中学受験ノウハウ 連載 FP に聞く中受と教育費のキホン【最新版】

医学部進学を目指すにはいくら必要? ―― FP に聞く中受と教育費のキホン【最新版】#9

専門家・プロ
2024年1月04日 川口裕子

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「難関」でかつ「教育費が高額」というイメージの医学部。それでも子どもと一緒に目指すご家庭は少なくありません。

現在の医学部人気は「少子高齢化に伴い医療の需要が増えていることに加えて、時代が変わっても“手に職を”と考えるご家庭が多いためでしょう」と語るのは、教育資金設計等のコンサルティングを行うファイナンシャルプランナー・竹下さくらさん。

今回は、医学部にかかるマネーについてお話を伺いました。

医学部でかかる出費

医学部は、在学年数が6年と長いこともありその学費は高額なイメージですが、そのなかでも国公立大学と私立大学の差は歴然です。それぞれどのくらいなのでしょう。

国公立大学は、入学料28万2,000円と授業料年額53万8,000円で、6年間では約350万円。

なお公立大学は、地域外からの合格者には入学金を高めに設定している傾向があります。地域外から公立高校を受験をする場合は、入学金は多めに見込んでおきましょう。」(竹下さん)

◆ 国公立大学 医学部 の学費等の例

群馬大学 医学部 ホームページより作成

一方、私立大学は2,000~5,000万円ほど(6年間の総額)と、国公立大学と比べて桁違いに高くなるうえに、大学によってかなりの幅があります。

たとえば自治医科大学の場合、入学料100万円と授業料年額180万円、さらに実験実習費や施設設備費が年額180万円かかり、6年間では約2,260万円になります。

◆ 私立大学 医学部 の学費等の例

自治医科大学ホームページより作成
※1 履修科目の選択により購入金額が変わります
※2 入寮者のみ
※3 使用者のみ

学費以外にも何かと出費がかさむ医学部

「加えて留意しておくべき点は、医学部ならではの出費です」と竹下さん。

白衣や聴診器といった実習備品代だけでも2万円ほどかかります。

また最近は国家試験突破のために、専門予備校に通う学生も多く、その費用は200万円を超えるところもあるとか。

さらに実家から離れた大学に通う場合には、ひとり暮らしの費用も準備しなくてはなりません。

「1年間の仕送りを仮に150万円とすれば、6年間では900万円近くが必要です。医学部生は実習が始まると、帰宅後もレポート作成や学習をしなければならず、アルバイトをするのは難しいとも聞きます」(竹下さん)

国公立なのか私立なのか、また生活費が比較的安く抑えられる寮や下宿に入れるのかでも費用は大きく変わります。

勉強が忙しくアルバイトもできないとなると、医学部でかかる費用は家計と貯蓄から工面し応援するしかありません。

受験日に保護者は家探しを済ませる

遠方の医学部を受験する場合、入学試験に合わせて、保護者も一緒に大学近くまで来るケースがあります。

「これは子どもが試験を受けている間に、不動産屋を回り4月からの住居を確保しておくのが目的です。

合格してからまた遠いところまで家を探し行くのでは二度手間になるため、受験の際に当たりを付けておくのです」(竹下さん)

「夜遅くまで実習を行うことも多い医学部だからこそ、やっぱり大学近くに住ませたいのが親心ですよね」と竹下さん。

これもふまえて遠方の大学を受験する場合、受験当日の飛行機代や新幹線代、宿泊代などは、保護者分も合わせて2名分を見込んで用意しておくと安心です。

授業料負担を軽くできる大学

とにかく大金が必要な医学部ですが、学費を抑えられる仕組みのある大学として特に以下の3つに関心が集まっています。

その仕組みとは、在学中の学費を借り入れ、条件を満たせばその返還を免除してくれるというありがたいもの。

竹下さんも「当然人気は高いですが、医学部を目指すなら一度は検討したい」とすすめます。

防衛医科大学

防衛省組織のひとつで、大学卒業後は自衛隊に9年間勤務する義務があります。

入学料や授業料、その他の学納金も実質かからないどころか、月に11万円ほどの給料(学生手当)を受け取ることもできます。

これは入学すると同時に特別職国家公務員という身分が与えられるためです。

ただし卒業後の任官を拒否したり、任官途中で離職したりした場合、学費等の返還が必要です。返還額は隊員としての勤務期間によって計算されます。

防衛医科大学校医学科学生―自衛官募集HPに、毎年の償還最高額が発表されています。令和4年3月の卒業生は4,338万円でした。

自治医科大学

地域医療や地方の福祉事業に従事する医師を育成する大学です。

入学者全員に入学料や授業料などを貸与し、卒業後に指定の公立病院等に医師として一定期間勤務すると、その返還が免除されます。

この要件を満たせないと、貸与金に所定の利率を乗じて得た額を加えて、一括返還しなければなりません。

産業医科大学

企業の労働環境指導を行う“産業医”を育成する大学なので、卒業後は産業医など指定された職に就くことが条件です。

そして9~11年間勤務することで、貸与額全額の返還義務が免除されます。

6年間の学費総額3,049万円のうち、6割ほど(約1,919万円)貸与を受けられるので実質的な負担は約1,130万円。私立大の医学部のなかでは破格の学費です。

地域医療貢献で実質タダの「地域枠」

続いて、竹下さんがおすすめしてくれたのは「地域枠」です。

地方都市が貸与してくれる奨学金の一種で、卒業後その地域の医療に一定期間従事することを条件に、入学しやすくしたり、返還を免除してくれたりする仕組みです。

「地方の医師不足や診療費の偏在の対策として広がったもので、全医学部定員の18.7%(1736人、71大学)※にまで増えています。」(竹下さん)
※文部科学省「令和4年度 大学の地域枠等の導入状況」より

各大学の所在地近隣に地域枠が充てられるのが原則のため、どちらかというと地方大学に多い仕組みですが、都内にも「東京都地域枠入学試験」はあります。

2024年現在は順天堂大学、杏林大学、日本医科大学の3大学で実施されており、入学すると修学費(全額)と生活費(月額10万円)が貸与されます。

卒業後は、指定医療機関の小児医療・周産期医療・救急医療・へき地医療のいずれかの領域で、奨学金貸与期間の1.5倍以上の期間(在学6年間貸与をうけたら約9年間、初期臨床研修期間を含む)医師として従事すれば、奨学金の返還が免除されます。

「東京都地域枠は居住地制限がありますが、地域枠のある大学では県外からでも出願できるところもあります。募集要項を確認してみましょう。」(竹下さん)

これらの制度を利用すれば、家計への負担は少なくて済みます。一方で卒業後、しばらくは将来の選択肢が限定されます。

その覚悟があるか、受験前の時点でしっかり吟味してから挑みましょう。

まとめ

高額な教育費がかかる医学部進学も、工夫次第で学費負担を軽減できることがわかりました。

しかし、まず目指したいのは、浪人せずストレートでの医学部合格です。

「そのためには医学部進学に強みのある中高一貫校を受験するメリットは大きい」と竹下さん。

「医学部への進学実績を重視する中高一貫校の手厚いサポートは、医学部を目指すご家庭にも魅力的です。高校2年生までに高校の履修内容を終え、最後の1年間は医学部受験のために使うことができます。

さらに医師として活躍している先輩の講演を行う学校もあり、生徒のモチベーションを高める環境を用意しています。」(竹下さん)

入試で行われる面接の設問傾向などを、データとして持っていることが多いのも、私立中高一貫進学校の心強い点です。

医学部を目指すことを決めたら、まずは医学部進学に実績のある中高一貫校への入学を目指すのが夢への近道になるかもしれません。

(初回取材・執筆:佐藤あみ、再取材・編集:川口裕子、監修:竹下さくら)

※この記事は、過去の記事をもとに、新たに取材・編集をおこない、竹下さくらさんの監修を受けたうえで新たに公開しています。

※記事の内容は執筆時点のものです

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