学習 連載 なるほどなっとく中学受験理科

2021年入試を振り返る【第2回】時事問題の傾向分析|なるほどなっとく 中学受験理科

専門家・プロ
2021年3月24日 水溜 兼一(Playce)

学習範囲が広く、難しいイメージがある理科の中学入試問題。難関校に多くの子どもを合格させてきたカリスマ講師・小川眞士さんが、子どもの理科力を育むためのヒントを伝えます。

2021年理科の入試問題の特徴を3回にわたって小川先生が解説します。初回は、化学、物理、生物、地学の各分野と全体の傾向をお話いただきました。2回目は時事問題を振り返ります。身近な題材を扱うことが増えている理科の入試において、時事問題にどのような変化が見られるかをお伝えします。

「時事」を扱った理科的思考力を問う問題

理科の入試問題は、化学、物理、生物、地学の4分野に分けて捉えることが一般的です。しかし、後述する「新型コロナウイルス感染症」の問題のように、4分野を統合したような総合的な問題が出題されることがあります。また、環境に関する問題なども、各分野の知識が必要です。この流れは加速すると予想され、将来的には、ある時事問題について、理科はもちろん他の教科も含めたいろいろな知識を総動員して解くような問題が現れるでしょう。

また、一口に時事問題といっても入試の問題形式はさまざまです。惑星や探査機の名称、ノーベル賞受賞者やその分野を答えるような問題は、出来事の概要を暗記するだけで対応できます。しかし、時事問題は大問の導入にすぎず、そこから総合的な要素を含む問題に展開していくような問題は、各単元の内容をきちんと理解していなければ解けません。さらに近年では、時事問題そのものにどれくらい興味を持って考えているか、日常的に関心を持っているか、家庭で話題になっているかなどが問われるような出題も増えています。では、今年出題された代表的な時事問題について考察します。

「新型コロナウイルス感染症」に一歩踏み込んだ問題

2021年入試で新型コロナウイルス感染症が取り上げられると予想した人は多かったのではないでしょうか。実際に昭和秀英中、学習院中、明治大学附属明治中、麗澤中など、いくつかの学校で出題が見られました。これらの学校のなかには、簡単な知識問題に留まらず、一歩踏み込んだ問題を出したところがありました。

たとえば昭和秀英中の問題は、「そもそもウイルスとはどういうものか」ということから説明した1500字超の文章を読んで問いに答える形式でした。広尾中では、Tシャツ、アルミホイル、和紙、ビニール袋、段ボールなど、提示された素材のなかから3つを選んで「性能がよく快適に使えるマスク」を考える問題が出ました。これは、材料を選んだ理由を述べてマスクの完成図を描くというものです。明治大学附属明治中は、新型コロナウイルスの感染が引き起こす肺炎について問う問題が出ました。学校によって問題のアプローチはさまざまですが、世間の興味・関心が高い出来事に対して、受験生の理科的思考力が試されるテーマだったといえます。

環境問題は、食物連鎖やプラスチック、温暖化が中心テーマ

持続可能な社会の実現に向けて、SDGsへの取り組みや、脱プラ、脱炭素化の動きが加速するなか、中学入試でも環境問題がよく取り上げられます。今年は栄東中で、プラスチック製品による海洋汚染の問題を導入に食物連鎖を考える問題が出題されました。

食物連鎖では、典型的なものとして生物濃縮に関する問題があります。生物濃縮とは、食物連鎖の過程でより上位の生物に濃度の高い物質が蓄積していくこと。濃縮割合の表を参照して、農薬などが生物の体内にどれくらい蓄積されるか計算させる問題が出題されています。

プラスチックについては、2020年7月にスタートしたレジ袋有料化に触れ、プラスチックの過剰な使用が引き起こす問題を記述させる設問もありました。レジ袋有料化やプラスチック問題について家庭で日常的に会話していれば答えやすかったのではないでしょうか。

環境問題は、知識事項を深く聞かれることは少なく、計算力や理科的な思考力が問われます。各分野の単元の基礎知識を固める理解ことはもちろん、日ごろからニュースもよく見ておきたいところです。

実際の災害を扱った情報読解やボリュームのある思考問題

豪雨、台風、地震、火山の噴火など災害関連の時事問題は例年よく取り上げられています。開智中や学習院女子中の入試では、九州地方を中心に大きな被害をもたらした「令和2年7月豪雨」を扱った問題が出ました。この豪雨を引き起こした「線状降水帯」という語句を答えさせり、天気図の読み取りやハザードマップについて考えさせました。

災害に関しては、渋谷教育学園幕張中(渋幕)の問題が特徴的でした。同校は一つの大問の内容すべてが災害に関するものでした。日本で想定されているさまざまな災害について話す親子の会話文のなかに、「地震や台風などが引き起こす主な災害とその被害内容の説明」「各種災害警報の一覧表」「5段階の警戒レベルを説明した表」などが挿入されています。かなりボリュームのある文章と図表を読み解きながら、地震波や火山泥流の速度を計算したり、台風時の気圧の問題に答えたり、避難行動を考えたりします。

ひと昔前の災害に関する問題は、「震度は10段階で示される」などの知識を知っていれば得点できました。しかし、今年の渋幕のような問題は、地学全般の知識が必要なことに加え、「実際に災害が起こったときにどういう行動をとるべきか」を考える力も求められました。

時事問題を自分ゴトとして捉えることが必要

2021年入試で取り上げられた時事問題はほかに、チバニアン、口永良部島や西之島の噴火活動、昨夏の記録的猛暑、部分日食や皆既日食などの天体現象、はやぶさ2の帰還、ノーベル賞、サバクトビバッタによる被害などがあります。

時事問題を振り返ると、理科的な話題に加え、私たちの生活に直結する問題も取り上げられていることが理解いただけると思います。「時事問題は概要を暗記して答えるもの」という考えは過去のものになりつつあります。今後、時事問題は、表やグラフを交えて理科的な思考力を問う問題が増えることが予想されます。入試前にまとめて学習するのではなく、日ごろから時事に興味関心を持ち、自分ゴトとして捉えて考える習慣をつけることが得点するための近道になるはずです。


これまでの記事はこちら『なるほどなっとく 中学受験理科

※記事の内容は執筆時点のものです

小川眞士
小川眞士 専門家・プロ

小川理科研究所(東京都豊島区)主宰。都内の中学校教諭を経て、四谷大塚進学教室理科講師に。開成や桜蔭の特別コースを約25年間担当、コース生28人全員が開成中学に合格した実績を持つ。教務主任や副室長も務めた。2009年4月に小川理科研究所を開設。主な著書に、『中学受験 理科のグラフ完全制覇』(ダイヤモンド社)、『これだけ理科』(森上教育研究所スキル研究会)、『カンペキ小学理科』(技術評論社)がある。

この記事の著者

雑誌・新聞の編集・ライターを経て、現在は、通信教育企業のキュレーションサイトや大学案内のライティングなどを担当。