中学受験ノウハウ 連載 親子のための、「探究」する中学受験

【後編】中学受験のまえに知っておきたい! 親のマインドチェンジのススメ|親子のための、「探究」する中学受験

専門家・プロ

変化の激しい時代でも活躍できる人材を育成するために始まっている教育改革。「思考力・判断力・表現力」が重要だとする方針で注目が集まっているのが「探究型学習」や「アクティブラーニング」です。とはいえ中学受験にはどんな影響があり、どう対応していけばよいのか、不安や疑問を感じる方も多いのではないでしょうか。この連載では、「探究×受験」を25年以上実践している知窓学舎の塾長矢萩邦彦先生に、次代をみすえた中学受験への臨み方についてうかがいます。

探究的思考にマインドチェンジしていくことが、これからの時代に重要だというメッセージを前編で紹介してきました。後編では引き続き、探究型へ思考を変化させるための、日々の意識の仕方、子どもへの対応の仕方についてお伝えします。大手進学塾を経て、受験にも対応した探究塾を主宰する矢萩邦彦先生にうかがいました。

「わかりやすさ」から抜け出す

子育ては想定外のことの連続です。子どもが将来どんな選択をするのか予想はできません。わが子には幸せになってほしい、そう願えばこそ、わからない未来は不安にもなります。

そこで「正しいはず、幸せになるはず」と思えるような、わかりやすい基準を定型化して、そこに子どもをあてはめ安心感を得たくなる心理も、わからなくはありません。

「いい学校に入り、いい企業に就職すること」というルートが一昔前はその基準でした。実際にそのルートで幸せそうに生きている人も多かったため、長い間多くの人が信じる価値観となったのでしょう。

わからないものを前にしたとき、人間はストレスを感じます。わからない状態のストレスから脱出するには、考えたり調べたり吟味したりして「わかる」状態になることですが、これには時間とパワーを要します。体力・気力が必要です。そんなとき、手軽に納得できる「わかりやすい正解」があったら、それに自然と頼ってしまうのは不思議ではありません。

子どもの教育もしかりで、本来子ども一人ひとりへの個別最適化を重視し、その子が今どんな成長段階にあり、どんなことに興味を持ったり、考えたりしているかを把握してアシストしていくことが理想です。しかし、それは簡単なことではありません。一番近い存在である親でさえ、大変と感じることです。

だから、テストの点数や偏差値という「わかりやすい」指標で子どもをわかろうとしてしまいがちなのです。そのため、時代が変わったと言われている今も、偏差値や“いい就職先”というステレオタイプな評価基準がまだ存在感を持ってしまっているのかもしれません。

「私は探究学習に賛同してるし、時代にあわせてマインドチェンジできてる」と思っている人も要注意です。

たとえば子どもが探究塾に行っていることで安心してしまうのでは、それこそ探究という「わかりやすい正解」を選んだだけになってしまいます。

探究的活動でも浅く広くになっていたら、もったいない。深めることに意味があるので、どんな点に反応して何を学びとして得ているかを、子どもと一緒に振り返ったり、次の活動にどうつなげるかを考えたりできると、すばらしいと思います。

「わかりやすい正解」を設定してレールを敷いてしまうほうが楽かもしれません。しかし、これからの時代、確実な正解はありません。目の前には多種多様な価値観があり、それに応じた選択肢が現れます。その中で豊かに生きていこうとするならば、わからないストレスに耐性をつけて、よりよい道を軌道修正しながら探し続けるスタイルを肯定しましょう。

「わからないことは怖いことではなく、宝探しのようにわくわくと進んでいけばいい」と、大人が身をもって子どもに示していくことが大切ではないでしょうか。

正解しなくていい、「対話」しよう

探究思考にマインドチェンジするために持っていてほしい視点は、子どもに「ちゃんと向き合って」リアクションを返すということです。

価値観をアップデートしていくことは時間がかかるかもしれませんが、子どもへのリアクションについては、今日からでも実践できます。

たとえば、子どもから何か質問を受けたとき、つい「正解を教えなくちゃ」と考えてしまっていないでしょうか。

「空はなぜ青いの?」と聞かれたら、「科学的な根拠を示して教えてあげなきゃ…!」などと思ったりしていませんか。

たった一つの決まった正解などありません。

大切なのは、子どもの問いに対してしっかり考えて自分の意見を伝える、対話することです。

「大人が一生懸命考えてくれている」
「自分に向き合って対応してくれている」

こう感じると子どもには自尊感情が育ちます。自己肯定感を得たうえで安心して考えを深めるフェーズにも進んでいけるのです。こうした関係性がある環境にいると、「主体的・対話的で深い学び」を日常的に実践していくことができます。

対話は、日ごろから親子で探究思考を身につけられる、とてもよい方法だと思います。子どもの質問や発言にちゃんと向き合って反応していくと、大人も学びを得ることができます。自分とは全くちがう感覚を発見できたり、今の子どもの関心事がどこにあるかを知れたり、本気で対応していくと思いのほか新たな視点を得られます。

視点が増えることは成長です。自分も主体的にアップデートしていきたいと思っていれば、子どもとの対話はいつも新鮮に楽しめるものになると思います。

子ども相手に「教えてあげよう、成長させてあげよう」といった感情は、押しつけになる場合もありますが、自分も一緒に成長したいという気持ちがベースにあれば、主体的で対等な対話が成立します。

とはいえ、大人も暇ではありませんから、「ちょっと相手にできないぞ……」というタイミングもあるでしょう。そんなときは「ちょっと待って。あとで話そう」でOK。必ずすぐに対応してあげなくても大丈夫です。

適当にあしらったり、ごまかしたりするほうがNGだと覚えておいてください。時間差があっても「この前のことについて、ちょっと話したいんだけど——」としっかりあとで反応を返してあげることが大事です。

こうした日々の関係性は、中学受験に挑戦することになっても忘れないでほしいポイントです。

受験となるとどうしても、点数や偏差値で他人と比べられるシーンが多くなったり、ストレスが増えたりすることがあります。そうした状況をふまえて、「今どんな心境か」、「受験に対してどんな考えで臨むか」などといった話題についても子どもと真剣に対話する機会を持ちたいところです。

主体的であること、これが探究学習の本質です。これまでの価値観や、社会がつくりあげてしまった評価などに惑わされず、子どもが主体的に学びを楽しめるにはどうしたらよいか。とても難しい課題ですし、正解は人の数だけあるかもしれません。たくさんの選択肢の中を模索しなくてはいけない時代、子どもといっしょに楽しめるマインドにチェンジすることは、親子にとって幸せのカギになるのではないでしょうか。


これまでの記事はこちら『親子のための、「探究」する中学受験

※記事の内容は執筆時点のものです

矢萩邦彦
矢萩邦彦 専門家・プロ

教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「すべての学習に教養と哲学を」をコンセプトに「探究×受験」を実践する統合型学習塾『知窓学舎』を運営、「現場で授業を担当し続けること」をモットーに学校・民間を問わず多様な現場で授業・講演・研修・監修顧問などを展開している。代表取締役を務める株式会社スタディオアフタモードではメディア事業に従事、主宰する教養の未来研究所では、企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近編著書『中学受験を考えたときに読む本』『先生、この「問題」教えられますか』(洋泉社)。メディア出演はフジテレビ『めざましテレビ』TBS『サンデージャポン』他多数。

中学受験を考えた時に読む本先生、この「問題」教えられますか?