中学受験で破たんしないために教育資金の準備はいくら必要? ―― FP に聞く中受と教育費のキホン【最新版】#2
前回の記事で、中学受験は長い目で見るとコスパが良い可能性があることがわかりました。
とはいえ私立の中高に進学するには、やはり相応の資金が必要。
ファイナンシャルプランナーとして、教育資金設計などのコンサルティングを行う竹下さくらさんに、教育費用の資金繰りについてお話を伺いました。
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中学受験対策は3年間でおよそ250万円
中学受験の入試問題は、私立・国公立の中高一貫校ともに、小学校のカリキュラム外の知識から出題されるケースが多く、小学校の授業だけでは太刀打ちできません。
そのため、受験対策として塾や家庭教師を利用する家庭がほとんどです。
「中学受験は3年計画。塾を利用する場合は、4年生のカリキュラムがスタートする3年生2月から、6年生冬までの3年間通うことが一般的です。
4年生のうちは、週2日の授業で月謝は3万円程度。ただ、5年生では授業が週3日になり、6年生後半になると授業は週4日と、学年を追うごとに通塾日が増えていきます。
さらに夏期講習などを含めると、費用は5年生で年間70~80万円、お盆やお正月の講習にも参加することの多い6年生では、年間で120万円ほどかかると考えておいてください」(竹下さん)
中学受験に踏み込む前に家計を見直し
共働き家庭が増えた今、放課後、子どもを任せつつ勉強もさせられると、ほかの習い事と同じような感覚で塾通いを始める家庭が多いようです。
しかし、進級に比例して塾費用がどんどん上がっていき、気がつけば塾代で家計が大ピンチ……なんてこともあるので要注意。
また最近は、幼児や低学年に人気の学習教室でも、小学2年生になると中学受験の予定の有無を確認される場合があるそうです。
想定外に早くスタートをたずねられたことで、自分たちはほかの児童より先行しているような感覚に陥り、思いつきで中学受験を決めてしまうのは一番危険なパターンです。
「中学受験の塾は、まるで急行列車。一度乗ってしまうと途中では降りられないんですよ。家計の見直しを行わずに中学受験の道へ踏み込んでしまうのは避けてください」(竹下さん)
習い事の辞め時など、子どもとしっかりすり合わせを
では、中学受験が原因で家計を破たんさせないためにはどうすればいいのでしょう。
「塾の費用がトータルでどれくらいかかるのか細かく確認し、それを家計からどう捻出していくのかまで計画してから、受験を決断するのが無難です。
とくに兄弟姉妹がいる場合、分け隔てなく習い事をさせようとすると、費用が倍々になりかさみ続けていきます。決めた予算内でしっかりと優先順位をつけることが大切です。
また各種習い事は、子どものモチベーションを落とさないために『辞め時』を話し合っておくと良いですね」(竹下さん)
水泳であれば「〇m泳げるようになったら辞めよう」、ピアノであれば「〇〇の曲が弾けるようになったら辞めよう」等、ある程度の目標を立て、子どもと共有します。
「それを達成したら習い事を辞めて、塾のウエートを増やすなどの工夫をしないと、家計を圧迫するだけでなく、子どもが非常に忙しくなり、それこそ勉強どころではなくなってしまいます」(竹下さん)
途中で月謝の安い塾に切り替える「転塾」の選択肢もありますが、竹下さんからは、
「子ども本人が『塾を変えたい』と考えているなら問題ありませんが、家計を理由にした転塾は勉強へのモチベーション低下につながる恐れもあり、あまりおすすめはできない」
とアドバイスいただきました。
私立中高の教育費は年間約95~180万円
大変だった塾通いを乗り越え、晴れて中学受験に成功すると、次に必要になるのが入学する学校への初年度納付金や授業料です。
「東京都の私立中学の場合、入学時に一括納付する費用の平均は、授業料や入学金、施設費などの総額で約99万円。中高の6年間、毎年95~180万円の学費がかかると考えておいたほうがいいでしょう。
文部科学省が「学習費」という統計をとっていますが、特に私立中学1年生の学習費は約180万円と高額で、公立と比べて130万円ほど高い額になります。
この「学習費」には授業料や入学金、通学のための交通費、制服代といった「学校教育費」のほか、「学校給食費」、塾や習い事の月謝など「学校外活動費」が含まれています。
また、この「学習費」は、公立中学では「学校外活動費」の割合が高いのに対し、私立中学では、「学校教育費」の割合が高いことも特徴です。
一部の自治体で助成金制度(学費支援金制度)が拡充し、私立高校に通う生徒でも、親の年収等によって授業料の大半を支援してもらえる場合がありますが、私立中学に通う生徒を対象としたものは、さほど大きな額ではありません。」(竹下さん)
「中学受験をする場合も、高校までの学費は家計から捻出するのが基本。加えて、大学進学に備えた貯蓄も必要です」と竹下さん。
私立中学から高校、そして大学進学にかかる学費を捻出することが難しい場合は、私立中学の受験そのものについて改めて考え直す必要があるでしょう。
大学受験までに最低300万円の資金準備を
一方、大学受験については、具体的にはどのくらいの資金を準備しておけばいいのでしょうか。
「受験する大学の数にもよりますが、国公立を本命、私大を併願とする場合なら大学受験の費用は50万円程度です。この場合、すべり止めの大学に入学金を支払うこともあるので、1校分で20~30万円程度を見込んでおきます。
初年度納付金は、入学金と授業料や施設設備費を合わせると、私大文系であれば120万円程度です。また、もし自宅通いではなく、下宿が必要な大学に進学するのであれば、そのための資金も必要になります。
最終的にどんな大学を選ぶかは直前になるまでわからないため、準備の段階では多めに見込んでおく方が安全です。少なくとも大学受験のタイミングまでに300万円は準備しておきたいところですね」(竹下さん)
大学の学費目安
※2 文部科学省「国公私立大学の授業料等の推移」令和3年度より
※3 施設費、実習費、諸会費などを徴収される場合がある
※4 文部科学省「令和3年度 私立大学入学者に係る初年度学生納付金平均額(定員1人当たり)の調査結果について」
大学受験のタイミングまでに準備すべき費用の例
まとめ
私立中高一貫校の学費捻出と、大学入学に備えた貯蓄を同時に行うのは簡単なことではありません。
これらを達成するには、改めて家計の支出を見直すことが重要です。
「当然ではありますが、母親が専業主婦の場合は、働きに出ることで大きく収入を上げられます。共働きでも、車の売却や、賃貸であれば家賃の安いところへ引っ越すことでずいぶん変わります。
父親がお弁当持参にしてお小遣いを減らしたり、格安スマホに変更して通信費を抑えたりといった細かい見直しをすることも家計改善に効果的です」(竹下さん)
また、大学入学資金の貯蓄については、「児童手当をそのまま貯める」ことがおすすめとのこと。
「子どもが生まれてから手をつけずに積み立てていれば、児童手当だけで約200万円(所得制限以上の場合は約90万円)を貯めることができます(2023年11月現在)。
2024年秋からは児童手当の制度の改善も検討されています。なるべく早いうちからコツコツと貯めて準備していきましょう」(竹下さん)
このように、中学受験を決断する前には、
① 中学受験に備えた塾費用 3年間 250万円程度
② 私立中高の場合、支払う毎年の授業料95~180万円
③ 大学受験に備えた貯蓄 300万円
これらの資金繰りができるのかを、じっくりと検討することが重要です。
くれぐれも「お友だちが塾に通うから」といった理由だけで安易に始めず、教育資金の捻出計画を立ててから中学受験に挑むようにしましょう。
(初回取材・執筆:佐藤あみ、再取材・編集:川口裕子、監修:竹下さくら)
※この記事は、過去の記事をもとに、新たに取材・編集をおこない、竹下さくらさんの監修を受けたうえで新たに公開しています。
※記事の内容は執筆時点のものです
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