中学受験ノウハウ 連載 親子のための、「探究」する中学受験

過去問をやり始めるのは、小6の夏休み明けから?【探究×過去問―前編】|親子のための、「探究」する中学受験

専門家・プロ
2021年2月17日 中学受験ナビ 編集部

変化の激しい時代でも活躍できる人材を育成するために始まっている教育改革。「思考力・判断力・表現力」が重要だとする方針で注目が集まっているのが「探究型学習」や「アクティブ・ラーニング」です。とはいえ中学受験にはどんな影響があり、どう対応していけばよいのか、不安や疑問を感じる方も多いのではないでしょうか。この連載では、「探究×受験」を20年以上実践している知窓学舎の塾長矢萩邦彦先生に、次代をみすえた中学受験への臨み方についてうかがいます。

過去問は入試に挑む学年になってから、問題の傾向を掴んだり、得点力を高めたりする役割で使うもので、いわば入試対策のためのツールというイメージがあります。しかし、探究的な視点で考えると、そういった目的だけで、過去問を使うのはもったいないといいます。大手進学塾を経て探究塾を主宰する矢萩邦彦先生に、過去問の使い方について聞きました。

進学塾がリードする、過去問の取り組み方

多くの中学受験塾で6年生の9月頃から過去問に取り組み始めるのには、それなりの理由があります。私自身も大手塾での中学受験指導した経験がありますが、小学生の成長段階から見ると、おおむね妥当なものだと思います。たいていの過去問は受験生にとって難しいものですから、心身の成長が伴ったうえで、取り組んだほうが実力を測りやすいのです。

6年生の9月頃というと、一般的に心身の成長が著しい時期で、さらに入試が近づいていることをリアルに感じられる時期でもあります。そうした意味で、模擬テスト的な役割の過去問演習に6年生の秋から取り組むことは一定の効果があるといえるでしょう。実際に、ぐんと伸びる子も多いと感じます。

過去問からその子の指向を測る。探究的な過去問の使い方

一方で探究的な観点や個別最適化の観点で考えると、「過去問は小6の9月頃からやる」といった考えは、まったく必要ありません。4年生でも5年生でも、本人の興味があれば取り組む時期は不問です。ただし、気をつけるポイントがふたつあります。

  • 点数は気にしない
  • 時間を測って、全問解く必要はない

たとえば、ペラペラと過去問を見せてみて「このなかで、やってみたい問題ある?」「おもしろそうだなーって思うものある?」などの声がけをして、本人の興味があるものだけ取り組んでみればいいのです。答え合わせも必須ではありません。答えが気になるなら答え合わせをすればいいし、知りたくないならそれでOKです。

こうしたやり方を続けていくうちに「なんだか、やたら解いてみたい出題がある学校だなぁ」とか、「この学校の問題の出し方は好きじゃないな……」といった、自分の指向が見えてくることがあります。その基準は行きたい学校や、進みたい方向性を自覚する際に、とても参考になるものです。

解けるかどうかを測るだけが過去問の存在意義ではありません。過去問には子どもの指向性を測る役割もある――そう理解できると、親子ともに視野が広がるのではないでしょうか。入試学年の子が塾の方針に沿って使うもの、時間制限の中で全問解く必要があるもの、というだけの画一的な認識は、もったいないと思います。

過去問との出会い方も使い方も、その子の興味関心に合わせて柔軟に付き合ってみると、探究的で主体的な学びにつなげやすいのです。

探究×過去問 ――「社会」のポイント

それでは過去問との向き合い方について、教科ごとにお話していきましょう。まずは「社会」です。

社会科は4教科型入試を受ける場合の必須科目で、言ってしまえばその特性上、「暗記でもなんとかなってしまう」教科です。覚える事柄の物量もあるので、大手塾などでカリキュラムにしやすく、いつまでにどこまで覚えるかのように、「逆算」をしやすい科目といえます。つまり、探究型とは真逆のつめこみ学習になりやすい特性がある科目です。

社会科の過去問をやってみて、間違った箇所を一問一答で暗記するようなやり方は、詰め込み型の典型です。「問題になっていないところは、別に知らなくてもいいや」というような姿勢は一番避けるべきで、主体性のある学びから遠ざかってしまいます。

探究的な過去問の使い方はそうではありません。その子の興味関心をもとに広げていくイメージです。「入試にあまり出ない分野だから意味がない」などと思わず、戦国時代が大好きなら、戦国時代を扱った問題を起点に、興味をどんどん広げていきます。

そうして考える土壌ができたうえで、暗記のフェーズに入っていけば、同じ暗記でも「詰め込み」ではなく、「吸収」になります。社会科の場合、テキストやカリキュラムの順番で覚えていく必要はありません。もちろん、体系的な学習にも意味がありますが、小学生の場合は興味からスタートすることが大事です。興味のある分野を徹底的にやっておいて、受験をハッキリと意識したら足りない知識をうめていくイメージで進めるのがよいと思います。

ここまでの前提をふまえたうえで、社会科の過去問に向き合うコツを2点あげます。

  • 点数やマルバツだけで問題をみるのをやめる
  • 問題全体を通して「どういうことだろう? なんでこうなったんだろう?」など、興味をひくポイントに、線を引いてチェックしていく

線を引いたポイントを掘り下げて調べてみたり、関連する出来事をつなげて考えていったり、文脈をふくめて吸収することが大事です。こうした過去問の使い方は、4 ・5年生など早めの時期から取り組むのがおすすめです。

「6年生で入試も近いのに、そんな時間的余裕はない」という場合は、暗記が単なるつめこみにならないよう、本人のモチベーションや目的意識とつなげてあげることに注力してください。

「点数が足りないから、ここまではとにかく覚えなさい」というスタンスではなく、本人の合格へのモチベーションを確認し、そのために「必要だから覚えたい」という主体的な目的意識を持って臨めるかどうかが、知識を詰め込みにするか吸収にするかを分けるからです。このことは、保護者のみなさんにぜひ覚えておいてほしいポイントです。

最近では、知識の量(知っているか、暗記できているか)を問う問題は減り、知らなくてもその場で与えられた条件から、考えるタイプ(思考力型)の問題が増えています。そうした時代の流れからも、「やらされて覚える」ではない、知識の吸収の仕方が大切なことがわかるでしょう。社会の過去問を、点数測定ツールだけではなく、子どもの主体的な学びにつながるよう活用してあげたいものです。


これまでの記事はこちら『親子のための、「探究」する中学受験

※記事の内容は執筆時点のものです

矢萩邦彦
矢萩邦彦 専門家・プロ

実践教育ジャーナリスト・知窓学舎塾長・株式会社スタディオアフタモード代表取締役CEO・教養の未来研究所所長。1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場で「パラレルキャリア×プレイングマネージャ」としてのキャリアを積む探究型学習・想像力開発・パラレルキャリアの第一人者。15000人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした統合型学習塾『知窓学舎』を運営。「現場で授業を担当し続けること」をモットーに、実践教育ジャーナリスト・教育カウンセラー・探究学習コンサルタントとしても活動している。グローバルビジネス学会・日本アクティブ・ラーニング学会・日本産業カウンセリング学会・キャリアコンサルティング技能士会所属。著書に『中学受験を考えた時に読む本』(編集著:洋泉社)、『先生、この「問題」教えられますか?』 (石川一郎・矢萩邦彦著:洋泉社)など。Yahoo!ニュースで『越境ウォーカー』を連載中。

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