連載 『二月の勝者』で考える中学受験のリアル

「カンニングする生徒」これってホント?|『二月の勝者』で考える中学受験のリアル

専門家・プロ
2021年12月11日 西村創

テレビドラマ『二月の勝者-絶対合格の教室-』の内容を受験指導専門家の西村創さんが「実際の現場ではどうなのか」という視点で考察します。

※原作やテレビを見ていない方の完全ネタバレにならないように留意していますが、本コラムでは内容の一部分を紹介しています。予備知識なく原作漫画や録画したドラマを楽しみたいという方は、先にそちらを見ることをおすすめします

受験指導専門家の西村創です。今回はTVドラマ『二月の勝者』の12月11日放送の第9話を題材に、塾現場を知る者として「実際はどうなの?」といった点をお伝えしていきます。

[考察・その1]受験当日まで学力は伸びます

考察のひとつめは「中学受験は受験当日まで学力は伸びます」という黒木先生のセリフ。

こちら、実際のリアル度は100%です。

中学受験に限らず、高校受験も大学受験も、大人になってからの勉強も、学力は勉強したぶんだけ伸びます。

この時期は勉強しても「もう伸びシロがないんじゃないかな」と弱気になりがちですが、それは最近勉強した内容が、過去問の点数には反映されなかっただけです。入試本番でその内容に近い問題が出題される可能性はあるわけですし、学んだことがそのまま出題されなかったとしても、その知識を応用して解ける問題は増えています。

学力は入試本番、いや入試が終わってからも伸びます。たとえば2月1日の午前入試の問題で自信がなかった問題について、別の学校の午後入試に向かう途中に調べていたら、ちょうど出題された、というケースも珍しくありません。

入試は数年ごとと、その年ごとにトレンドテーマがありますからね。1校目の入試問題にそっくりな問題が、別の学校の入試で出されるといったこと、よくあるんです。

その典型例が時事問題で、たとえば「SDGs」はここ数年のトレンドテーマです。

2021年度入試では「SDGs」を「持続可能な開発(目標)」と答えさせる問題が、早稲田実業などの学校で出題されました。社会だけでなく、国語の文章や理科の問題に絡ませた出題も見られました。

また、2021年度入試で、いちばん多かった時事問題はアメリカ大統領選挙です。

劇中で島津順くん、上杉海斗くんがめざしている設定の開成中の2021年入試では、バイデン新大統領の名前、任期などについて問われました。サレジオ学院では大統領名のほか、所属政党名も問われました。ということは2022年度入試では岸田文雄総理に関することが、多くの学校で出題されるのが予想できます。

入試本番で解けない悔しい思いというのは、強烈に頭に残ります。入試本番で解けなかった問題が翌日、いや午後の入試でも出題されて「今度こそできた!」ということはよくあるので、すべての入試が終わるまで学力は伸びるのです。

「そうは言っても、最後の合不合判定模試(通称『合判』)も明日12日に迫ってるし、まだ合格可能性40%だし……」

だなんて弱気になっている小6のこの時期は、偏差値や合格判定が悪くても “参考程度”として受け止めてくださいね。

模試の不利な結果を覆して合格する受験生に共通して言える特徴は、受験校の過去問をやり込んでいることです。

模試は特定の学校の入試傾向に寄らないように平均的に作られています。最終局面では、平均的にできるようにならなくても、受ける学校の入試問題傾向に強くなればいいんです。受験する学校の入試過去問で合格者最低点に達すれば、模試の成績が悪くても受かることがあります。

黒木先生ふうに言えば「勝負はこれから」なのです。

[考察・その2]カンニングする生徒

ふたつ目の考察は「Rクラスの今川理衣沙さんのカンニング」についてです。

こちらも実際のリアル度は100%です。

私は合計6社の塾で講師をしてきましたが、どこの塾にも答えを覚えて、過去問で点数を上げようとする生徒はいるものです。

ところで、カンニングって古い歴史があるのをご存知でしょうか。

世界最古の試験制度といったら、中国の「科挙」という公務員採用試験。この試験に、試験で出そうなことを書き込んで持ち込んだのが、最古のカンニングペーパーだと言われています。

正岡子規や夏目漱石も、自らの著作で入試でカンニングをしたことを告白しています。カンニングって、意外と伝統的な行為なのです。

ただ、劇中の理衣沙さんは入試本番で不正行為をしたわけではありません。家で解いた過去問に、不正も何もないと私は思っています。

仮に答えを見ずに自力で解いたとしても、入試本番で大勢の受験生のなか、緊迫感最高潮の状態で、4科目連続で入試問題を解くのと、家でリラックスした状態で1科目だけ解くのとでは、点数に差が出て当然です。

だから私は、いや多くの塾講師は、家で解いた過去問の点数を合否判断の材料にはしません。

「家で解いた過去問の点数は合否判断の材料にしない」ということを保護者、生徒に周知しておけば、理衣沙さんのように「過去問でいい点数を取らなきゃいけない」「お母さんの喜ぶ顔が見たい」「私はまだ本気出してないだけ」などといった、プレッシャーに押しつぶされそうになっても、冷静になれます。

もし今後、わが子が理衣沙さんのように答えを覚えて写すような局面になったとしても、どうか責めないでほしいと思います。

ドラマの中で橘先生が王羅くんのことを「小学生が塾に行っているだけでも偉い」と言っていたように、中学受験という特殊な受験の勉強を、学校の勉強に加えてしているのはスゴいことです。

答えを写してまでいい点を取ろうという行動に出るウラには、「親の期待に答えたいけど、それができない!」という心の叫びが聞こえます。

黒木先生は佐倉先生に「保護者にカンニングの話はご法度」と言いました。そして、保護者には“不正を伝えず、怒らせず”という姿勢で臨むようにして、理衣沙さん本人には”いかに受験に向き合わせるかだ”と、課題を与えました。

佐倉先生は理衣沙さんに対して、「(理衣沙さんは、)がんばっているんだなーと思って」と声を掛けています。理衣沙さんには、そういった言葉が必要なんだと思います。

  • 自分の価値観で一方的に判断しないこと
  • 相手の立場に立って気持ちの理解に徹すること
  • 認められるところを探して認めること

この3つが、追い詰められた受験生には必要です。

[考察・その3]ライバル塾の先生が教室にやって来る

3つめの考察は「ルトワックの灰谷先生が、桜花ゼミナールにやってくるシーン」です。

こちら実際のリアル度は……、0%です。

塾同士は、1話の入試応援のシーンの考察でもお伝えしたように、たいてい犬猿の仲です。ある塾の講師が別の塾の教室に足を踏み入れようものなら大騒ぎ、大問題になります。

もう少し各塾が協力し合えれば、日本の子供たちの学力がもっと上がって、将来的に国力も上がっていくと思いますが、なかなか難しいのが現状です。

スマホが「simフリー化」して、簡単にほかのキャリアに乗り換えられるようになったように、塾の垣根もなくなってどこの塾に所属しようとも自由に活動できるようになるといいなと思っています。

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※記事の内容は執筆時点のものです

西村創
この記事の著者
西村創 専門家・プロ

早稲田アカデミー、駿台、河合塾Wings、栄光ゼミナール、明光義塾などで指導歴25年以上。新卒入社の早稲田アカデミーでは入社初年度に生徒授業満足度全講師中1位に輝く。駿台ではシンガポール校講師を経て、当時初の20代校長として香港校校長を務め、過去最高の合格実績を出す。河合塾Wingsでは講師、教室長、エリアマネージャーを務める。また、全国の中学校・高校でのセミナー講演、書籍執筆などに携わる。著書は『中学歴史が面白いほどわかる本』(KADOKAWA)の他多数。「にしむら先生 受験指導専門家」としてYouTube配信中。