連載 親子で疲弊しない「ノビノビ中学受験」

中堅校志望の悩み[5]「中学受験をやめて公立中学に行きたい」と娘が言い出した ―― 親子で疲弊しない「ノビノビ中学受験」

専門家・プロ
2021年5月31日 やまかわ

中学受験と聞くと、難関校を目指す受験がどうしてもイメージされます。しかし、そうではない、あるいはそのやり方に疑問をもつご家庭は少なくないでしょう。この連載では、『ゆる中学受験 ハッピーな合格を親子で目指す』の著者である亀山卓郎先生に、親子で疲弊しない中学受験をテーマにさまざまなお話を伺います。

中堅校受験で抱えがちな悩みを取り上げ、解決策を紹介していきます。今回は次のふたつのケースについて見ていきましょう。

  • 「中学受験をやめて公立中学に行きたい」と娘が言い出した
  • 受験に中途半端に臨んでいる気がして……

「中学受験をやめて公立中学に行きたい」と娘が言い出した

【ケース1】大手塾に通う小6のお母さん
小4から塾通いを続けてきた娘が、受験をやめたいと言い出しました。小6に学年が切り替わるタイミングで「私立中学に入学した後の学校生活をイメージできなくなった。小学校のみんなと同じ中学校に行きたい」と打ち明けてきたのです。このまま勉強を続けていけば志望校の合格も十分狙えると塾の先生には言われています。親としては、ここで受験をやめるのはもったいないと思うのですが……。

まずは理由の確認を

小学校高学年は、自我が芽生えてくる時期です。多感な時期でもあるため、「もっと勉強しなさい!」と親から言われる毎日に嫌気がさし、友だちやネットの情報から私立中学に対してネガティブな印象を抱いてしまうこともあります。本音ではなかなか語ってくれず、言葉の裏側に複雑な思いを抱えていることも少なくありません。今回のケースでは「入学した後の学校生活をイメージできなくなった」と小6の子らしからぬ“大人のセリフ”を発しているため、もしかしたら本音では語ってくれていない可能性もあります。

ここで大切なのは、そもそも子どもがどうしてそう考えるようになったのか、その理由を確認すること。中学受験に対してどんな“わだかまり”があるのか、落ち着いて聞いてみてください。子どもは、思わぬ悩みを抱えていることが少なくありません。受験を続けるか、やめるかを決める前に、まずは回数を重ね、子どもの本音に耳を傾けてあげましょう。

「本音」は話し合いの先に見えてくる

私の塾(進学個別桜学舎)にも、「受験をやめたい」と言い出した子がいました。宿題もしっかりおこない、成績もよく、合格が狙える学校もたくさんある子でしたが、ある日、本人から直接塾に「勉強がイヤになった。塾をやめたい」と泣きながら電話があったのです。ご両親に話を聞くと、その子は「塾には行きたがっていなかった」とのこと。そしてお母さんは「中学受験をやめたい」とわが子が言い出したことを受けて気を病む一方で、お父さんは「絶対に私立に行ったほうがいい!」の一点張りでした。

「勉強がイヤになった」というその子の言葉は、ウソではないかもしれない。しかし私は、その理由だけで受験をやめがたがっているようには思えませんでした。そこで、その子と1対1で面談を重ねることに。始めこそ表面的な回答しかありませんでしたが、時間をかけてゆっくりと話を聞いていくと「私立に行って勉強についていけなくなったお姉ちゃんのようになりたくない……」と本音を打ち明けてくれました。お姉ちゃんのことで家族の仲もぎくしゃくしていたようで、その子はその状況にも耐えられなかったようです。

子どもの本音を確認すると、取るべき解決策が見えてきます。この場合の解決策は、その子の勉強嫌いを直すことでも、「私立に行ったほうが有利だよ」とメリットを並べ立てることでもありませんでした。まずは傷ついた心に手を当ててあげること、これこそが解決策だったのです。結果的にその子は退塾を選び、連絡は取れなくなりましたが、その子にとって納得した進路を歩んでいることを願うばかりです。

「覚悟」をもって選択させる

子どもと話し合いを重ね、中学受験をやめたい本当の理由を聞き出せたあとは、「これからどうしたいと思っているか」を聞いてみます。このとき、どんなに稚拙な理由でも否定せず、まずは子どもの考えを静かに聞いてあげましょう。その上で、最終的に進路を選択するのは親ではなく、子ども自身であることを伝えます。

公立に進むのも、私立に進むのも結局は子ども次第。もちろん進路は大事な選択ですから、親としては私立と公立に進むメリットやデメリットをそれぞれ説明する必要はあります。しかし子どもの人生は、どこまでいっても子どものもの。最終的に親ができるのは、「中学生になって『私立に行けばよかった』と後悔しても、もう遅いからね。自分で公立に行くと決めたなら、後悔のない3年間を送ること。その覚悟をちゃんと持つようにね」と念押しし、「自分の人生は自分で決めていくこと」を伝えることです。

そもそも学校生活のことは、入ってみないとわかりません。「3年間充実した学校生活を送るぞ!」と意気込んで進学しても、環境に合わずに悩む子もいます。こうした壁にぶつかったとき、親に進路を決められたと思っている子は「自分がこんな状況なのは親のせいだ」と他責にしがちです。一方で「自分の人生なんだから、自分で責任を持つんだよ」と親から念を押され、「あのとき『覚悟はあるの?』って話したよね? まずは自分で解決策を探してみなさい」と言われた子は、他責ではなく、自責で考える大切さを学んでいきます。

どんな選択をしても、子どもはどこかで思い悩みます。こうしたとき、その子がどうやってその状況を打開していくか。大切なカギを握るのは、「自分で決めた」という覚悟です。「中学受験をやめたい」と打ち明けられ、その本当の理由を理解できたのであれば、あとは覚悟を確認してあげてください。「自分の道を自分で決めた」という経験は、その子の人生に大きな一歩として刻まれるはずです。

受験に中途半端に臨んでいる気がして……

【ケース2】塾に入ったばかりの小4の両親
夫婦ともに中学受験は未経験ですが、「学校の友達がみんな受験するから自分もしたい」と子どもが言ったので、大手塾に入れて中学受験を始めました。正直なところ、少しでも上のランクの学校に入ってほしいと思いますが、それ以上のビジョンが描けずにいます。子どもの将来についてもっと考えたほうがいいかもしれない、と不安な気持ちもあるのですが……。何から考えればいいのかもわからない状態です。

受験コンセプトに「理由」はあるか

そもそも中学受験をしなくても、公立中学には進学できます。だからこそ「なぜ中学受験をするのか」という受験コンセプトを考えることは欠かせません。そして、ここまでは今回のケースの親御さんも考えられています。その上で「もっと考えたほうがいいのかも……」とおっしゃっていますが、「少しでも上のランクの学校に進学させたい」という思いは、すでに立派な受験コンセプトといえます。

そもそも「少しでも上のランクの学校に入ってほしい」という考えは、決して否定されるものではありません。ただし、そこに明確な理由があるか。そして、難関中に進ませたいという思いを子どもとしっかり共有できているか。これらができていなければ、どんなにすばらしいコンセプトであっても機能しません。「こんな人間に育ってほしい。だから難関中に進ませたい」という“教育的な考え”が抜けていては、結局は惰性で中学受験に突き進んでしまう結果になりかねないのです。

進路に正解はない

私の塾には中堅校志望の子が多く集まりますが、生徒たちはそれぞれ違った受験コンセプトのもと、勉強を頑張っています。「芸術系の道に進みたい」という思いで、芸術について学べる大学に進学実績のある中高一貫校を目指す子。「高いレベルの環境でサッカーをしたい」という気持ちでサッカーの強豪校を目指す子。「少しでも上のレベルを目指したい」という子もいれば、「自分で計画を立てて勉強するのが苦手で、特進クラスに入って自主的に勉強する習慣を身につけたい」と話す子もいます。

そして「わが子に自分の母校に進学してほしい」と考える親御さんも少なくありませんが、これも決して親のエゴにはならず、むしろ多くの子はイキイキとその中学への進学を希望しています。これは、進学後の様子を親御さんがしっかりと伝え、子ども自身も学校生活がイメージできているからこそ。ちなみに、かつての教え子に「お母さんの入っていた学校に絶対に入りたい!」と意気込んでいた女の子がいましたが、本番の入試では結果が振るわない日々が続きました。しかし彼女は「何としてでも合格したい」と粘り強く受験を続け、希望通りお母さんと同じ学校に合格。入学後は想像通りの充実した学校生活のなか、勉強の楽しさにも気づき、現在は学年で4位の成績を取るなど大きな飛躍を遂げています。

家族全員が納得する受験コンセプトを

今回のケースのように「子どもがやりたい」と言い出した受験であっても、「なぜ受験をするのか」というコンセプトを考え、それを子どもに伝えるのは親の仕事です。繰り返しになりますが、「上のレベルの学校に進ませたい」というコンセプトでも構いません。しかし、その理由を子どもの将来像と結びつけて考えているか、そしてそのビジョンを子どもに伝え、親子で話し合っているか。こうしたステップを踏んでいないコンセプトは、ただの親の独りよがりに過ぎず、結局はどこかで子どもが「受験をやめたい」と言い出すなど、2~3年にわたる長い中学受験を家族一丸となって完走することは難しいでしょう。一方で受験に対しモチベーション高く臨んでいる子は、親御さんがしっかりと受験コンセプトを共有しています。

何はともあれ、まずは親子で未来像を話し合ってみてください。壮大な目標を掲げてもOKです。話し合いの時間を定期的につくって「いまは受験についてどう思っているの?」「パパ・ママはこう思ってるよ」と話し合いを重ねていくなかで、未来像をしっかりと親子で共有していきましょう。中堅校志望の場合、本格的な受験態勢に入るのは5年生から。今回のケースのお子さんは4年生ということなので、時間はあります。まずは家族みんなで受験コンセプトを考え、深めつつ、納得して中学受験に突き進むためのベースづくりに時間を割いていきましょう。

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※記事の内容は執筆時点のものです

亀山卓郎
亀山卓郎 専門家・プロ

かめやま たくろう|明治学院高等学校、成城大学卒業。大手塾・個人塾などで教務経験を積んだ後、2007年に転居のため千葉県及び江戸川区の塾を閉鎖し、台東区上野桜木で「進学個別桜学舎」をスタート。首都圏模試の偏差値で60を切る学校への指導を専門に「親子で疲弊しないノビノビ受験」を提唱している。TJK東京私塾協同組合員、第一薬科大学付属高校上野桜木学習センター長。YouTube「下町塾長会議」構成員。著書「ゆる中学受験ハッピーな合格を親子で目指す」(現代書林)、「めんどうな中学生(わが子)を上手に育てる教科書」(ブックトリップ)、構成・問題監修「LIZ LISA Study Series中1/中2」、監修「おっぱっぴー小学校算数ドリル」(KADOKAWA)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。