連載 親子のための、「探究」する中学受験

中学受験にも人生にも役立つ「教材」との付き合い方【前編】|親子のための、「探究」する中学受験

専門家・プロ
2021年9月16日 中学受験ナビ 編集部

変化の激しい時代でも活躍できる人材を育成するために始まっている教育改革。「思考力・判断力・表現力」が重要だとする方針で注目が集まっているのが「探究型学習」や「アクティブ・ラーニング」です。とはいえ中学受験にはどんな影響があり、どう対応していけばよいのか、不安や疑問を感じる方も多いのではないでしょうか。この連載では、「探究×受験」を20年以上実践している知窓学舎の塾長矢萩邦彦先生に、次代をみすえた中学受験への臨み方についてうかがいます。

世の中には学習教材があふれています。受験に効果的な教材は? 学力を上げる教材は? よくある質問ですし、気になる方も多いようです。今回は「教材」を切り口に、中学受験や子どもとの関わり方について、探究型学習の視点からお伝えします。

教材とはそもそも何なのか、子どもの成長を促すために親が持つべき視点とは何か。少しずつひも解いていきましょう。大手進学塾を経て、探究塾を主宰する矢萩邦彦先生にうかがいました。

「塾のテキスト」とはどんなものか

中学受験といえば塾のテキストが一番身近な教材でしょう。まずはこの塾のテキストがどういうものかを理解しましょう。

一般的に塾のテキストは、入試に必要な範囲の知識を全網羅することを目的に作られていて、どの単元をどの順番でやるか、いつまでにどれくらい進めるのかが決められています。

ようするに塾のテキストには「テストのための勉強」というゆるぎない軸があるのです。入試のために期間内にテストの点数を上げることを意識した、逆算的な教材といえます。一見すると非常に効率がよいように思えますが、テキストに書いてあることについて、本質的な理解を促そうとすると、指導の時間が足りないという大きな問題があります。結果として、「テキストをとりあえず暗記して、点数をあげよう」となりがちなのです。

こうした学習のサイクルは探究型学習の核となる「知りたいから勉強する」とはベクトルが逆。効率的に点数を取ることに注目して、個人の習熟度や興味関心を感知しないのは、探究視点では本末転倒です。「テストのための勉強」をしていると、画一的でマニュアル型な考え方や価値観から抜け出せなくなる可能性があります。

今までの社会ではマニュアルに沿ってきちんと動ける人材の需要があったからよいですが、今後の社会ではAIがその分野を担当します。また現代はVUCA(常に変動し、不確実で複雑で曖昧な予測が難しい社会状況)だと言われ、コロナ禍でその状態は加速しています。ですから、自分で思考し、行動していく力をつけないと、納得感のある豊かな人生を歩むことが難しくなってしまうかもしれないのです。

なんのために中学受験をするか。「試験でいい点を取り、いい大学に入り、いい企業に入るため」そんな思いが保護者の方にあるとしたら、その逆算的考えは前時代的な価値観といえるでしょう。そこから抜け出すのが探究型学習の第一歩です。

このように、探究視点でみると塾のテキストや、塾の学習の進め方に一定のリスクがあることがわかります。こういったことを、保護者が理解しているか否かは大きなポイントです。

中学受験はしたい、でも子どもの個性や興味関心も伸ばしてあげたいと思うなら、点数や偏差値だけでなく、本人の興味はどこにあるか、主体的に前向きに取り組めているかという日々の観察が非常に重要なのです。

塾のテキストという教材ひとつとっても、中学受験や子どもの未来について考えるポイントがたくさんあることがわかってきたでしょうか。次はほかの教材についてもみていきましょう。

問題集・参考書を選ぶ時のポイント

市販の問題集や参考書も身近な教材のひとつです。これらも塾のテキストと同様に知識を網羅することを目的につくられたものが多いのですが、自分で選べる点で自由度があります。

保護者が選んで与えるのではなく、子どもと一緒に選ぶのが重要です。教科やレベルは、ある程度保護者が絞ってあげたほうがよいですが、最終的な選択権は必ず子どもに与えます。

いろいろと手に取って中身をながめて、本人がやりやすそうと感じるものがよいです。たとえば、見開き完結のレイアウトがいい、文字は二段組みになっているほうが見やすい、色やイラストが好みに合う、など子どもによって選択基準はさまざまでしょうが、本人が「いいな」と思えるものを探しましょう。

そうして購入した教材ですが、探究視点では初めのページから順に進める必要はありません。これは過去問題についての記事でも述べましたが、まずパラパラとめくってみて、興味のあるところから読んでみるスタイルでOKです。

算数の場合は解けなかった理由を見つけて、さかのぼって学習する必要がありますが、他教科の場合、ひとつでも「おもしろい」と感じられることが見つかったら、「じゃあこれも好きなんじゃない?」と、ほかのテーマにつなげていくことができます。

「興味がある」や「できる」という感覚は「面白い、楽しい」というマインドをつくります。すると主体的に取り組むことができ、理解も深まっていき、たとえできない問題に出会った際にも、「どうすればできるか?」と、思考力・創造力を働かせて進んでいくことができるようになります。

このサイクルこそ探究学習の基本で、子どもたちが豊かに生きるために重要な力の源です。思考力が伸びるということは、関連して読解力・表現力なども培われていきます。こうした探究的学びのサイクルの先に中学受験があった場合、知識詰込み型の受験勉強ではない、主体的で前向きな体験にできると思います。

保護者としては、世の中に存在している「教材」というパッケージにとらわれないことが大切で、子どもの興味関心・習熟度・発達段階とかけあわせて中学受験が最適な選択肢かを常に判断していくという意識が重要です。


これまでの記事はこちら『親子のための、「探究」する中学受験

※記事の内容は執筆時点のものです

矢萩邦彦
矢萩邦彦 専門家・プロ

実践教育ジャーナリスト・知窓学舎塾長・株式会社スタディオアフタモード代表取締役CEO・教養の未来研究所所長。1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場で「パラレルキャリア×プレイングマネージャ」としてのキャリアを積む探究型学習・想像力開発・パラレルキャリアの第一人者。15000人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした統合型学習塾『知窓学舎』を運営。「現場で授業を担当し続けること」をモットーに、実践教育ジャーナリスト・教育カウンセラー・探究学習コンサルタントとしても活動している。グローバルビジネス学会・日本アクティブ・ラーニング学会・日本産業カウンセリング学会・キャリアコンサルティング技能士会所属。著書に『中学受験を考えた時に読む本』(編集著:洋泉社)、『先生、この「問題」教えられますか?』 (石川一郎・矢萩邦彦著:洋泉社)など。Yahoo!ニュースで『越境ウォーカー』を連載中。

中学受験を考えた時に読む本先生、この「問題」教えられますか?