中学受験ノウハウ 連載 FP に聞く中受と教育費のキホン【最新版】

首都圏で私立中高一貫校の中学受験熱が高い理由 ―― FP に聞く中受と教育費のキホン【最新版】#1

専門家・プロ
2023年11月17日 川口裕子

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首都圏を中心に過熱している私立中学受験。

安いとはいえない塾代をかけて受験して、入学後も公立中学校より高い学費を支払うことになるのに……?

本連載では、中学受験とお金について、ファイナンシャルプランナーの竹下さくらさんに取材し、塾や学費をはじめとした教育資金の設計などについて、最新データをふまえたお話をうかがいます。

第1回は、首都圏の中学受験人気の理由について、ファイナンシャルプランナーという立場からお話いただきます。

高校受験から大学受験を目指すのは難しい?

竹下さんによれば、昨今の私立中学受験人気の背景には「中高一貫校のほうが大学受験に有利と考えられるようになったから」という事情があるそうです。

高校受験では得られない中高一貫教育の恩恵

中高一貫校では、中学1年生から高校2年生までの5年間で中高6年分のカリキュラムを終えてしまい、高3の1年間は受験対策に充てるのがセオリーになっています。

高校から入学した生徒を、そのスピーディなカリキュラムに追いつかせるのは、簡単なことではありあません。

だったら、高校からの生徒募集をやめてしまおう、となる中高一貫校が出てきています。結果として、高校受験で入れる進学校が少なくなってきているのです。

「仮に高校受験で進学校に入学できたとしても、高校3年間の勉強だけで名門大学を狙うとなると、子どもにゆとりがなくなることを懸念している保護者も多いんです。」

と竹下さん。

それくらいだったら、小学生のうちに頑張って中高一貫校に入れてしまおう、という動きに繋がっているといいます。

とくに都心では、選べる中高一貫校の数も多く、中学受験人気が益々高まっているのです。

高校受験自体の難易度も中学受験を後押し

また、文科省による高校受験時の学区制を廃止する方針が進み、都道府県内の公立高校をどこからでも志望できる、学区が1つのところが増えてきています。

これは、一部の人気のある公立高校の競争率を上げる結果に繋がっています。

加えて、中学校の成績は相対評価制度から絶対評価制度に変更となっています。

これにより、学業成績だけでは生徒間の差別化が難しくなり、公立高校受験を狙う生徒は、勉強に加えて、生徒会やボランティアなどの課外活動をポイント化し、受験に挑むようになってきています。

「公立高校の選抜試験では、内申点のほか、適性検査や作文、面接などが行われます。合格基準が不明瞭で、努力すれば合格できるという手ごたえがなかなか得られないんですね。

であれば、どうなるかわからない公立高校受験に賭けるよりも、早めに私立中学を受験してしまった方が、安心だと思う方が増えているようです。」

私立校の高い大学合格実績、授業料補助の拡充で人気に拍車

「公立よりも私立のほうが大学進学に有利と思っても、これまでは、教育費用の面で、公立への進学を選ぶご家庭が多かったはずです。

ところが最近は、自治体ごとに学費負担の軽減制度が拡充されてきており、公立・私立に関係なく、補助が受けられるようになってきました。教育費負担の軽さだけを理由に公立を選択する必要性が低くなりつつあるのです。

加えて大学受験の推薦枠は、公立高校より私立高校の方が断然に多く、浪人率は私立高校の方が全体的に低い様相です。大学への現役合格を視野に入れれば、私立の方が有利と考える家庭が増えてきています」(竹下さん)

志望大学に入れず浪人の道を選べば、予備校代と模試代など、現役生よりも100~300万円ほど追加の教育費がかかる家庭が一般的です。

家計への負担を考えれば、わが子には現役合格してもらいたい、そして願わくはそれが有名大学なら……と思うのが親心。

そこで有名大学への進学実績を見ると、上位を占めているのが私立の中高一貫校で、しかも、高校からの受け入れを行っていない完全中高一貫校が多くを占めています。

中高一貫校への入学が、有名大学の現役合格への近道だと考える家庭が多いのは当然でしょう」と竹下さん。

いまや都内で私立中学校に通っている割合は、25.2%。4人に1人という計算になります。

東大合格者ランキング

2023(令和5)年 ※青字は私立中高一貫校

1位.開成(東京)
2位.筑波大附駒場(東京)
3位.(兵庫)
4位.麻布(東京)
5位.聖光学院(神奈川)
6位.渋谷教育学園幕張(千葉)
7位.西大和学園(奈良)
8位(同率).桜蔭(東京)
8位
(同率).駒場東邦(東京)
10位.都立日比谷(東京)

参考:大学通信ONLINE 

私立中学校に通う割合(令和4年度)

文部科学省「文部科学統計要覧(令和4年版)」 / 東京都総務局統計部「令和4年度 学校基本統計(学校基本調査報告書)」より作成

中学受験はコスパが良い!?

塾代、模試代、受験費用。

一般的に「お金がかかる」というイメージのある私立中学受験ですが、「中学受験の方が実はおトクという考え方もある」と、竹下さん。

その理由は、大学合格実績を重視する私立中高一貫校に入学すれば、中学以降の塾代が抑えられる可能性があるからといいます。

大学受験にかかる費用を抑えられる可能性

「中高一貫校なら、中学と高校の学習内容は5年間で終え、残りの1年間は大学受験に特化した授業に費やせるというのは、先ほど説明した通りです。

加えて、有名大学進学を目指す生徒のための特進クラスや、長期休暇中の補講があるなど、大学合格実績向上に熱心な学校がほとんど。手厚い学習サポート体制が用意されていれば、大学受験のための進学塾に通う必要が薄れます。

さらに面倒見の良い学校では、弱点克服カリキュラムも組まれており、授業についていくための補習塾すら不要になる学校もあります」(竹下さん)

日々の授業で生じた苦手分野に対しても、学校内でのサポートで克服できれば、部活動や習いごとなど、勉強以外の活動にも安心して励むことができます。

また、多感な時期でもある中高の6年間、同じ先生方に教わることができるというのも、親としては安心材料になっています。

授業料負担を軽減してくれる助成制度も充実

もちろん、塾の費用がかからなくても、私立の授業料が高いことに変わりはありません。

しかしこれも、前述のように助成制度を活用することで、かなりハードルが低くなっています。

国の就学支援金と都道府県の助成金制度が拡充しています。ただ、越境通学や父親の単身赴任などにより給付制限されることもあるので、しっかりチェックをしておきましょう」(竹下さん)

ただし、私立に通えば塾代がかからない、と決めてかかることはできません。

「私立の教育方針は学校によりさまざま。補習などを盛んにおこない面倒見よく生徒の学習をフォローしてくれる学校もあれば、生徒の自主性を重んじる校風で難関校を受験する生徒のほとんどは校外の塾に通っているという学校も。

志望校を決める前に、学校の指導方針や通塾割合、浪人する割合をよく調査しておくことは必須です。」(竹下さん)

中学受験は親の情報戦、膨らむ費用には注意が必要

少子化の影響は、首都圏の中学受験世代にも及び始めています。

ここしばらく、右肩上がりで伸びてきた中学受験者数ですが、今後は増加が停滞、あるいは減少に転じる可能性はあります。

しかし、支援金や助成制度の充実、さらには中高一貫校の進学率の高さ、浪人率の低さなどを考えると、大学受験、高校受験の受験費用に加え、大学進学のための塾や予備校の費用を抑えられる可能性のある中学受験の人気は「まだしばらくは継続する」と竹下さんは語ります。

早期化する通塾スタートの時期、膨らむ塾のコスト

「ただし、今や塾に通わないで中学受験を突破するのはほぼ不可能です」(竹下さん)

それは、つるかめ算や時計算など、小学校の授業では習わない内容が私立中学の受験で出されるのはもはや常識だからと続きます。

首都圏中学の受験日は2月上旬に集中しており、入試の結果は2月に固まります。したがって、6年生の塾の授業は、5年生の2月に始まり6年生の1月に終わるところが主流です。

受験はだいたい3年計画なので、逆算すると中学受験に向けての勉強は3年生の2月からスタートします」(竹下さん)

必然的に3年生の12月や1月は入塾試験のシーズンとなります。しかし、これがさらに早期化する動きも出てきています。

「皆さん、お子さんが小学校に入ったら何か習いごとをさせますよね? その延長で、受験対策とまでは考えず、計算や漢字のドリルをする学習塾に入れるという保護者も多いと思います。

しかし、通っているうちに、3年生でいわゆる有名塾に入るためには、小学2年の段階で『中学受験をするかどうか』を決めて対策したほうがいいですよ、なんてことを囁かれたりする……。それならもう、1年生から中学受験塾に入塾させてしまおうと考える方もいるわけです。

こうして、中学受験にかかるコストはどんどん膨らんでしまいます」(竹下さん)

情報を集め、冷静に判断し、長期的なマネープランを

早く通塾を始めたからと言っても、低学年のうちはそれほど塾代が嵩むわけではありません。

しかし、本来は教育費がかからないこの時期にこそ貯蓄に努め、将来の大学進学にかかる費用を貯めておくことが、進学時の選択肢の幅を広げたり学生生活にかかるお金にもゆとりを持たせることにつながることを忘れてはなりません。

加えて、高学年になるにつれ塾代が高額になっていくことも見込む必要があります。

中学受験は確かに、賢く使えば、大学進学に有利になり得ます。

しかし、中学受験をするために、本来は大学進学のために使えたはずの教育費を取り崩してしまっては“ジリ貧”にならざるをえず、最も重要な大学の進学先選びにも支障をきたします。

家計を見直し、どこまで中学受験にかけられるか、私立中高一貫校に通わせることができるかを、冷静に見きわめることが大切です。

また、学費の助成制度が充実してきているとはいえ、その内容や利用条件は各自治体によって異なるなど、事前に保護者がしっかりと情報を確認する必要があります。安易にあてにするのは禁物です。

「受験はもはや情報戦。知っているか知らないかで、学校情報や受験対策だけでなく、教育資金にも大きな差が生まれる時代になってきています。」

まとめ

今回は、中学受験が人気になった事情をうかがいました。

「マネーとは直接かかわりない部分ですが、高校受験の時期はいわゆる反抗期と重なるタイミング。保護者の想定通りに、子どもたちが勉強をするかというと、そうそううまくいかないというケースもあります。

そういう意味でも、親の目の行き届く小学生のうちに勉強させて完全中高一貫に進学させてしまう方がいい、と考える向きも。

さらに、新型コロナウイルス感染症への対応で公立校と私立校に大きな差が出たことも、多くの保護者が私立校受験に目を向けたきっかけになりました。」(竹下さん)

複合的な理由で人気が続いている中学受験。

今後、連載を通じて、中学受験にかかる実際の費用や、助成金についてなど、くわしく解説していきます。

どのような進路であっても、大学卒業までの教育資金は相当なもの。長期的なマネープランを立てて挑みたいものですね。

(初回取材・執筆:佐藤あみ、再取材・編集:川口裕子、監修:竹下さくら)

※この記事は、過去の記事をもとに、新たに取材・編集をおこない、竹下さくらさんの監修を受けたうえで新たに公開しています。

 

※記事の内容は執筆時点のものです

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