連載 親子のための、「探究」する中学受験

中学受験にも人生にも役立つ「教材」との付き合い方【後編】|親子のための、「探究」する中学受験

専門家・プロ
2022年1月17日 中学受験ナビ 編集部

変化の激しい時代でも活躍できる人材を育成するために始まっている教育改革。「思考力・判断力・表現力」が重要だとする方針で注目が集まっているのが「探究型学習」や「アクティブ・ラーニング」です。とはいえ中学受験にはどんな影響があり、どう対応していけばよいのか、不安や疑問を感じる方も多いのではないでしょうか。この連載では、「探究×受験」を25年以上実践している知窓学舎の塾長矢萩邦彦先生に、次代をみすえた中学受験への臨み方についてうかがいます。

前編では塾のテキストや市販の問題集などを例に、その特性や付き合い方について、探究型学習の観点でお伝えしました。後編では「ちょっと意外な教材」を使った、家庭でも取り入れやすい学びの実践方法についてお伝えします。大手進学塾を経て、探究塾を主宰する矢萩邦彦先生にうかがいました。

日常で取り入れやすい「ニュース」の活用法

教材というと塾のテキストや参考書・問題集などを思い浮かべます。しかし、探究視点で考える際は、こういったパッケージにとらわれないことが大切です。「教材にならないものなどない!」と思ってください。

子どもの興味関心や知的好奇心につながるようにナビゲートできれば、すべての事象が教材になりえます。とはいえ、「そんな、ナビゲートなんて難しそう、どうしていいのかわからない……」という方も多いと思います。

そんなときに取り入れやすいのがニュースです。

ニュースは自分の住む世界で、今起きている話題です。だから、自分事化しやすい。ニュースを題材に家族内で対話や議論をしてみれば、それは立派な教材になります。

たとえば、ニュースになっている事象があったとして、「その事象が起きているのはなぜか?」「同じ事象でも立場が違うと捉え方は変わらないか? 変わる場合、どう変わるか?」「直接的な原因と、間接的な原因は何か?」といった具合に、視点を変えたり、知識とつなぎ合わせて考えたりして、家族で意見を話し合ってみるのです。

多様なものの見方があることに気づいたり、自分なりの根拠をもとに推理・推測したり、自分の考えを論理的に説明したりすることは探究型学習の柱のひとつですし、思考力や伝える力を育てるためのよい方法です。

ただ、テレビのニュースや、ネットニュースのランキング上位にあるようなものばかり見ていると、似たような話題になりがちなので注意が必要です。たとえば国内のニュースに限らず、CNNやBBCといった情報源からもネタを探してみるなど、視野を広げる工夫はしたほうがよいと思います。

「ニュースを教材に」というと難しく構えてしまいそうですが、気になる話題を取り上げて、背景や影響を推測したり、自分はどう考えるかを家族で話し合ったりしてみる。これなら家庭でも取り入れやすいのではないでしょうか。

話し合いで、なにか一つの正解を出す必要はなく、持っている情報をもとに推理・推測することや、思考する体験そのものを味わうように取り組んでみてください。

「ボードゲーム」が教材になる条件

家庭で取り入れやすいという点ではボードゲームもおすすめです。チェスや将棋、囲碁などを想像すると、わかりやすいと思いますが、勝つために戦略を練る過程があるので思考力・判断力などを育むことができる教材です。

しかし、チェス・囲碁・将棋などは抽象的で歴史もあるため、世界観やイメージが確立していて、その世界観が好きになれないと「興味を持てない……」となりがちです。

特に子どもはそういった世界観に敏感な傾向があると思います。世の中には多種多様なボードゲームがありますから、子どもが楽しめるものを選べば問題ありません。

まずは、その子が好きになれる世界観を重視してください。たとえばキャラクターやストーリー設定、カラーリングなどが好きな雰囲気かどうか、面白そうと感じられる印象かどうか、といった点が子どもの興味関心を伸ばすきっかけには重要です。

そのうえで、戦略的思考性が必要とされゲームかどうかチェックするのがポイントです。たとえば、すごろくや人生ゲームのような、「運要素」が強いゲームは娯楽としてはよいですが、思考力・判断力のトレーニングには向きません。

「どうやったら勝てるのか」、戦略性を持って突き詰めていけるものを選びましょう。大人や熟練者が有利になり過ぎて、のめり込む前に飽きてしまうこともあるので、バランスを見極めることが重要です。「勝ちたい!(勝てそうだ!)」という主体的な気持ちをベースに、戦い方を試行錯誤するそのプロセスが、探究的な学びの軸になります。

興味を持たせる「つかみ」の重要性

探究的学びでは「すべてのものが教材になりえる」と上述しましたが、よい教材になるかどうかは、子どもの興味関心がそれに向いているかによります。ここを無視してしまうと、優れた教材も意味がありません。

子どもの興味をかきたてるには、「何それ!!」という驚きを与えるのが効果的です。

子どものアンテナに響きそうな、「何それ!!」要素のあるポイントを、まずは、「ほいっ」と子どもに投げかけてみるイメージです。いわゆる「つかみ」になりそうなものですね。

学びになりそうなネタがあったとしても、それを順序立てて伝える必要はないのです。子どもが「何それ!!」と反応しそうなポイント、オイシしそうなところを「つかみ」的に紹介するのです。

例として、「漢字の由来辞典」があったとします。冒頭から順に見せていくと、『山という漢字は、山の形が由来です』といったような定番の事例が載っていたりします。そこで「もう知ってるなぁ……」と思うと、子どもの興味はあっという間に消えてしまいます。

そこで、たとえば『民』という漢字から紹介してみます。漢字研究者白川静氏の『字通』によれば、『民』という字は人々の目を潰し、視力を奪う(ことで従わせる)こと、とギョッとすることが書いてあったりします。意外性と怖さも相まって「何それ!!」という驚きポイントになるわけです。もちろん個性にもよりますが、「ちょっと怖い話」というのは子どもの興味をかきたてやすいと思います。

「えー!? なんでそんな由来になるの!?」と前のめりになったり、関連して歴史について調べてみたくなったり、別の漢字についても深く探究してみたくなるという具合です。

理解するためには順を追っていく必要がありますが、興味を持つためには順を追う必要はないのです。この記事の前編や、過去問の回(前編後編)でもお話しましたが、教材をはじめから順にやる必要はないのも同じ理由です。

興味関心を持って、「知りたい」という主体的な気持ちができてから、順を追って理解を深めていくことは意味がありますが、そうではない場合、まずは子どもたちの「何それ! 気になる!」の気持ちに火をつけるのを大切にしたいところです。子どものアンテナに響かせることを意識して、教材と出会わせるのは、大人ができる重要な工夫だと思います。

教材選びとともに、大人もアップデートを

前編に続いて、教材との付き合い方をお伝えしました。「子どもの興味の向くもの」を強調してきましたが、それとともに意識しておいていただきたいのは、大人側のマインドセットです。

子どもの興味の向くものに気づくには、日ごろから子どもの志向や成長度合いなどについて、大人が興味を持って観察することがとても大事です。

  • どんなものに、自分の子は心を動かすのか?
  • どんなことに、反応する傾向があるのか?
  • どんなものと出会ったときに、どんな変化があったか?

こういったポイントを把握できていると、ベストな教材との出会いをアシストできるようになると思います。

ただし、これは「四六時中、子どもに注目すべし」ということではありません。折に触れて子どもと対話をし、子どもの「今」を知ろうとするマインドセットを大切にしてほしいと思います。

日々成長する子供たちの変化を楽しみながら、大人側も自分自身をアップデートさせるつもりで向き合っていきたいものです。


これまでの記事はこちら『親子のための、「探究」する中学受験

※記事の内容は執筆時点のものです

矢萩邦彦
矢萩邦彦 専門家・プロ

教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「すべての学習に教養と哲学を」をコンセプトに「探究×受験」を実践する統合型学習塾『知窓学舎』を運営、「現場で授業を担当し続けること」をモットーに学校・民間を問わず多様な現場で授業・講演・研修・監修顧問などを展開している。代表取締役を務める株式会社スタディオアフタモードではメディア事業に従事、主宰する教養の未来研究所では、企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近編著書『中学受験を考えたときに読む本』『先生、この「問題」教えられますか』(洋泉社)。メディア出演はフジテレビ『めざましテレビ』TBS『サンデージャポン』他多数。

中学受験を考えた時に読む本先生、この「問題」教えられますか?