学習 連載 なるほどなっとく中学受験理科

植物と昆虫の関係を理解すると、生物はもっとオモシロイ|なるほどなっとく 中学受験理科

専門家・プロ

学習範囲が広く、難しいイメージがある理科の中学入試問題。難関校に多くの子どもを合格させてきたカリスマ講師・小川眞士さんが、子どもの理科力を育むためのヒントを伝えます。

植物と昆虫(動物)は密接な関係があり、これまで共生しながら生き延びてきました。中学受験の生物の学習も、両者を関連づけて理解することで理科的思考が養われ、生物への理解も深まります。今回は、植物と昆虫の共生の例を少し紹介しましょう。

虫を寄せ付けない、植物の工夫

昆虫が餌とする特定の植物を「食草」と言います。カイコの幼虫は桑、アゲハチョウの幼虫の多くはミカン科の植物、モンシロチョウの幼虫はアブラナ科の植物といったように、食草が限られている昆虫はたくさんいます。それはなぜでしょうか?

じつは、植物はいろいろな昆虫に食べられてしまわないように「阻害物質」というものを出しています。もし「阻害物質」がなく、全ての昆虫が全ての植物を食べられるとしたら、植物は絶滅してしまうかもしれません。つまり食草が決まっているからこそ、植物が生き延びられると考えられます。では、食草はどのように決まるのでしょうか? ここでは、モンシロチョウとアブラナ科の植物を例に挙げて説明します。

モンシロチョウの幼虫(アオムシ)は、菜の花、キャベツ、大根、ブロッコリーなど、アブラナ科の植物の葉を食べます。しかし、アゲハチョウの幼虫はアブラナ科の植物を食べません。

アブラナ科の植物には「からし油配糖体」という成分が含まれています。アオムシは、この成分を分解する酵素を持っているので、アブラナ科の植物の葉を食べることができます。しかし、他の昆虫はこの酵素を持っていません。

つまり、アオムシはアブラナ科の植物を独り占めできるというわけです。アブラナ科の植物にとっては、アオムシに食べられることは不本意ではありますが、もしも「からし油配糖体」を含んでいなければ、他の昆虫にも食べられ放題になってしまうわけです。

モンシロチョウは、卵からふ化した幼虫がすぐに餌を食べられるように、アブラナ科の植物に卵を産み付けます。

では、モンシロチョウは、どのようにアブラナ科の植物を見分けるのでしょうか。じつは、脚に人間の鼻のような器官があり、ニオイでアブラナ科の植物を見分けていると言われています。

動物の原始的な感覚は、嗅覚です。海で成長した鮭が故郷の川に戻ってくるのも、川のニオイを覚えているからだと言われています。昆虫の場合は、ニオイを感じる器官は脚に多くついています。

虫を寄せ付ける、植物の工夫

植物は阻害物質を出して昆虫をできるだけ寄せ付けないようにしていますが、一方で、昆虫に寄って来てほしいときもあります。その一つが受粉のときです。

多くの植物は「自家不合和性」と言って、自家の花粉が自家のめしべについても受粉しないようになっています。つまり他家受粉するわけですが、それには花粉を運んでもらわなければなりません。花粉を運ぶ昆虫(動物)を「送粉者」と言いますが、植物によって送粉者はある程度決まっています。

受粉を決定づける要素の一つに昆虫の口があります。モンシロチョウの口はストローのような管になっており、この口で蜜を吸います。じつは、菜の花の花筒とモンシロチョウの口の長さは同じくらいなので、モンシロチョウは菜の花の蜜を吸います。

菜の花とモンシロチョウ

ちなみにハチは、菜の花のような壺型の花の蜜を吸うことができません。ハチは、ひまわりのように花筒が短い花の蜜を吸います。ひまわりはキク科の植物ですが、キク科の植物は舌状花<ぜつじょうか>があります。この舌状花は昆虫を呼ぶための目印としての役割を持ち、そこに発達した「めしべ」はついていません。ひまわりの中心部分は筒状花(菅状花)<かんじょうか>で、これが実をつくります。

ハチはこの筒状花(菅状花)の上を歩き回って蜜を吸い、そのときに体に花粉がついて、他のヒマワリに運びます。こうして、ヒマワリは受粉します。

ひまわりとハチ。ひまわりの中心部分の筒状花(菅状花)の蜜を吸う

このように植物は、蜜を出したり、花びらを工夫したり、他にもニオイを出したりして昆虫を誘うための工夫をしているのです。

種子を動物に運んでもらうための植物の工夫

植物は、生息する場所が1カ所にまとまっていると、もしその場所の環境が大きく変化したときに全滅してしまいます。そこで、たくさん種子をつくり、できるだけ広く子孫を残す工夫しています。

種子を遠くに運ぶためには、風や水の力を借りたり、動物の力を借りたりする方法があります。たとえばタンポポの種子は羽毛がついていて風の力で遠くに運ばれます。イノコ゚ヅチという植物は、動物の体に種子がつく形状になっています。親御さん世代のなかには、野山を歩いていて服についたことがある方もいらっしゃるかもしれませんね。あの植物です。

イノゴヅチは、動物の体や人の服に種子をつけて子孫を反映させる

ホウセンカは、風や動物が当たるといった刺激を受けると実が弾けて種子が飛びます。これも少しでも広い範囲に子孫を残そうとする工夫です。

ホウセンカの種子。風に吹かれたり、動物があたったりすると種子が飛び散る

すいかや柿などの果物は、ちょうど美味しくなった頃に鳥などに食べられます。鳥はすいかや柿が美味しくなったことがわかります。そして、すいかを食べた鳥は、あちこちに飛んでいき、種は消化できないので糞に交じって捨てられます。そこで発芽します。

つまり、動物などに種子を運んでもらいたい植物は、美味しい実をつくることもあるわけです。これも植物の知恵と言えるでしょう。

さて、畑のすいかは収穫されないとそのまま地面の上で腐りその中に種が残ります。しかし、このような場合すぐに種子は発芽しません。これは実の中に発芽を抑える物質が含まれているためです。その物質が雨などで洗われてなくなると発芽の準備が整います。発芽するためには温度などの要素もありますが、発芽を抑制する物質によって一斉に発芽することを避けて、少しでも種を残そうと工夫しています。

いちごは、表面のつぶつぶは果実で、この中に種子があります。じつはいちごの種子は、乾燥に強いもの、温度変化に強いものなど、いろいろな性質のものがあります。全部性質が同じ場合、環境が変わってしまうと適応できず全滅してしまうからです。つまりいろいろな環境に耐えられる種子をつくっているわけです。ですから、自然のままでいちごが育つと味も形も違ういろいろなものができます。私たちが食べている苺は、個体差がないように人工的に工夫して栽培しています。

このように植物と昆虫(動物)には密接な関係があり、互いに生き延びるためにさまざまな戦略を取っています。

なお、過去の入試では、植物が種子をつくって子孫を残すしくみについて説明したリード文を読んでから、いろいろな花が、昆虫や鳥などを利用してどのように受粉を行っているか考える問題が出題されたこともあります。ほかにも、色やニオイをつけた紙を使った実験を通して、昆虫と色、ニオイの関係を考える問題などもありました。

植物と昆虫を別々に理解するだけでなく、関連づけて学ぶことは、入試にも役立ちます。なにより、昆虫と植物の関係を考えてみると、理科の面白さはもっと広がるでしょう。ぜひ、身近な植物と昆虫のかかわりに注目してみてください。

※記事の内容は執筆時点のものです

小川眞士
小川眞士 専門家・プロ

小川理科研究所(東京都豊島区)主宰。都内の中学校教諭を経て、四谷大塚進学教室理科講師に。開成や桜蔭の特別コースを約25年間担当、コース生28人全員が開成中学に合格した実績を持つ。教務主任や副室長も務めた。2009年4月に小川理科研究所を開設。主な著書に、『中学受験 理科のグラフ完全制覇』(ダイヤモンド社)、『これだけ理科』(森上教育研究所スキル研究会)、『カンペキ小学理科』(技術評論社)がある。

この記事の著者

雑誌・新聞の編集・ライターを経て、現在は、通信教育企業のキュレーションサイトや大学案内のライティングなどを担当。