
小6秋に急にモチベーションダウンした娘、どうすれば?|下剋上受験 桜井信一の中学受験相談室
今回の相談
小6の娘の母親です。ここにきて娘のモチベーションが急激にダウンしています。どうしたらいいのでしょうか。漠然とした質問で申し訳ないのですが、何かヒントをいただけたらと思い、藁にもすがるおもいで質問します。
小3から某S塾に通い波はありつつも、どちらかといえば、素直にまじめに取り組める子だったと思います。ですが、6年生になってから、周囲が本気になったということなのか、模試でも復習テストでも思うように点がとれないでいます。
夏休みが終わり、自信をつけてもらおうと、安全校として受験予定の学校の過去問に取り組ませました。合格最低点は越えたものの、目標としていた平均点には届かなかったことが、直接のきっかけになったのかもしれません。
机に向ってはいるものの、ぼーっとしていることが増えました。「宿題はできた?」「テストはどうだった?」と聞いても不機嫌そうに黙ってしまいます。
こういうときは、しばらく勉強を休んででもリラックスさせるべきなのでしょうか。でも、ここから休まず取り組んでも、過去問が本番までに終わるか不安というレベルで進んでいません。
親である私がしっかりしなければと思うのですが、追い込んでしまうだけという気もしてしまい、情けないことに私自身も落ち着かない日々が続いています。
こういうときはどうすればいいのでしょうか。
相談者:まいごのまま
お子さまの学年:小6
桜井さんの回答

まいごのまま、こんにちは。
よくいただくお話なものですから、以前拙著にも書いた内容をもとに、改変してお答えします。原文はよかったら『桜井さん、うちの子受かりますか?』産經新聞出版をご覧ください。
6年生の男の子のお母さんから、こんなメールが秋の終わりに届きました。
《ブログを読んでいるとみなさんピリピリした時期のようなのに、うちの子はもう諦めムードで勉強しないのです。どうしたものか…。》
私は男なので特に男の子の気持ちは何となくわかります。必死になって不合格になるのはちょっとカッコ悪いのかもしれません。そろそろその恐怖が近づいてきたのです。今回、ご相談いただいたケースでは女の子ということですが、お子さんの心理にはある程度共通するものもあるのではないかと思います。
「精一杯やらなかったからダメだった」という言い訳が必要。これは、子ども社会でうまく生きていくための「本能」のようなもので、そろそろその準備に入らないといけないのでしょう。
でもお母さんは、「頑張ってダメだったのならお母さんも納得なの。頑張って出た結果ならいいの。頑張ることが大事なの」と不可解なことを言い出す。
はあ〜、ぼく・わたしの気持ち全然わかってない。
頑張るのをセーブし始めているのに……。
とまあ、無意識だからそこまでリアルに考える子は少ないでしょうけれど、生きる力みたいなものですからそもそも噛み合っていない可能性があるのです。お母さんは西向いて、子どもは東向き〜みたいな感じです。
実はこれ、ちょっと感動します。
子どもって、いつの間にか子どもたちだけで構築された社会にいるのです。子どもたちだけで見栄を張り、意地を張り、諦めることもある子ども目線の社会を持っている。この社会だけは大人の価値観なんてまるで通じない。
ここで、「勉強しないなら受験も塾もやめなさい!」と叱っても、「うん」と言わないと思うのです。それはそれで子ども社会で不都合なのでしょう。敵前逃亡みたいですから。
要するに、「もし頑張っていたら頭はよかった」という可能性を残して、ダメだったという結果を受け止めたいのです。頭いいイメージは残しておきたいのです。まだまだこれから先もその社会で生きていくわけですから。すると結果が出るのはかなりの恐怖なのです。
しかし、今まで逆のことを言ってきた可能性があります。「あなたは本当は頭のいい子なんだからやればできるわよ」
何とか頑張らせようと、自信を持たせようと、そう言ってきたお母さんも多いでしょう。褒めて伸ばす系の本に書いてありますし。
これは、子どもによっては「頑張らなくても頭いい」と思ってしまう可能性だってあります。さらにマズいのは、『頑張らずに頭いい方がカッコいい』と勘違いしてしまうケース。この状況でお母さんが「努力」を要求すると……。言っていることがなんか辻褄あってないような気がして、反抗したくなる。子どもからすると、「本当は頭いい」自分なのでしょう。その自信が5年生6年生と続いてきて、クラスメートからも「結構頭いい」位置付けになっていると思うのです。
よく考えると、やはり中学受験は少数派ですから、周りは詳しいことまでわからず、イメージだけで頭いいと思っていると思うのです。
それがいよいよ調整しなければならない時期にきたものだから、1、2カ月前から微妙にすり合わせていこうとするわけです。
褒めて伸ばすというキャッチは、虐待しない親と自分を重ねる一番いい言葉なのです。要は、言葉の暴力では子どもはやる気を出しませんよ、程度の話なのですが、親に好印象なキャッチなのは事実。一見、弱点がなさそうなキャッチにみえます。
でも私はそうは思いません。これは子ども社会をわかってない大人の考えだと思うのです。私も褒めて伸ばす系の本を読みましたが、はっきりいって浅い。子どもへの愛情が深ければ、子ども社会で生きる我が子の姿が目に浮かばないはずもなく、迂闊に褒めることなんてできないと思うのです。
中学受験で親が判断能力を失っている時に、褒めて伸ばせと言われたらそりゃ褒めちゃいます。勘弁してほしい。
褒めようがおだてようが、模試がある限りは定期的に現実を見せつけられるのです。最後の最後まで模試を避ける手段をとっても、やっぱり日頃の演習の出来不出来で、実力を思い知らされるわけです。
そんな現実があるのに根拠のない褒め攻撃をしても勘違いするだけ。やっぱり、その時期その時期の正確な学力を伝え続けて自分で頭がよくなってきているのを感じさせないと、後で子ども社会と辻褄が合わなくなるもとだと思うのです。そこで苦しめてしまうと思うのです。
我が家は褒めるどころか、「これは絶望的だよね」から始まって、「う〜ん、まあ計算はマシになったかな」、「そうだなあ、以前に比べるとここはできるよね」なんて言いながら、ありのままを伝え続けて、現時点での学力はなるべく話を盛ったりしないように気をつけました。下手に勘違いさせちゃうと後が可哀想だと思ったのです。
そうして警戒しても、やっぱり中学受験するっていうだけで、子ども社会でのイメージはもうでき上がっているのです。
娘を毎日見ていて思いましたが、もう落ちちゃったら子ども社会に戻れないような気さえするのでしょう。一緒に勉強していたから子ども社会へのプレッシャーで娘が泣き出した理由も痛いほど伝わりました。合格不合格より気になるのは、自分の生きている場所なのです。なかなか梯子を外す勇気なんてない。また私も「思い切って外せ」なんて怖くて言えない。
だからこの期に及んで諦めムードなのでしょう。これはやる気がないというよりむしろ逆で、これから先も生きていく気満々なのです。じゃなきゃ子ども社会の体裁なんて考えないと思うのです。
じゃあどうしよう、ということなのですが、ここまできたら受験はしてもらうし、塾は最後まで行ってもらわないと仕方ない。その中で、「もし勉強していたら」というタラレバを捨てさせた時、いい方に作用する子とそうじゃない子がいると思うのです。「結果があなたの現実なのよ」ということを受け止めることができる子とできない子といると思うのです。
ここは親しかわからないので、他人が判断できる話ではありません。受験後に時間をかけて「努力と結果はワンセットなんだ」と教えるって策もあります。ここではっきりさせないといけないわけでもない。中学受験は目の前だから。でも、どちらにしても大人になるまでにはちゃんと教えて手元から離れてほしい問題です。
私の両親の場合はというと、「自分で頭を打てばいい。それがオマエの人生や。後悔も勉強になる」なんて言われて育ちました。これは最大のNGです。これほどダメな言葉はないと思っています。
モグラ叩きじゃないのだから何度も頭を出しません。その時期にしかできないこともたくさんあるのだから、後悔しても遅い。後悔なんて勉強にならないどころか、後悔慣れして頭を低くして生き抜く生命力だけがついていく。
やはり成功体験を教えることが大事だと私は思うのです。だけど、この成功体験って現実にするのはかなり難しいものですから、「いつまでも面倒見てやれるわけじゃないんだから一度失敗するのもいい」なんて話になる。
いやいや違うでしょ。いつまでも面倒見てくれるわけじゃないんだから、面倒見てくれる間に成功体験させてくれよって思うのです。
ごく一部の這い上がった例を見本にされてもね。そんなの簡単にいかない。
子どもより大人の方がどんどん這い上がる難易度が上がって、確率が悪くなる。だから子どものうちがチャンスだと思うのです。
さて、本能的にやる気を出さない子どもたち。どうしましょうか。
顔を立ててあげて、やる気がない態度のまま行きましょうか。ここまできたら子ども社会の体面を保つのも大事でしょう。立ち止まってしまうよりはるかにいい。
前に進むためには、やる気のない態度を受け入れてやらないと仕方ないと思うのです。あとわずかな期間だけ、子どもの無意識な行動に理解を示してあげなきゃ仕方ないところまできた。はっきりさせるには時間がなさ過ぎるから。やる気がないふりをして頑張る。
その子は生きていく満々な証拠。子どもも大変だなあと私は思います。
どうでしょう、お母様。方針は思いつきそうでしょうか。
※記事の内容は執筆時点のものです
とじる
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