中学受験ノウハウ 連載 親子のための、「探究」する中学受験

【前編】2022年 中学入試の動向と価値観の変化|親子のための、「探究」する中学受験

専門家・プロ

変化の激しい時代でも活躍できる人材を育成するために始まっている教育改革。「思考力・判断力・表現力」が重要だとする方針で注目が集まっているのが「探究型学習」や「アクティブラーニング」です。とはいえ中学受験にはどんな影響があり、どう対応していけばよいのか、不安や疑問を感じる方も多いのではないでしょうか。この連載では、「探究×受験」を25年以上実践している知窓学舎の塾長矢萩邦彦先生に、次代をみすえた中学受験への臨み方についてうかがいます。

2022年の中学入試シーズンが終わりました。今年の入試の動向を振り返りながら、今後の教育・受験業界への影響、そして子どもたちの未来への影響について、大手進学塾を経て探究塾を主宰する矢萩邦彦先生にお話をお聞きします。

コロナ禍2年目の入試。保護者意識の変化大?

首都圏模試センターの発表によると、2022年の首都圏私立・国立中学入試の受験者総数は推定で5万1100人と過去最多でした。今年の入試は倍率の面から苦戦した人が多かったかもしれません。

コロナ禍での中学入試も2回目となったわけですが、今年は保護者の意識の変化が感じられました。

これまでの中学受験は、いわゆる偏差値重視の価値観のもと、より高い偏差値の学校をめざそうとする層がボリュームゾーンで、探究的な学びに関心のある層は、どちらかというと中学受験ではなく、高校受験を選択することが多い傾向にありました。

これは「探究学習が中学受験と対立している」ということではなく、探究的なアプローチを望むと、必然的にその子に合った個別最適化をめざすことになるので、成長スピードの個性への配慮がなく、偏差値という画一的な価値観をベースにした受験にフィットしないと感じる人が多かったということです。

こうした「受験派」「探究派」に加え、どちらの派ともはっきり決めかねない「慎重派」の、3つの層がこれまで存在していたというのが僕の見立てです。

それがコロナ禍の2021から2022年にかけて、徐々に慎重派が受験派・探究派のどちらかに合流していき、2極化が強まったように思います。さらに、これまで受験をしない選択をしていた探究派も中学受験を選ぶようになってきた、というのが今年の入試の特徴のひとつではないかと考えています。

探究派が中学受験を選択するようになった背景には、コロナ禍での教育不安が挙げられると思います。公立校のコロナ禍での対応や、オンラインの取り組み等について、この2年で目立った改善や進歩が見られずに不安を感じた保護者が多かったようです。そのため「私学をめざそう」と考える家庭が増えても不思議はありません。たしかに、私学の方が本質的な探究学習を実践している例が多い現状もあります。このような流れが過去最高の受験者数の要因の一端だったと推察します。

難関校は横ばい。中堅校に人気が集まった

中堅校に人気が集まったのも2022年入試の特徴でしょう。探究派の受験生が増え、難関校ではなく、相性で選びやすい中堅校を志望したことも一因とみています。また、難関校を目指したいというよりも、公立中を回避したい動機の人が増え、比較的入りやすい中堅校に人気が集まった側面がありそうです。

ある中堅校では例年の1.5倍ほどの受験者だったり、急遽クラスを増やすという対応をした学校もあったりと、人気が集中したところは異例の対応をするほどだったようです。

学校側だけでなく、各家庭でも想定外のことが増えたと思います。中堅校の人気で、「合格圏内のはずだったのに苦戦した……」という受験生が多かったと思います。そのため連日午前・午後で連続受験したり、急遽出願先を増やしたり、想定よりも受験が長引いたりした家庭も多かった印象です。

また第一志望と第二志望のどちらも受かった際に、進学先に悩む受験生が例年以上に多かった印象です。いままでなら2校合格すれば「偏差値の高いほうへ」という流れが一般的でしたが、偏差値重視ではない場合、それぞれの学校の特性を比べて選ぶので、最後まで迷う家庭が増えたのではないでしょうか。これもまた、コロナ禍や探究学習の台頭を経て表れてきた価値観の変化といえそうです。

大学付属各校は人気ダウンの傾向

中堅校が人気を伸ばした一方で、私学の中では大学付属校の人気が落ち込みました。

大学付属校に入ると、基本的には中学から大学までのルートが決まるのが一般的で、いままではそれが魅力でしたが、変化が激しく見通しが立てづらい時代下で、中学から大学までの進路を、今決めてしまうことに疑問を感じる保護者が増えています。大学付属校の人気の落ち込みには、こうした保護者の価値観の変化が影響していると考えています。

コロナ禍を2年経たなかで、「対面授業がどれだけ実施されるか、わからない状況でわざわざ倍率の高い首都圏の大学に進むって必要ないかも」と感じる学生も増え、首都圏大学の志望率が下がっている現状もあります。世の中全体が「大学がこれからどうなっていくのか、わからない」という不安を抱えているということでしょう。「6年後一体どうなっているかわからないのに、いま大学付属校に進むメリットってあるの?」そんな感情が表れた結果かと思います。

これに対して大学付属校であっても、他大学受験も可能な学校は倍率の変化がなかったりします。これまでは「中高大一貫」というキーワードが強烈なメリットとして受け取られていましたが、徐々に疑問視され始めているのでしょう。時勢の移り変わりによる価値観の変化がここにも反映されています。

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※記事の内容は執筆時点のものです

矢萩邦彦
矢萩邦彦 専門家・プロ

教育・アート・ジャーナリズムの現場でパラレルキャリア×プレイングマネージャとしてのキャリアを積み、1つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーター。2万人を超える直接指導経験を活かし「すべての学習に教養と哲学を」をコンセプトに「探究×受験」を実践する統合型学習塾『知窓学舎』を運営、「現場で授業を担当し続けること」をモットーに学校・民間を問わず多様な現場で授業・講演・研修・監修顧問などを展開している。代表取締役を務める株式会社スタディオアフタモードではメディア事業に従事、主宰する教養の未来研究所では、企業や学校と連携し、これからの時代を豊かに生きるための「リベラルアーツ」と「日常と非日常の再編集」をテーマに住まい・学校職場環境・サードプレイス・旅のトータルデザインに取り組んでいる。近編著書『中学受験を考えたときに読む本』『先生、この「問題」教えられますか』(洋泉社)。メディア出演はフジテレビ『めざましテレビ』TBS『サンデージャポン』他多数。

中学受験を考えた時に読む本先生、この「問題」教えられますか?