて、気の毒だと感じる人もいるかもしれません。しかし、親の眼差しというのは、子供の成長に大きな影響を及ぼします。子供扱いしていれば、本人も子供のままでいるし、憐みのような視線を浴びせれば、不安に満ちた子供に育っていくものです。

親の葛藤を素直に子供に伝える

子供が可哀想に見えてきてしまったときは、モヤモヤした気持ちを抱えながら子供を見守るのではなく、素直に子供に伝えましょう。

たとえば、勉強の時間がしんどそうに見えるときは「最近の勉強の調子はどう? 無理してないかお母さんは心配なんだ。辛いときは辛い、悲しいときは悲しい、弱音を吐きたいときに堂々と弱音を吐くことも大切なんだよ。そんなときは、いつでも聴くからね」というように話してみてください。この言い方なら、親自身の見え方を謙虚な姿勢で示したうえで、勉強の姿勢について話し合おうとしている意思が伝わります。

間違っても「あなたは勉強が苦手だよね」など、子供の能力を見限った、断定的な表現は避けてください。また、親にも葛藤があるのは無理からぬことです。「いつまでもノビノビと過ごして欲しい」と「辛抱しながら目標に向かって、この困難を乗り越えて欲しい」の両方で悩んでいることを打ち明けてみるのです。

親が子供に対して率直であるというのはとても大事なことです。親も悩んだりすることがある、子供に相談してくることもあるということを理解できたとき、親子間で今まで以上に円滑にコミュニケーションが取れるようになるはずです。

子供に聴かせてもらう、子供を見る目を増やす

受験勉強に限らず、何かに励むわが子が可哀想に見えてしまうのは、詰まるところ“子供の心の中が見えないから”です。子供の心の中を一番よく知っているのは、ほかならぬ子供自身です。親は子供に心の中を教えてもらうために、じっと(十)、耳を傾け(耳)、優しく見守り(目)、関心と想像力(心)を向けます。つまり、「聴」かせてもらうことです。(「聴」という字は「十」と「耳」と「目」と「心」で成り立っています)

また、見守る親の目というのは両親を合わせても4つしかありません。見方が偏ってしまったり、親といえども子供のことが見えなくなってしまったりするものです。そのため、子供を見る目の数を増やすというのもおすすめです。

たとえば、塾の先生や学校の先生、子供の祖父母、ママ友などから見て、わが子がどのように映るのかを聞いてみてください。違った視点から思わぬ手掛かりが見つかるかもしれません。


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。「一家にひとり、一課にひとりのコミュニティ・カウンセラー」を育てることを目標としている。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。