中学受験ノウハウ 連載 親子のための、「探究」する中学受験

【後編】2022年 中学入試の動向と価値観の変化|親子のための、「探究」する中学受験

専門家・プロ

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変化の激しい時代でも活躍できる人材を育成するために始まっている教育改革。「思考力・判断力・表現力」が重要だとする方針で注目が集まっているのが「探究型学習」や「アクティブラーニング」です。とはいえ中学受験にはどんな影響があり、どう対応していけばよいのか、不安や疑問を感じる方も多いのではないでしょうか。この連載では、「探究×受験」を25年以上実践している知窓学舎の塾長矢萩邦彦先生に、次代をみすえた中学受験への臨み方についてうかがいます。

【前編】では2022年入試の特徴や背景についてお伝えしてきました。【後編】では、人気校が実施した取り組みや、今後の中学受験の学校選びのポイントについて、ひも解いていきます。引き続き、大手進学塾を経て探究塾を主宰する矢萩邦彦先生にお話をお聞きします。

今年躍進した学校の人気の要因

中堅校に人気が集まった2022入試ですが、例年から大きく出願数を伸ばした学校が行った取り組みに注目してみましょう。

都内A校を例に見てみると、オンラインの学校説明会の場合、全体の説明だけでなく、個別説明の場を増やす取り組みをしていました。また、在校生が広告塔になって自ら学校生活について発信したり、質疑を受けたりという活動もあったようです。

コロナ禍でオンラインの学校説明会が増えましたが、やはりオンラインの懸念点は臨場感の無さにつきると思います。

リアルな説明会であれば、自分で移動して学校まで向かう体験や、壇上以外の先生がどんな様子か、校内の雰囲気はどうか、カメラが向いていない部分から得られる情報が多くあります。ところが、オンラインだと画面に写っている一場面からしか情報が得られません。ここに物足りなさを感じる人は多いでしょう。

私は、オンラインの臨場感不足をカバーする重要な要素が、対話だと考えています。とくに「個別」に対話できる機会の有無によって、その学校の印象は大きく変わります。一方的なウェビナー形式の説明会と、個別質問・相談に対応してくれる説明会とでは、その学校に対する信頼感や期待感に違いが出るのは想像に難くありません。

保護者にとっては、コロナ禍で教育への不安がベースにあるわけですから、学校側の対応に積極的な創意工夫や挑戦を感じると、それはそのまま学校教育への期待につながります。「変化の激しい時代でも、臨機応変に最適な道を探って教育してくれそうだ」という印象になり、それが学校を志望する熱量にも反映されていったと考えられます。

今後の学校選びに必須となる学校の「対応力」

上述したように、時代に合わせた学校の対応が、学校の魅力に直結するという現象は今後も続くと予想されます。

コロナ禍でリアルに生徒や保護者に会ったり、自由に見学してもらえないのを前提としたうえで、学校側が受験生親子とどのようにコミュニケーションをとるか。これは今後学校を選ぶうえで、おおいに参考になるポイントです。

また、偏差値だけにとらわれない入試方法を取り入れたり、カリキュラムに探究的な学びを取り入れたりする学校も昨年同様に増えてきているので、その辺りも引き続き注目してよいでしょう。

しかし、まだまだ名実がともなっていない学校もある過渡期ですから、パンフレットやホームページをはじめ、学校側の発信だけで判断しない姿勢は重要です。今までは評判がいいと思っていたけど、変化が起こったとたん対応力の低さが露呈してしまったという学校もあります。これまでの経験や価値観だけでは測れない局面が学校選びにおいても起こっているのです。

従来の価値観や評価基準だけでなく、新しい環境に対してどう柔軟に対応し、最善策を出し続けられるかという視点が大事です。これは学校側に求められるポイントであると同時に、保護者も意識すべきことです。今まで信じられてきた偏差値や評判だけにとらわれず、学校が新しい時代にフィットする施策を打ち、実践しているかを見ていきましょう。

さらに、学校の特色・特徴をより鮮明に打ち出してきている学校も増えていますので、コロナ禍での対応と合わせてしっかりとチェックしていきたいところです。

学校側だけにとどまらず、親子の価値観にも変化が訪れている時代。画一的な評価基準ではなく、今まで以上に子どもの志向や特性について理解したうえでの学校選びが求められているでしょう。

時代が変わっても変わらない学校の価値

時代が変化し、価値観に変化が生まれても、変わらない学校の価値判断のものさしがあります。それはその学校が、わが子にとって居場所であり、成長できる場であるかどうかです。

居場所だと感じられて、成長を実感できる場であれば、そこはベターな学校だといえます。

いままでは、わが子の個性を鑑みたうえで「居場所」「成長できる」という観点を、あまり意識していない保護者が多かったように思います。「偏差値が高くて、評判の良い学校であれば、そこはわが子にとっての居場所で、成長もできるはずだ」というイメージが根強かったのだと思います。一般的な意見や、希望的観測にのっとっていた感じです。

しかし、従来の基準だけでは判断できなくなった世の中で、どんな場が子どもにとって居場所となり、成長できそうなのかを、いやおうなくそれぞれの家庭がそれぞれの判断軸でじっくりと考えて、探す必要が生じてきました。楽ではないかもしれませんが、とても本質的な考え方に立ち返るよい機会だったといえます。

中学受験はその先6年間を過ごす場を決める重要なシーンです。より主体的な体験にするためにも、さまざまな視点から学校を比較検討し、親子で対話しながら選択することを大切にしてほしいと思います。


これまでの記事はこちら『親子のための、「探究」する中学受験

※記事の内容は執筆時点のものです

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