連載 中学受験との向き合い方

弟・妹の受験で気をつけたいコミュニケーション ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2020年12月22日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

兄弟姉妹で中学受験に挑むご家庭の場合、親は下のお子さんと、上のお子さんと比べた発言をしがちです。しかし兄弟姉妹であっても、お子さん一人ひとりが異なる性格を持っていて、得意なこと・不得意なことが違います。今回はすでに中学受験を終えた上のお子さんがいる場合に気をつけるべきポイントを解説しましょう。

兄・姉は最も身近な受験の先輩

弟や妹にとって兄や姉の存在は、もっとも身近で信用できる中学受験の先輩になります。兄や姉からの助言は、親や先生の言葉以上に浸透しやすいものです。

上の子が下の子に勉強を教える際は、教えてもらう側がしっかり理解できるだけでなく、教える側も「人に理解してもらうにはどうやって教えればいいのか」を考えるスキルが身に付きます。「教えることは自分の学びを確かなものにする」――このことを私は自分の中学受験時に家庭教師の柳沢先生から教わりました。わからない相手の気持ちに寄り添って相手が納得できるように説明するというのは、将来的に絶対役に立つ能力です。

そのため、子供がなにかわからないことを親御さんに聞いてきたとき、上の子の手が空いているようだったら「お兄ちゃん(お姉ちゃん)に聞いてごらん」と声掛けをしてみるのもよいでしょう。また、直接的なやり取りだけでなく、上の子が日ごろから授業の予習・復習や定期考査対策で勉強を頑張っている背中を見れば、弟や妹はよい影響を受けるはずです。身近な受験の先輩を真似てみたり「自分はこうやって勉強してみようかな」と勉強方法を試行錯誤したりと、行動の規範となることは多いですね。

それぞれの個性を認める

兄弟間で切磋琢磨させようとする親御さんもいます。しかし、それは子供から見ると「お兄ちゃんのことは大事にするけど、僕のことは大事にしてくれないんだ」というように、ときに「不平等」として映ることがあります。そうなると下の子は頑張ろうとするのではなく、親や兄に反抗心を抱いたり、「どうせボクなんか……」とスネてしまったりして受験どころではなくなります。

ただ、親が働きかけなくても、兄弟間・姉妹間では大なり小なりのライバル意識が芽生えるものです。特に幼いころは、競って親の愛情を得ようとする傾向があります。ライバル意識で家庭の空気を悪くしないようにするには、「兄弟どの子もわたしたち親にとっては大切な宝物だ」という姿勢をはっきりと見せましょう。

言葉で直接的に表現してもいいですし、「お兄ちゃんは○○が得意だったけど、あなたは△△が得意なんだね」と声掛けしてみるのもいいですね。ひとりの人間としての個性を認めてあげることが大切です。家庭内の空気清浄も親の役割のひとつですから、兄弟姉妹間の空気感にも目を配ってみることをおすすめします。

コミュニケーションの振り返りに使える「4つのストローク」

家族全員が気持ちよく過ごすためには、親御さんが兄弟姉妹それぞれに対して「わたしは子供たちに平等に接することができていたか」と振り返ることが大切です。そのための尺度として参考になるのが「4つのストローク」です。

「ストローク」とは、心理学のなかの「交流分析」という理論に基づくものです。「ストローク」を「(コミュニケーションの)発信」と置き換えてみると合点がいくでしょう。または、日本語で「ふれあい」という言い方がありますね。ご承知のようにこの場合の「ふれる」は物理的に相手に触れなくても、「心の交信」という意味で使われます。この「(身体的・非身体的に)ふれること」がストロークです。

ストロークが得られないと、人はストローク飢餓の状態、つまり「自分には関心が向けられていない」という飢餓状態になって、周囲を困らせてでもストロークを得ようとします。私たちはこの世に生れ落ちたときからこの「ふれられる」ことを欲してきたのです。

ストロークは大きく、以下の4つに分類できます。

A 条件付きのプラスのストローク
B 条件なしのプラスのストローク
C 条件付きのマイナスのストローク
D 条件なしのマイナスのストローク

A(ほめ)とC(叱り)は“しつけ”など、相手の行動変容のために用いられます。Bは“魂の栄養素”です。これがないと人間の魂は栄養失調になります。Dは“毒”です。これまで子供に対してどのように接してきたか、どの部分に比重を置いていたかを振り返ってみてください。


A 条件付きのプラスのストローク

「条件付きのプラスのストローク」というのは、何かほめられるべきことをしたときに、しっかりとほめてあげることです。たとえば、模試の結果がよくなったときに努力をほめてあげる、勉強を頑張っているときに「最近頑張ってるね!」と声を掛けてあげることなどがこれに該当します。

B 条件なしのプラスのストローク

「条件なしのプラスのストローク」というのは、無条件で相手の存在を肯定することです。これは人間関係を育むうえで、もっとも重要なことかもしれませんね。「あなたがいてくれるだけでうれしいよ」と言葉で伝えるほか、目があったときにニコッと微笑みかけてあげるとか、帰ってきたときにハグをするとか、そういった発信です。

C 条件付きのマイナスのストローク

「条件付きのマイナスのストローク」は相手に対して忠告をしたり叱ったりすることです。なにか悪いことをしてしまったときに「そういう行動は今後改めてほしいな」と相手の行動について否定的刺激を伝えることです。テストに全力で臨まなかったとき、勉強している姿勢に中だるみが見られたときなどは、こうした発信も必要になりますね。

D 条件なしのマイナスのストローク

「条件なしのマイナスのストローク」は、4つのなかで一番やってはいけないコミュニケーションです。これは“毒”です。

相手の行動に関わらず、相手を否定するのですから、相手にとっては自分の存在を否定されることになります。「あなたなんかいない方がいい」「おまえなんか生まれてこなければよかった」という直截的な発言はもちろんこれに含まれます。また、相手が何も悪いことをしていないのに、自分のイライラをぶつけたり、相手がそもそもいないかのように目をそらして無視したり……という振る舞いもDです。

仕事やママ友同士の付き合いでムシャクシャすることがあったとき、つい子供に当たってしまう親御さんもいるかもしれません。子供にとっては訳がわからないまま否定的なメッセージが届く、前述の「ふれあい」の文脈では「痛い思い」をさせられるのです。これが続くと訳のわからないネガティブな気持ちが積もりに積もって、子供のメンタルにも影響を及ぼしかねないので要注意です。


これらの4つのストロークをもとにして、自分が子供に対してどのように振る舞っていたのかを定期的に振り返ってみてください。「下の子に対してはCが多いかもしれない」「勉強ができるからといって、上の子ばかりにAを与えていたかもしれない」というように、親御さん自身の偏りに気付くことができると思います。

夫婦間・親子間でのフィードバックも忘れずに

実は兄弟姉妹それぞれに公平に愛情を注ぐというのは、とても難しいことです。親自身は平等に愛情を注いでいると思っていても、子供からすれば不平等だと感じていることはよくあります。そうならないために、「4つのストローク」を自分だけで振り返るのではなく夫婦・親子で、時には紙に書いたりして、話し合いながら共有してみるのもおすすめです。そのうえで、お互いに日々の努力・我慢を認め合ったり、称え合ったりすることも忘れないようにしてください。

子供たちは中学受験を見据えて通塾したり、苦手科目の勉強をしたり、親御さんは受験情報を集めたり、お弁当を作ったりと、それぞれが苦労を重ねているのです。中学受験は思い通りにいかないことが多く、考え方がネガティブな方向に沈みがちですが、お互いに励ましあうことで着実に前進できるものだと思います。


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。「一家にひとり、一課にひとりのコミュニティ・カウンセラー」を育てることを目標としている。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。

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