「夏の成果は9月には出ません」これってホント?|『二月の勝者』で考える中学受験のリアル
テレビドラマ『二月の勝者-絶対合格の教室-』の内容を受験指導専門家の西村創さんが「実際の現場ではどうなのか」という視点で考察します。
※原作やテレビを見ていない方の完全ネタバレにならないように留意していますが、本コラムでは内容の一部分を紹介しています。予備知識なく原作漫画や録画したドラマを楽しみたいという方は、先にそちらを見ることをおすすめします
受験指導専門家の西村創です。今回はTVドラマ『二月の勝者』の11月27日放送の第7話を題材に、塾現場を知る者として「実際はどうなの?」といった点をお伝えしていきます。
[考察・その1]夏の成果は9月には出ません
考察のひとつめは、「夏の成果は9月には出ません」という黒木先生のセリフ。こちらのシーン、実際のリアル度は100%です。
9月に成果、出ません。
「9月の模試の結果が期待外れの悪さだった!」と、塾に相談の電話をされる保護者は、7月の保護者会も保護者面談も不参加だったり、塾から発行する保護者通信も読んでいただけてなかったりする保護者にありがちです。
各塾は7月の保護者会と保護者面談で、夏期講習の重要性に加えて「いくら夏にがんばっても、その成果が出るのは10月下旬以降になる」ということを伝えます。
なぜ、夏の成果が9月に出ないのでしょうか。原因は2つあります。
夏の成果が9月に出ない原因 その1
夏の成果が9月に出ない原因ひとつめは、小6の9月以降の模試は、出題範囲が急に広くなるからです。いくら夏に集中的に取り組んだとしても、模試の出題範囲のすべてを勉強し切れるものではありません。
また、夏までの勉強はインプット中心です。模試という出題範囲の広いテストを制限時間内に要領よく解くトレーニングは、秋以降から本格化します。
だから、アウトプットの訓練をほとんど始めてもいない秋に模試を受けても、高い偏差値を出すのは難しいのです。一生懸命勉強しても、偏差値は上がるどころか、むしろ下がることもありえます。
それで、「もう、こんなに勉強しても成績が上がらないんだったら、一生懸命やるのも馬鹿らしい……」と思って、手を抜き始める。
すると成績はどうなるかというと……、意外と落ちないものです。
そこで「あ、これは一生懸命取り組まないで、『なんとなく』くらいで勉強した方が自分には合っているのかな」だなんて思う受験生が出てくるのです。今まで私が見てきた多くの生徒の思考です。これは勘違いの思考です。
夏の成果が9月に出ない原因 その2
夏の成果が9月に出ない原因ふたつめは、それまで本腰でなかった受験生も、夏からは本気モード、全力で勉強するからです。偏差値はテストを受けた集団の中で相対的に出されるので、上がりにくいのです。夏を経て周りもできるようになっています。
ただ、ここで強調したいのは、偏差値は上がらなくても、学力は上がっているということです。
たしかに夏の間の約40日に積み上げた学習は、すぐに結果として表れません。でもその分「そう簡単には無くならない学力」として備わっています。だから、佐倉先生も「みんな、確実に学力も 上がっているからね」って生徒たちに言っているわけです。
勉強に限らず、取り組みの成果は、取り組んだ「量」と「時間」に比例して現れるものではありません。取り組み続けても、成果がなかなか出ない。でも、成果が出なくても、確実に成果が出るそのときは近づいています。ある日突然成果が出て、そこからは一気に、驚くような成果が現れるのです。
[考察・その2]夏を過ぎても本気で勉強に取り組まない生徒
考察ふたつめは、石田王羅くんのように「夏を過ぎても本気で勉強に取り組まない」といった受験生はいるのかです。
こちらもリアル度100%です。
王羅くんのような受験生は、どこの塾にもいるものです。桜花ゼミナールだけでなく、たとえば劇中のルトワックのような御三家をめざすような塾でも、学力下位クラスは勉強しない受験生がいます。
ルトワックレベルの塾でも王羅くんのような受験生がいるんですから、難関校合格を売りにしていない塾だと、もうクラス中、王羅くんだらけということもあります。
ところで王羅くんは「本当は遊びたい」と言ってました。これは、子供も大人も全人類共通の気持ちではないでしょうか。それなのになぜ、遊びもしないで勉強しまくってる子供たちが大勢いるのでしょうか。
それは、勉強を楽しいと思っているからです。
よく「中学受験させるなんて、小さいうちから無理させてかわいそうだ。子供のうちは思う存分、遊ばせてあげた方がいい」などといった感じで、中学受験に批判的な声を上げる方がいらっしゃいます。
でも、そのような「中学受験≒子供がかわいそう」だと思っている方には、知らない世界があると思います。
授業中に小学生たちが目を輝かせて、講師の話に耳を傾け、「先生、わかった、わかった!」と、手を上げている生徒の周りで「あ、私もわかった!」と、手を上げる生徒たち。
「わかんない、わかんない。先生、ヒント、ヒント!」と言っている生徒の横で、「あ、待って、俺わかっちゃったかも! ヒント言うのちょっと待って!」などと、言いながら問題に取り組む生徒、そんな授業が展開されるクラスがあるのです。
もう、そんなときのクラスの生徒たちは、ゲームに夢中になったり、スポーツの試合に挑んだり、応援したりしているときのような熱量に満ちているのです。
集団授業というのは小さなライブ会場です。いや、ライブ会場はアーティスト、パフォーマンスをする人が主役ですが、授業は生徒たちが主役です。
講師が解けるか解けないか、ぎりぎりのレベルを見極めて問題を出す。それに生徒たちが食いついて、誰かの出した答えをヒントにして、別の誰かが答えを出す。ひとつのクラスの生徒たちは、皆近い学力ですから、差はほとんどありません。だから、知的に盛り上がる場になるのです。
この「知的な楽しさ」を体感してしまうと、誰でも手軽に味わえる楽しさよりも、ずっと夢中になります。こういう体験を幼いうちできた子たちは、その後自ら勉強するようになるので、将来伸びますよね。しかも、本人は「伸びる」とか「伸びない」とかではなくて、楽しいからやっているんです。楽しくて、将来伸びるのなら、たとえ入試に合格できなくも、もうそれで価値があることではないでしょうか。
でも王羅くんは、今のところそんな状態には程遠いですよね。ただし、ここで思い出してほしいのは、第一話で黒木先生が言ったセリフ。
「私が皆さんのお子さまたちを、第一志望校に全員合格させます」というセリフです。
黒木先生はこれまで言い切ったことをすべて実現してきました。きっと、王羅くんのことも、なんとかしてくれることでしょう。
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『保護者のための 中学受験 3分メソッド』
※記事の内容は執筆時点のものです
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