中学受験ノウハウ 連載 塾のトリセツ

転塾が頭をよぎったらまずすべきこと│ 中学受験塾のトリセツ#12

2023年5月09日 天海ハルカ

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子どもの成績が上がらない、塾の先生と相性が悪い……。

通っている塾に不満がある場合は、思いきって転塾してみるのもひとつの手です。

とはいえ、転塾は子どもにとっても親にとっても大きな決断。

じっくり考えて決めたいものです。

今回は、転塾を考え始めたときにまずすべきことをお話しします。

転塾を検討するべき3つのケース

塾のシステムに不満がある

塾によってシステムは大きく違います。

「テストが多い」「定期的な面談の回数が少ない」といった塾のシステム面を、個人の要望で変えてもらうのはあまり現実的ではないことが多いでしょう。

とくに大手塾では、ほかの校舎と足並みをそろえる必要があるため、校舎としては要望に応えたくても、個別には応えられないということも。

転塾すれば、それらの不満を解決できる可能性があります。

ほかにはアクセスや時間割に不便を感じたときも、転塾が視野に入ります。

3年生の頃は問題なかった通塾が、5年生になってつらく感じてしまうことも多いです。

学年が上がるにつれて小学校からの下校時間や塾から帰る時間は遅くなるからです。

人間関係に不満がある

「他の生徒とけんかをしてしまった」「先生との相性が悪い」といった人間関係の問題も、転塾でリセットできる可能性があります。

けんかをしたクラスメイトが同学年である場合、偏差値がよほど離れない限り、また同じクラスになる可能性はゼロではありません。

塾に配慮を求めるという手もありますが、偏差値でクラスを分けている以上、偏差値以外の理由でクラスを変更することは難しいんですよね。

塾講師の立場からだと、嫌なことを言ってくるなら行動自体を注意する、隣にならないよう席を離す、といった、とりあえずの対応しかできないというのが現実です。

また、先生との相性が悪い場合は、そもそも塾の雰囲気や方針が合っていない可能性も考えられます。

子どもの自主性を育む方針の塾であればしっかり気にかけてほしい子には物足りず、逆に細かい部分まで見る塾であれば自分のペースでやりたい子には窮屈に感じてしまうことも。

これは塾との相性の問題なので、どうにも合わないと思ったときに転塾を考えるのは当然の流れだと思います。

環境・状況が変わった

入塾時と環境や状況が変わった場合は、それに合わせて塾も再検討してみてもいいですね。

志望校を変更したというケースがわかりやすいかもしれません。

「元々の志望校よりもさらに偏差値の高いところに挑戦したい」「今の塾では志望校へ向けた勉強ができない」といったケースでは、早めに転塾を検討したほうがいいでしょう。

中学受験へのスタンスが変わったときも同じです。

「とにかく難関校へと思い入塾したものの、習い事と並行しながら無理のない中学受験をしたくなった」というような場合は、それが叶う塾を探したほうが生活しやすくなります。

転塾のデメリット

転塾は心機一転、勉強に向き合いやすくなるというメリットがありますが、もちろんデメリットもあります。

あらかじめデメリットを知っておくと心構えができ、対策もしやすくなります。

見かけの成績や偏差値が変わる

転塾でクラスの環境が変わると、成績の測り方も変わります。

たとえば受験に対してシビアな塾からゆったりペースの塾へ転塾をした場合。

転塾前はテストでなかなか点数が取れなかったのに、新しい塾では今までと同じ勉強量でも高い点数がとれてしまいます。

しかし、実際の力は変わっていないため、見かけの成績で油断してしまうと志望校への道が遠のいてしまう危険性があります。

逆に、受験に対してゆるい塾からシビアな塾へ転塾した場合は、突然成績が下がったように感じて自信をなくしてしまいます。

見かけの成績の変化に惑わされてモチベーションを下げることのないよう、フォローしてあげたいですね。

学習に穴が開く

カリキュラムは塾によって違うので、「転塾前の塾では未習の内容が、転塾後では既習の内容」ということもあります。

この場合は、知識を順番に積み上げたい子には苦しいかもしれません。また、自分で勉強して追いつかなければならないため、転塾後はしばらく、家庭学習の負担も増えるでしょう。

テキストを読んで自習できる子なら大丈夫ですが、そうでない場合は親が教えたり付き添ったり、ときには短期で家庭教師を雇うなどのサポートが必要になります。

大手塾周囲の中小塾などでは、大手からの転塾の際にカリキュラムの調整をフォローしてくれるところもあるため、必要に応じて頼ってみるのもよさそうですね。

慣れるまで時間がかかる

転塾後、新しい環境と生活に慣れるまでは1~3ヶ月ほどかかると思ってください。

子どもの性格にもよりますが、勉強だけでなく塾自体のシステムや先生、学習スケジュールに慣れるまでには、ある程度の時間が必要です。

その間は学習に集中できず、テストでも思うような結果が出ないことも。

子どもも親も我慢の時間と割りきって、地道に進めていくしかありません。

転塾を検討するならまずすべきこと3つ

転塾は目的ではなく手段。

今の塾でなんとかできるなら、そのほうが、子どもにとっても親にとっても手間や負担は少ないでしょう。

6年生になってからの転塾は負担が大きく、転塾後も慣れるまで時間がかかるとなれば、転塾を何度も繰り返すことはできないと考えたほうがいいでしょう。

しっかりと間違いのない転塾ができるよう、慎重かつ迅速に進めたいですね。

転塾で求めるものを明確にする

転塾で一番大切なことは、今の困りごとが転塾で解消されるかどうかです。

たとえば成績が思うように上がらないとき、その原因が家庭学習の少なさにあるなら、転塾しても同じことになる可能性は高いですよね。

しかし、塾に自習室がなく、自習室があれば家庭学習の少なさを補えると考えるなら、自習室のある塾に転塾するのはありです。その場合、輝かしい実績やアクセスのよい立地よりも、自習室が思うように使えるかを重視して転塾先を絞りこむことが重要です。

人間関係に問題があるなら、転塾で解消されるかもしれませんが、それなら塾を変えるのではなく校舎を変えるという選択肢も取れます。

まずは今の困りごとを整理し、今の塾で解消できないか考えましょう。

転塾の話には触れずに今の塾に困りごとを相談してみるのもいいですね。

その結果、今の塾では解消されないとわかれば、すっきりと転塾先を探せるようになります。

子どもの意思を確認する

今の塾に通い続けることや転塾に対して、子どもの意思を確認することも大切です。

今の塾だからこそ頑張れているという子は、転塾でモチベーションが下がってしまいます。

一方で、転塾が楽しみで勉強に対するモチベーションが上がる可能性もあります。

転塾しようとしまいと、通うのは子ども本人。

転塾を検討するときは、本人の意思をしっかりと確認したいですね。

実際に転塾先を探す

転塾に求めるものを整理し子どもの意思を確認すれば、あとは転塾先を探すだけ。

学年が変わるときや夏休み前などカリキュラムの区切りに、新しいところへ通い始められるよう計画して手続きを進めるとスムーズです。

また、転塾が決まっても、転塾先への通塾が始まるまでは、今まで通り元の塾へ通塾するのが理想です。

ところで、子どもというのはどうしても、自分の変化について口にしたがるもの。

「俺、今月までだからなぁ」「私は夏期講習前に塾をやめるけど」といった具合に何かとクラスで転塾をにおわせる子は多く、当然ながらクラスメイトや先生の耳に入ります。

このことを過剰に気にされる保護者の方は多いのですが、「退塾するから先生に気まずい」といったセンシティブな気持ちにはならなくて大丈夫ですよ。

塾講師の立場からすると、子どもが転塾することに対してネガティブなイメージはとくにありません。

塾の規模や方針によって違うのでしょうが、少なくとも私が勤めていた塾では、生徒の退塾が、講師の評価に関わることもありませんでした。

もちろん塾に不満があっての退塾とわかれば、何か塾側で対応できないか提案することはあります。

しかし、すべての子どもにとってぴったりの集合塾運営というのは、残念ながら、なかなか難しいもの。それがその子にとって望ましい選択だと思えば、親心に近い気持ちから、むしろ「転塾が決まってよかったね」と思うこともあるのが本音です。

あまり気にせず、転塾が決まってからも、通塾できるうちは元気に通ってきてほしいものです。

転塾は焦らず迅速に

転塾が頭をよぎったら、まずは現状打破に転塾が効果的かを考えます。

今の塾で何とかできる方法があれば、ぜひ試してみてください。

転塾のほうが良さそうだと思ったら、子どもと相談しながら転塾先を探していきましょう。

高学年であれば、中学受験に対するスタンスや志望校が固まってきてから転塾を考えたほうが、よりお子さんにあった転塾先が見つかります。

とはいえ、できれば最高学年である6年生になる前に転塾できていると、落ち着いて遊学受験本番を目指せますね。

転塾は焦らず、しかし決めたら迅速に。

お子さんがよりよい環境で勉強を続けられますように!

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※記事の内容は執筆時点のものです

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