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自家受粉と他家受粉~長所と短所および受粉システムの違いとは?

2018年5月08日 東荘一

自家受粉とは、「花粉が同じ個体にある、めしべについて受粉すること」です。植物全体としては、自家受粉よりも他家受粉のほうが多く、その理由として遺伝的多様性を維持するためといわれています。

「遺伝的多様性」の意味については、ごく常識的な背景は把握しておきたいところです。さらに自家受粉と他家受粉の長所・短所を整理したうえで、自家受粉の植物が備えている構造的な工夫を解説します。

自家受粉のしくみ~他家受粉との違いとは?

花粉がめしべの柱頭につくパターンは、「同じ花」「同じ株」「異なる株」の3通りあります。このうち「同じ花」と「同じ株」は遺伝的に同じで「自家受粉」、「異なる株」の受粉を他家受粉と呼びます。

「遺伝子」という視点から見たときに、自家受粉と他家受粉とでは何が異なるのでしょうか。その点をふまえたうえで、自家受粉と他家受粉の長所・短所を整理してみます。

自家受粉のしくみ~遺伝子とは?

(注)日本遺伝学会は2017年、長年にわたって使われてきた「優性」「劣性」という用語を今後は使用しないと決定しました。この記事では慣習に従って使用しておりますこと、ご承知おきください。

まず「遺伝子の組み合わせ」とはそもそも何なのか、おおまかなモデルを使って解説します。あくまでも概略を直観的に把握するために、読み進めていただきたいと思います。

遺伝子というのは、カラダを作るための設計情報です。たとえばメンデルが使用したエンドウを例にすると、背が高い低い、種子が緑色または黄色、さやが緑色または黄色、花びらが紫色または白色など、カラダに関するすべての特徴は遺伝子が決定すると考えられています。

遺伝子は2個で1対となり、2個のうち1個は父親から、1個は母親からもらいます。仮に花びらの色を紫にする遺伝子を「紫」、白にする遺伝子を「白」とすれば、2個1対の組み合わせは「紫紫」「紫白」「白白」の3パターンあります。

これらのうち「紫紫」か「紫白」の遺伝子を持つエンドウの花びらは紫色に、「白白」を持つものは白色となります。つまり遺伝子の影響力は「白」よりも「紫」のほうが大きく、「紫」を優性遺伝子、「白」を劣性遺伝子と呼びます。

自家受粉のしくみ~遺伝子の組み合わせとは?

2個1対の遺伝子には、【図 2】のような組み合わせパターンがあります。このうち花びらが白色になるのは、赤丸を表示した部分です。「紫」の影響力が大きいため、全体的には花びらの色も紫のほうが多いことがわかります。

仮に「白」が環境適応に不利に働く「同じ株」固有の要素と考えればどうなるでしょうか。他家受粉としてやってくる「他の株」の花粉には「白」が存在しないはずですから、花粉の遺伝子は「紫紫」だけのはずです。

自家受粉のしくみ~他家受粉と比べた長所・短所は?

花粉の遺伝子「紫紫」に対して、めしべの遺伝子は「紫紫」「紫白」「白白」の3種類が考えられますから、【図 2】の上段が組み合わせパターンとなります。他家受粉によって、「白」は発現しません。

一方、自家受粉の場合は、【図 2】すべてのパターンが起こり得ます。つまり「白」の発現する可能性があるということになります。

さらに他家受粉の場合は、さまざまな異なる遺伝子が持ち込まれるので、自家受粉に比べて遺伝子の種類が増えていきます。その結果、遺伝子の組み合わせパターンに多様性が増していくわけです。逆に自家受粉では、遺伝的多様性を高めることはできません。

自家受粉は遺伝的多様性の面では不利ながら、同じ株(または花)の中で受粉するのですから、受粉を成功させる確率は他家受粉に比べて圧倒的に高いといえます。自家受粉であれば、種の存亡をかけた受粉という一大事業で、昆虫・鳥・風・水などに頼る必要はありません。

自家受粉のしくみ~受粉システムから見た他家受粉との違いとは?

植物は生き残るための戦略として、自家受粉と他家受粉のどちらを優先するのか選択します。多くの場合は他家受粉を優先させるため、自家受粉を成立させないための仕組みを備えます。さらに他者(昆虫・鳥・風・水など)に手伝ってもらうための工夫をします。それらの内容については、「他家受粉」のテーマで詳しく説明したいと思います。

今回は自家受粉に焦点をあてて、植物が備える受粉システムの特徴と具体例をあげてみます。

自家受粉のしくみ~他家受粉との違い

自家受粉を成立させようとする植物は、花粉を同じ花のめしべ(柱頭)に積極的に付けようとします。

例えばオオイヌノフグリは虫媒花として昆虫に受粉の手伝いをしてもらっていますが、夕方になっても受粉できないと、「おしべ」が曲がって「めしべ」のほうへゆっくり近づいていきます。自家受粉も積極的に受け入れて、できるだけ子孫を残そうとするのです。

自家受粉に対してさらに積極的な植物は、ツボミの状態で受粉を完了してしまいます。そのような植物はスミレなどのように、普通に美しく開花する花をもちながら、箇所や時期によってツボミで受粉する花も同時に備えるといったケースが多いです。その場合は、ツボミで受粉した花のほうが種子のできる確率は高いようです。

自家受粉のしくみ~アサガオのケース

通常の場合アサガオは、暗くなってから10時間後に開花します。暗くなる時刻を変えれば、開花時刻も自由に変えることができるのです。夏の日没は19時頃ですから、開花時刻となる10時間後は午前5時頃です。

もともと「おしべ」は「めしべ」よりも低い位置にありますが、夜の間にツボミの中で「おしべ」の背がだんだん高くなり、「めしべ」を抜いていきます。その途中で「おしべ」の「やく」が開いて「めしべ」にこすりつけるため、花が開く頃にはすでに受粉が完了しています。

まとめ

◎ 自家受粉は他家受粉と比べて、受粉の成功率が高いという長所があります。

◎ 自家受粉は他家受粉と比べて、遺伝的多様性の面で不利という短所があります。

◎ 自家受粉を積極的に採用する植物は、独特の受粉システムを備えています。

※記事の内容は執筆時点のものです

この記事の著者

京都大学工学部、東京大学大学院(工学)、世界最大の外資系コンサルティング会社の共同経営者(パートナー)を経て、教育業務を開始。業界最大手の中学受験塾で、小学3~6年生3000名以上の理科を担当し、習熟度に応じて幅広い学習指導を行いました。学習方法や各テーマの解説をおこなう、小学生向けサイト(偏差値アップの勉強法)を運営しています。以下のリンクからご覧ください。

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