中学受験ノウハウ 連載 FP に聞く中受と教育費のキホン【最新版】

知っておきたい奨学金の現状 ―― FP に聞く中受と教育費のキホン【最新版】#8

専門家・プロ
2023年12月28日 川口裕子

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中学受験をして、私立の中学校・高校と通うと高額になる教育費。

それならば大学にかかる費用を「奨学金に頼ってしまう」というのも選択肢のひとつになるかもしれません。

「奨学金は返済が大変」と聞きますが、実際はどうなのでしょうか? 

奨学金の現状について、教育資金設計等のコンサルティングを行うファイナンシャルプランナーの竹下さくらさんにお話しを伺いました。

「返さなくてもいい」大学独自の奨学金

近年、大学では国立・私立にかかわらず、返還不要の給付型奨学金制度の数を増やしています。活用できれば、かなりおトクな制度だといえるでしょう。

審査基準のハードルが比較的低く、給付額が高いものを、都心の主要大学からピックアップしました。

大学独自の給付型奨学金制度例

国立大学

◆ 東京大学

名称

さつき会奨学基金

申請時期

入学前(予約型)

奨学金額

月額5万円

※入学時には、入学支援金として30万円を加えて支給

支給期間

4年間もしくは6年間

採用候補者数

約30名

<主な申請者資格> ●女子 ●自宅外通学 ●調査書の学習成績概評がA以上 ●卒業(見込み)の学校長等が推薦する者 …など

◆ 一橋大学

名称

学業優秀学生奨学金

申請時期

大学が選抜

奨学金額

授業料年額相当                   

支給期間

12か月間

採用候補者数

各学部各学年1名

<主な申請者資格> ●学部2~4年次の前年度1年間の成績により候補者を決定 ●家計の経済状況は加味されない…など

私立大学

◆ 早稲田大学

名称

めざせ! 都の西北奨学金

申請時期

入学前(予約型)

奨学金額

半期(春学期)分授業料相当額            

支給期間

4年間継続

採用候補者数

約1,200名

 <主な申請者資格> ●東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県以外の国内高等学校出身者で、学業成績優秀者 ●父母の給与・年金収入金額(控除前)が1,000万円未満、事業所得の場合438万円未満の者…など

◆ 慶應義塾大学

名称

学問のすゝめ奨学金

申請時期

入学前(予約型)

奨学金額

年額60万円(医学部は年額90万円、薬学部は年額80万円)

※入学初年度には、上記の金額とは別に入学金相当額(20万円)を給付

※前年度までの学業成績が特に優秀と認められた者は翌年度の奨学金額が増額

支給期間

最長4年間(医学部・薬学部薬学科は最長6年間)

採用候補者数

550名以上

<主な申請者資格> ●東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県以外の国内高等学校出身者 ●父母の収入・所得金額を合算した金額が給与・年金収入1,200万円未満(税込)、事業所得金額792万円未満(税込)の者…など

◆ 東京理科大学

名称

新生のいぶき奨学金

申請時期

入学前(予約型)

奨学金額

年額60万円

(薬学部年額80万円、経営学部は年額40万円)    

支給期間

4年間(薬学部薬学科は6年間)

採用候補者数

100名程度

<主な申請者資格> ● 大学指定の選抜試験にて入学を希望する者 ● 前年の世帯収入が、給与所得世帯においては700万円未満(課税前)、事業所金額292万円未満の者 ●志望する学科が設置されたキャンパスへの自宅からの通学が困難な者
※理学部第二部の志願者は対象外 …など

◆ 東京理科大学

名称

乾坤の真理奨学金

申請時期

大学が選抜

奨学金額

年額60万円

(薬学部年額80万円、経営学部は年額40万円)    

支給期間

4年間(薬学部薬学科は6年間)

採用候補者数

若干名

<主な申請者資格> ●入学試験の成績が特に優秀だった者(進級時に継続審査あり) ※理学部第二部の志願者は対象外 …など

◆ 明治大学

名称

入学前予約型給費奨学金 おゝ明治奨学金(おお明治奨学金)

申請時期

入学前(予約型)

奨学金額

入学諸費用から授業料年額1/2相当額を減免

支給期間

家計状況と学業成績の基準を満たせば、4年間継続して給付

採用候補者数

1,000名以内

<主な申請者資格> ●高等学校在学時の学習成績の状況(評定平均値)が、5 段階評価で3.8 以上●保護者の収入・所得金額が、給与世帯は上限収入 (控除前)が400万円(首都圏在住)、700万円未満(首都圏外在住)…など

◆ 明治大学

名称

明治大学特別給費奨学金 

申請時期

大学が選抜

奨学金額

学費のうち授業料相当額                    

支給期間

4年間

採用候補者数

非公表

<主な申請者資格> ●「学部別入学試験」 、「全学部統一入学試験」および「大学入学共通テスト利用入学試験」の合格者から採用 ●採用する学部は、法学部、文学部、理工学部、情報コミュニケーション学部…など

◆ 立教大学

名称

自由の学府奨学金

申請時期

入学前(予約型)

奨学金額

年額50万円(理学部は70万円)

支給期間

原則4年間 毎年の申請・審査により2年目以降も継続受給が可能

採用候補者数

約500名

<主な申請者資格> ●東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県以外の高等学校等出身者で、経済的理由により入学が困難な者…など

◆ 中央大学

名称

中央大学予約奨学金

申請時期

入学前(予約型)

奨学金額

授業料相当額半額

支給期間

4年間ただし、毎年度各学部における継続審査あり            

採用候補者数

約100名

<主な申請者資格> ●東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県以外の国内高等学校出身者 ●父母両方(合算)の所得証明書に記載されている金額が、給与・年金収入のみの場合給与・年金収入の合計金額が800万円以下(支払金額)。もしくは給与・年金収入のみ以外の場合、合計所得金額が355万円以下の者…など

◆ 法政大学

名称

新・法政大学100周年記念奨学金

申請時期

4月に一括募集

奨学金額

・文系学部:20万円
・理工系学部:25万円                

支給期間

1年間

採用候補者数

170名

<主な申請者資格> ●学業成績が優れ修学の強い意志があるが、経済的に困難であり援助を必要とする者 ●新1年生は成績基準を満たしているとみなし応募可能。2年生以上の申請資格は、前年度の修得単位数が30単位以上、理工系学部の4年生は25単位以上(両方とも教職・資格科目は除く)また、前年度のGPAが2.1以上の者…など

◆ 法政大学

名称

チャレンジ法政奨学金

申請時期

入学前(予約型)

奨学金額

・文系学部:38万円(2年次以降は年額20万円)
・理工系学部:43万円(2年次以降は年額25万円)

支給期間

1年間審査を毎年受けることで、4年間の最短修業年限期間中の継続受給が可能

採用候補者数

200名

<主な申請者資格> ●東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県以外の高等学校または中等教育学校の出身者(通信制を除く)●一般入試(T日程入試、英語外部試験利用入試、A方式入試、大学入学共通テスト利用入試 B方式・C方式)を受験する者 ●上記の学校(中等教育学校の場合は後期課程)における全ての教科・科目を含む学習成績の状況(評定平均値)が「3.8以上」である者 ●父母年収合計が600万円以下の者(事業所得の場合は197万円以下)…など

※すべて2023年12月時点の情報です。最新の情報は各校のホームページ・募集要項などでご確認ください

さまざまな条件の奨学金が用意されており、それぞれの大学の特徴が感じられます。

「東京大学には紹介した以外にも複数の奨学金制度があります。たとえば、 “さつき会奨学基金”は、自宅外通学の女子学生が対象で、在学中は月5万円が支給されます。」(竹下さん)

私立大学の学内奨学金制度は、採用候補者数も多い傾向があり、特に早稲田大学と慶応義塾大学は力を入れていて、どちらも100種類以上にのぼります。

志望大学が決まったら、忘れずに奨学金制度もチェックしておきましょう。

受験者は必見「予約型」奨学金

国立も私立も共通しているのは「予約型」の奨学金がある点です。予約型とは、入学前の高校3年時に申し込みをする奨学金制度です。

「その学校への入学を強く志望していれば、要件次第で採用され、合格後に奨学金が支給されます。

遠方からの受験生を対象にしていることが多いものの、応募しない手はありません。慶應義塾大学のように“父母の年収が1,200万円未満”と家計水準の幅が広い大学もあります。」(竹下さん)

残念ながら大学入試で不合格となってしまっても、申請が取り下げられるだけで、受験生の不利益にはなません。

申請時期は、受験よりもかなり早い場合がある点に注意しましょう。志望校が絞られてきたら、奨学金情報は早めの確認が大事です。

高成績なら授業料が全額免除されることも

予約型以外では、申請の必要がなく、大学側が選抜するタイプの奨学金制度も目立ちます。

このタイプの特徴は、家計の経済状況が審査基準にならないところが多い点です。

奨学金額も高額ですが、採用候補者数は少ないので、入試や毎年の試験でより良い成績を残さなければ支給されません。

勉学により一層力を入れるきっかけにもなるはずです。

奨学金の定番「JASSO」の制度は?

ここまで大学独自の奨学金制度を見てきましたが、学外奨学金のなかで最も知名度があり、人気も高いのが「JASSO(日本学生支援機構)」のものです。

「利子あり・なしの2種類の貸与型と給付型の奨学金がありましたが、2020年4月から給付型は『高等教育の修学支援新制度』という新制度となりました。」(竹下さん)

■JASSOの奨学金制度
┣高等教育の修学支援新制度(給付型)
┗ 貸与型
  ┣ 第一種:利子なし
  ┗ 第二種:利子あり

「返済不要となる『高等教育の修学支援新制度(給付型)』は、一部要件を満たした大学、短大、高等専門学校(高専)、専門学校に通う学生が支援を受けられます。対象になっている学校は、文部科学省のHPで確認できます」(竹下さん)

高等教育という名称ですが、高校は対象外。

世帯収入や資産などの要件を満たす全員が支援を受けられ、対象者はさらに入学後、3か月以内の期日までに進学先に申し込めば、授業料や入学金の減免を受けることまでできます。

支援金額は世帯収入や、進学先の学校、自宅から通うのか1人暮らしかなどによって変わってきます。

貸与型の奨学金は返済方法も確認を

一方、貸与型には無利息と利息つきの2種類があります。

無利息の「第一種奨学金」の採用基準は、原則として高等学校等の全履修科目の平均値が5段階評価で3.5以上、家計収入(年額)にも条件があり、4人世帯を例にすると約803万円以下であれば対象です。

4年制大学の場合、借りられる金額は最大で月64,000円(私立・自宅外通学)で、返還方法は2つ。

ひとつは、毎月定額を返還していく“定額返還方式“で、もうひとつは、所得に応じて返還額が変動する“所得連動返還方式”です。

「定額返還方式の場合、社会人になりたてで収入が多くない段階でも定額で返還するために『新入社員の時に苦労した』いう話をよく耳にします。

所得連動返還方式なら、収入の少ない時期は負担の少ない額、その後は収入の増加に応じて毎月の返還額が増えていく仕組みなので、余裕をもって返還ができるのではないでしょうか。」(竹下さん)

◆ 第一種奨学金 無利息

日本学生支援機構「進学マネー・ハンドブック(2023年度版)」より作成
※1 生計維持者(原則父母)の貸与額算定基準額が0円である人や生活保護世帯の人、社会的養護を必要とする人(児童養護施設入所者等)については、この学力基準に満たなくても、学習意欲があれば申し込み可能

利息が付くタイプの「第二種奨学金」は、第一種と比べてゆるやかな採用基準になっています。

「しかもJASSOは、一般の教育ローンなどに比べて金利も低いため人気が高い奨学金(ローン)です。対象になる学生も多いはずです。」(竹下さん)

◆ 第二種奨学金 利子つき(在学中は利子なし)※1

日本学生支援機構「進学マネー・ハンドブック(2023年度版)」より作成
※1 利率固定方式:年0.905%、利率見直し方式:年0.300%(2023年3月末)
※2 私立大学 医・歯学課程12万円を選択した場合、4万円の増額可
※3 私立大学 薬・獣医学課程12万円を選択した場合、2万円の増額可

JASSOにもある「予約採用」

さらに竹下さんにポイントを伺うと「貸与型奨学金で注目したいのは、大学独自の奨学金にもあった、高校3年生時点で申し込みをする予約採用」と教えてくださいました。

「JASSOの場合は、進学先が未定でも申し込みが可能なんです。しかも予約採用は申請が通れば、奨学金のための選抜なしで支給が約束されます。」(竹下さん)

万が一浪人することになってしまっても、予約採用の資格は自動的に取り消されます。また予約採用で採択されても、あとでキャンセルができるようになっています。

貸与型奨学金を考えるのであれば、予約採用の申し込みをしておくと安心です。

何かと物入りな入学時には増額も

JASSOの奨学金には「入学時特別増額貸与奨学金」という制度があります。

これは大学の教育費で、もっとも多額な資金を要する入学時の支払い負担を補う制度で、第二種と同じ利子つきです。

貸与型奨学金のなかでも特に第二種は、採用基準が比較的低めなので検討してみる価値はありそうです。

ただし、入学時の払いが苦しいといっても入学前に貸与されるものではない点と、第一種、第二種のいずれかの奨学金の利用が必要で、単独利用はできない点に注意しましょう。

一般の教育ローンに比べると、適用される金利水準は低いながらも、しっかりと利息が付くこともお忘れなく。

困ったときの選択肢として利用する際には、将来の返済に無理がないよう、借りすぎには十分注意しましょう。

民間企業の奨学金も条件が合えば◎

奨学金制度を実施しているのは、大学やJASSOのような独立行政法人だけではありません。

最近では民間企業でも、社会貢献活動の一環として給付型奨学金制度を設けているところがあります。

「給付型奨学金の場合、地方へのUターンや勤務年数(最短就業年数)の縛りを設けている企業があります。

子どもの将来像と合致すれば非常に良い制度ですが、選択肢を狭める結果とならないよう、熟考の上で利用しましょう。」(竹下さん)

ほかにも入社した後に、従業員の貸与型奨学金の返済を肩代わりしてくれる制度を取り入れている企業があります。

「福利厚生の一環として、入社した従業員の奨学金を代理返還してくれる場合もあれば、地方創生の一環として、会社のある地方への在住を条件としている場合もあります。

代理返還を実施している企業の一部は、JASSOのHPで検索できます」(竹下さん)

まとめ

一口に奨学金といっても、いろいろな種類があることがわかりました。貸与型の返済方法の選択肢も増えてはいますが、やはり狙い目は給付型奨学金。

特に大学独自の給付型奨学金は条件に当てはまる人も多く、勉強に力が入るモチベーションにもなるでしょう。

これが活用できれば、家計への教育費負担を軽減することができます。

また返済は子どもの将来の働き方にも影響が出る場合がありますので、家族でよく話し合い、ベストな奨学金を選ぶようにしましょう。

(初回取材・執筆:佐藤あみ、再取材・編集:川口裕子、監修:竹下さくら)

※この記事は、過去の記事をもとに、新たに取材・編集をおこない、竹下さくらさんの監修を受けたうえで新たに公開しています。

※記事の内容は執筆時点のものです

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