連載 中学受験との向き合い方

読解力をどう育むか、本を読む子に育てるには? ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2022年4月28日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

中学受験で「読解力」というと、国語的スキルという印象がありますが、相手のことを推し量るために必要なスキル、いわばコミュニケーションに必要なスキルでもあります。ここでは読解力とはどういったものか今一度考え、読書との関係はどうか、本を読む子に育てるにはどうしたらいいかといったことを考えてみます。

読解力の根っこの部分

読解力について辞書で調べると「文章を読んで、その意味を明らかにする」といったことが書かれています。しかし、この読解力を根本的なところから考えてみると、まず「書いてあることと、書いてないことの分別(ぶんべつ)」があるように思います。

勉強の場面でも、たとえば「文章を読んで次の問に答えなさい」といった問題があった場合、書いてないことが問われることは、あまりないわけです。受験生は文中に書いてあることと、そうではないものとを点検・区別して解答します(もちろん『あなたの意見を自由に書きなさい』といった問いもありますが……)。

こう考えると読解力の根っこには「事実とそうでないことを分別する力」のようなものがあるのかもしれません。

ただ、こうした根っこの読解力がありつつも、書かれていないけれども行間を漂っているもの――たとえばニュアンス・気分・雰囲気――をどう読み取るかといった、ある種の感受性もあり、それも読解力を構成する重要な要素なのだと思います。

感受性が問われる文章の代表例は「俳句」や「詩」でしょう。文字通りのことしか受け取らなかったとすると、俳句や詩は味気ないもの、無意味感のあるものになってしまいます。このように読解力には対象を想像したり、推し量ったりする一面もあるのです。

事実と想像の分別

前述のように考えると、読解にはひとつ大切な姿勢があるように思えます。それは「事実と想像を分別する姿勢」です。

目の前に書かれている事実と、それに対して自分が抱く想像・解釈には違いがあるということです。言い換えるなら「自分と他人は違う考えを持っていて当前」ということになります。普段文章を読む際、わたしたちは意外と認識しないものですが、こうしたことを念頭に置いておくことは大切です。

たとえば「五月雨や大河を前に家二軒」という与謝蕪村の句について。この俳句から、どんな景色がイメージできるでしょうか? おそらくこの文を読んだ人のイメージと、作者のイメージがイコールになることは、ほぼないでしょう。川はあなたが思い浮かべる景色の中でどちらからどちらへ向かって流れていますか? 音を文字にするとどうなりますか? 家の大きさや屋根の色はどうでしょう? 想像の余地がかなりあるのです。

小説や物語で表現される登場人物の心情も同じように、読み手がイメージしたものと、作者や出題者のイメージしていたものは一致していないかもしれません。ですから文章も心情も、何かを読み解く際には「自分はこう思ったけど、相手の真意はそうじゃないかもしれない」という視点を持つことを忘れてはなりません。このことは、自分の理解に頑なにしがみつかない、柔軟な姿勢とも申せましょう。

たくさん読書すれば読解力は鍛えられる?

ところで「読解力は読書で鍛えられる」というのはよく聞く話ですが、ではたくさん本を読んでいる子ほど読解力が優れているのでしょうか。

たしかに、ある程度はそういえるかもしれません。本を一冊も読んでいない子と、たくさん読んでいる人を単純に比較すれば、そういうこともあると思います。読書体験は無いよりもあったほうがいい。しかし私は「本をたくさん読めばよい/読ませればよい」というわけでもないと思います。

読書体験と同じくらい大切なことは、いかにして子供に『言葉を注入するか』です。読書でなくとも、うまく言葉を注ぎ込めれば、言葉への興味付けはできるし、読解力も育めるのではないかと思います。親御さん自身が語彙力を高めようと努力する様子や、家庭で言葉について話題にするなど、言語環境を進化させることはおすすめします。

私にも『言葉を注ぎ込まれた体験』があります。それは祖父の住んでいた土地の昔話でした。祖父が昔話を語るとき、私には実際の景色は見えないので、頭の中で想像しながら話に聞き入るわけです。同じ話を何度も聞き、私の前にその話を何度も聞いて育った母親からもまた同じ話を聞きました。その土地にまつわるエピソードは5つくらいでしたが、その場その場で語り口は違い、伝わってくるニュアンスも違ったわけです。私の場合、言葉の世界への興味はこうした語りによって掻き立てられた気がします。

本を読む子に育てるには

読書体験は無いよりもあったほうがよいわけですが、前述の通り、強迫的に「たくさん読ませなければ!」と思う必要はないと思います。これから先、言葉の世界を広げていこうという子供たちにとっての「基礎的なツールのひとつ」として、本を活用できればいいわけです。

読書体験を喜びと結びつける

子供たちが本に触れる際、親御さんに持ってほしい観点は「お子さんの読書体験と喜びが結び付いているどうか」です。逆に言うと、読書体験と嫌な体験を結び付けて刷り込まないことです。

たとえば、子供が本を読んだ後に親がテストして「違っているじゃないか! もう1回読み直し!(怒)」みたいな、苦味のする体験と結び付けないほうがよいわけです。強いられた読書のようなネガティブな体験を伴うものだと、読書そのものが嫌になってしまいます。

そもそも本は、自分でページをめくらないと中身がわからないものです。ページをめくって「あ、こんなふうになっているんだ」「こんなことが書いてある!」ということが自分でページをめくった結果、見えてきます。喩えるなら、読書には自分で「窓」を開けて、ワクワクする景色が見えたときの驚きや喜びのようなものがあるはずなのです。これは苦痛とは真逆の、快感を伴う喜びであり、読書の醍醐味になります。

子どもたちにとって、そういう材料になりそうな本は、きっとたくさんあるはずですから、そういった本を、親御さんがお子さんに紹介してみたり、お子さんの周りにさり気なく散らかしておくことです。子どもたちの視野に入る家庭内の景色のなかで、どれだけいい本を揃えているかというのは、親御さんの力量が問われるのでしょう。

さて、ここで2つ質問をさせてください。

今のお子さんへ、親御さんが推薦図書を3冊挙げるとしたら、どんな3冊を選びますか?

また、最近親御さんが読まれた本についてお子さんと話題にした本はありますか?

本と本物の体験を往来する。「?」を「!」に

もちろん、ただ本を買い与えたり、それを散らかしたりするだけでは、子供が興味を示さないこともあります。そんなときは本物の体験をすることも大切です。

たとえば、歴史が好きなら現場に出かけてみて、その後でその歴史的イベントについての書籍を読ませてみるといったステップですね。

私事ですが、先週思い付いて奈良県に出向き、畝傍(うねび)駅から甘樫丘(あまかしのおか)まで歩きました。ちょうど初夏を感じる陽気でしたから、「白妙の衣が干されているかな?」と香具山を眺めたり【本(新古今和歌集)から本物へ】、大化の改新の事件現場の今を訪ねたりしました。そして『蘇我氏-古代豪族の興亡』という本を買いました【本物から本へ】

子供に限った話ではありませんが、頭の中のクエスチョンマーク「?」が、エクスクラメーションマーク「!」に変わる瞬間は、基本的に喜びの体験です。ある種の緊張、「わからないな……」という緊張がフッと解けた瞬間ですから「気持ちいい」となるわけです。本物の体験とリンクさせて、本を読むことに喜びが伴うようにする。こうした働きかけを、親御さんもお子さんも楽しみながら行ってほしいと思います。

音読に演劇を取り入れる。エンタメ化と遊び

読書そのものを楽しむ方法もさまざまありそうです。たとえば音読なら演劇を使わない手はないでしょう。学校の先生のように読んでみてもいいし、人気のYouTuberのように読んでみてもいいわけです。中学受験の国語で学ぶ説明文・論説文であれば、講演をする専門家のように読んでみても面白いかもしれません。本を読む行為をエンタメ化したり、言葉で遊ぶ手法を取り入れたりするのは、読書を楽しむためのひとつの便法ではないかと思います。

お子さんが小さかったり、読むことに慣れていなかったりする場合は、親御さんが読み聞かせをしてみるのも良いですね。読む題材は絵本でも、図鑑でも良いし、新聞でもよいと思います。耳で聞いていたものを、今度は目で読んで見る。読んでいたものを、今度は耳で聞いてみる。それが刺激になって、新しい「?」と「!」が生まれてくるかもしれません。

前出の語り聞かせや読み聞かせは、言語の注入作業であるばかりでなく、子供の人生を支える親子関係の土台作りに役立ちます。子守歌も同様に、小さな子供にとっては極上のエンタメです。親子の時間の過ごし方のひとつとして読書や音読を楽しめるとよいですね。

苦味のある読書、噛みごたえのある読書

さて、ここまで快い読書や、読書を楽しむための手法について考えましたが、ときには「苦しい読書」をしなければならないこともあります。調べ物や「何かの材料にする」という目的なら、その苦痛に耐える必要もあります。受験生が苦手科目のテキストを読み込むのも、これに近いものがあるかもしれません。わかりにくい言葉が並んでいて「これ以上読みたくない!」という気持ちになることもあるでしょう。

そうした場合は、その苦痛を細かくする工夫が必要です。スマホやパソコンでわからない言葉を調べながら文章を読んでみる、少し時間を置いてから読んでみるなどです。粘り強く読むことで、文脈が理解できるようになり、読み進める楽しさが徐々に生まれてくることもあります。ぐっとこらえて書いてあることを読み取る姿勢も、読解力を身につけるためには必要な作法なのです。その際、お子さんが全く知識を持たない事柄や語彙については、親が気安く相談に乗ってあげられるといいですね。

読み解く楽しさを味わう

文章も心情も何かを読み解くには「事実と想像を分別する姿勢」、「自分はこう思ったけど、相手の真意はそうじゃないかもしれない」という謙虚な姿勢が大事です。こうした姿勢は、他者を尊重するやさしさにつながります。読解力は学習だけでなく、人間関係を育むために欠かせないスキルです。中学受験という教育活動プロセスの中で、親子一緒に読み解く楽しさを経験してほしいと思います。

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所、コミュニティ・カウンセラー・ネットワーク(CNN)などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。相性はDon先生。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)。公式YouTubeはこちら

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この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。