「中学受験は通過点」海外で働くパパに聞いた教育事情 | 世界で働く親が考える子供の教育#1
「海外の教育事情ってどうなってるんだろう……」そんな疑問を解消するため、海外で働くパパママたちに取材してみました。「世界で働く親が考える子供の教育」は、5回の短期連載でお届けします。
佐藤淳一さん(仮名・51歳)は、シンガポール駐在3年目で日系メーカーに勤務。子供は日本人学校に通う小学校3年生の愛娘、真菜ちゃん(仮名)がひとり。
アフターコロナは在宅でリモートワークをする時間も増え、家庭では真菜ちゃんの中学受験の勉強をみることもあるそうです。
シンガポールは教育熱心な国としても知られ、日本人駐在員も帰国のことを考えて中学受験の準備をする家庭が多いです。佐藤さんご家族も3年後には受験を予定しています。どのような準備をされているのかを伺いました。
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「東京24区」という呼び名もあるシンガポール。日本式の受験勉強も出来る
高島屋、伊勢丹、紀伊國屋、ドンキホーテなどがあり、日本のものが何でも手に入るシンガポールは「東京24区」と呼ぶママたちがいるほど便利。日本にいる感覚で生活をすることも可能です。
世界中にある日本人学校の中でもシンガポールの日本人小学校・中学校はレベルが高いと評判で、教育熱心な親ばかり……というのは現地ではよく知られた事実です。
小学校3年生になれば塾に通い出す生徒が多いのは日本と同じ。シンガポールには、SAPIXこそ進出していないものの早稲田アカデミーや駿台、enaなど日系の塾があり、帰国子女受験に向けて手厚いサポートを行っています。合格率も高いです。
「小学校3年生からは、早稲アカに通わせましょう」そう決めていたのは、淳一さんの妻、玲子さんでした。
真菜ちゃんが生まれてからすぐに七田式の教材を購入し、小学校1年生から公文での勉強をスタート。週2回送迎をしていたのも玲子さんだそうです。
シンガポールにも公文の教室はあちこちにあり、日本人だけではなくローカルのママの間でも通わせている人は多いです。
玲子さんは、真菜ちゃんが赤ちゃんの頃から早期教育をし、公文で計算の力をつけ、小学校3年生の2月からはいよいよ入塾……というスケジュールを組みました。
真菜ちゃんは、授業はもちろん雑談が面白い先生がいる早稲田アカデミーに通うことを楽しんでいるそうです。
日本の書籍は、オーチャードストリートにある高島屋内の紀伊國屋で購入することが出来るので、海外といえども不自由はありません。日本のAmazonでそろばんを購入した時には、翌々日にシンガポールに届いたそうです。
海外にいるメリットを生かした教育の工夫とは?
「娘には出来るだけ今しか経験できないことに取り組んで欲しい」というのが淳一さんの方針。
シンガポールという多国籍な土地に住んでいるメリットを生かして、日本人の友人を大事にしつつも、なるべく外国人の仲間とも話す機会を作るようにしているそう。週末には、自宅に外国人の友人を呼んで一緒に食事をすることもあるそうです。
真菜ちゃんは「NHKのラジオ英会話」をオンラインで聴いているそうですが、淳一さんが学生の頃に聴き続けたことで英語が好きになったことからおすすめしたそうです。
「長年支持されている教材なだけに、よく考えられていると思います」
真菜ちゃんは、英会話を学ぶ際に最適だと言われる海外ドラマ「FRIENDS」もお気に入りだそうです。
日本にいる時と海外に出てからで、子供への教育観は変わった?
「海外に出たことは大きい変化でしたが、特に教育観が大きく変わったとは思わないですね」と、淳一さん。
「算数は計算と基礎をコツコツやること。答えが合っているか合っていないかではなく、どうしてそうなるかを説明できることが大事。英語は資格勉強ではなく、色々な人と会話をすること」ということでした。
ただ、多くのシンガポール人が子供の頃から算数と英語、そして中国語をスパルタ式に学んでいる現状を見て、将来、海外ビジネスに強くなる教育をしているという意味ではアドバンテージがあると思われたそうです。
淳一さんは東工大出身で、勉強や仕事をする上で数字がいかに重要なのかを知る経験を積んできただけに、真菜ちゃんにも論理的思考が出来る子供になって欲しいという希望があるそうです。
とはいえ「何事も本人次第」というのが淳一さんの考えで、自発的に取り組まない限り成長はないという思いから、本人が興味のないことを無理にすすめることは控えているそうです。
もし、日本にもどったら、子供の学校選びの軸はどこに置く?
中学受験をして本人の第一希望の学校に合格できれば理想的ですが、中学校よりも社会に出てから注目されるのは大学、もしくは大学院。そこにフォーカスして頑張ればOK、というのが淳一さんの考えだそう。
シンガポール駐在もいつまで延びるか未定で、中学受験はさせる予定ですが、仮に中学受験に失敗してしまったとしてもシンガポールの日本人中学、もしくは日本の公立中学に通えば良いという考え。淳一さんご自身も公立中学校出身なので、あまり合否は問題ないと思っているそうです。
ただ、玲子さんはグローバルな教育プログラムのある環境の良い女子校に通って欲しいと思っているので、夫婦間で意見が割れてしまうこともあるとのこと。
日本の中学校で興味がある学校名は?どんなところに魅力を感じたか
海外生活自体は10年以上になり、日本の私立中学校の現状をよく把握していないのが正直なところ。
「慶応に入って欲しいが、中学が難関なら大学から目指すことも本人の希望があれば選択肢のひとつだと思っている。理由は、東工大時代に慶応にも魅力を感じたことがあったから。もし、娘が成長する過程で理系に興味を持ち、東工大に興味を持った場合は応援したい」とのこと。
オンラインの中学校説明会にたびたび参加をしているのは玲子さんで、淳一さんに情報提供をする役割だそう。淳一さんは、玲子さんが選んだ女子校からどのような大学に進学実績があるのかをチラ見する程度。
あくまでも「大学が大事」というスタンスなので、その間をどう繋ぐかは、玲子さんが考えているのだとか。
現地の親と考え方のギャップを感じたこと
シンガポール人の親は子供が幼い頃からとにかく教育熱心ですが、無理やり競争をさせるような感じがなく、気持ちの余裕を持っている印象。
平日はしっかり勉強をして、週末はスポーツやホームパーティを楽しむなどメリハリをつけるのが上手。カラッとしていて、明るい親が多い。オープンマインドで、家族同士のつきあいも気楽。
ボランティアは特別な活動ではなく、日常に組み込まれている。親は様々な場所でボランティア活動をする。
日本ではボランティアに参加する人と全くしない人に分かれますが、海外ではあらゆるコミュニティで協力をするのはごく当たり前のことになっている。また、レベルの高い学校に入る場合は特に面接において「どんなソーシャルアクティビティに参加しているか」という質問は頻出。
今、海外で求められる人材とは?
「英語が話せることは大前提。きちんとした文法を学んでいれば理想的だが、たとえ勉強中であっても外国人の相手とコミュニケーションをとろう!という前向きな姿勢が大事。海外に出ると、ネイティブスピーカーとばかり話すわけではありません。たとえばシンガポールの場合は、中国人やインド人、その他の色々な国の人々と話す機会が増えます。英語が第一言語ではない人々と英語を使って一緒に仕事をすることは日常です」と淳一さん。
また、海外では「勉強が一番大事」ということではなく、リーダーシップや創造力をもっている人が一目置かれる傾向があります。
「人種も宗教も考え方も違う人々をまとめる力は、多角的に物事をとらえることが出来る人に与えられるスキルなので、日頃から色々な人と繋がりを持ち、話をきくことが必要」とのこと。
我が子が中学受験をすることについて
「娘がどこかの国で就職をする頃には、様々な国の人がオフィスにいる環境が予想されるので、子供の頃から英語、そして受験の教材なら算数にはしっかり取り組んで、与えられた問題から順序だてて答えを導き出す練習をして欲しい。
勉強は中学受験に限らず、一生続くもの。勉強だけではなく、日常生活でやるべきことをバランス良く経験して欲しい。たとえ失敗しても、学びは続くので何度でも巻き返すことができます」
——中学受験は人生の中の通過点であり、合否で一喜一憂するべきではないというのが淳一さんのポリシー。玲子さんにはよく「焦るな(笑)」と声かけをするそうです。
世界が激変する中、子供の頃に育んでおくべきことは何なのか。それぞれの家族で話し合うことが必要ではないかと気付かされるお話でした。
(取材・文:栗尾モカ)
※マイナビ子育ての連載「世界で働く親が考える子供の教育」の記事を、中学受験ナビ編集部が再編集のうえで掲載しています。元の記事はコチラ。
※記事の内容は執筆時点のものです
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