連載 男女別学を考える

今も昔も変わらない フラットな関係性の柔軟な校風・聖学院|男女別学を考える#5

専門家・プロ
2024年2月15日 杉浦由美子

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男子校、女子校といった男女別学校が共学化する例が続いています。いっぽうで、男女別学だからこそできる教育のよさもあるという声があります。男女別学校の現在と今後を考える連載です。

共学人気に押されてか、敬遠される傾向があった男子校。

しかし、コロナ禍以降、男子校人気が復活しつつあります。

男子校の伝統ある教育は、学力を伸ばすだけではなく人間形成の点でも優れている点が、わが子に合った学校を探している保護者に注目されているようです。

また、男子校が時代の進化とともに努力や工夫をしている点も、保護者の評価に繋がってきていると感じます。

前回に続き、男子校がどう進化しているかを取材し、ご紹介します。今回は、駒込にある聖学院です。

110年以上の歴史を持つ伝統あるプロテスタントの男子校で、伊藤校長は現役の牧師様です。

なぜ、今回、聖学院を訪れたかというと、「とにかく中学受験塾の界隈で評判がいい」から。

ある塾の経営者がいいます。

「入学後の満足度が高い学校です。保護者から『いい学校を教えてくださってありがとうございました』と言われます」

どうして満足度が高いのでしょうか。聖学院中学校・高等学校の広報部長・理科教諭の早川太脩先生にお話を伺いました。

(写真提供:聖学院中学校)

日々のノートやスケジュール帳のチェック

大人、とくにお母様方からすると、12歳前後の男子は考えていることがわからなくなってくる存在のようです。

たとえば、提出物を出さないで、教室の壁に”未提出者”として名前が張り出されていても、全く平気なこともよくあります。保護者の方の感覚では、ちょっと恥ずかしいと感じて、ちゃんと提出しようとしそうですよね。

その年代の男子の特性を踏まえた指導を聖学院は得意としています。たとえば、うちの生徒には、最初から勉強が好きでたまらないというタイプは少ない。授業が退屈だと、うとうと居眠りするどころか、しっかりと熟睡します。そうさせないために授業を工夫しているので、我が校の教師はみな授業がうまいです」(早川先生)

できたこと手帳の例(写真提供:聖学院中学校)

また、スケジュール帳にもなる生徒手帳(できたこと手帳)や自学用のノートを毎日提出させ、教師がすべて目を通し、コメントをつけ、勉強で分からないところがあればノート提出を通して質問もできます。

わからないからといって教師のところにわざわざ質問には来ない生徒とも、手帳やノートを通じてコミュニケーションがとれるし、得意不得意も把握できるわけです。

このきめ細かさは、図書館にも現れています。

読まれない本は置かず、随時、生徒たちが手に取りたくなる本を並べ、データベースも充実し、探究学習などで図書館を活用もできます。大学受験に必要な赤本や総合型選抜に関する本なども並び、受験対策の手助けをしてくれます。司書の先生が積極的に魅力的な図書館を作ろうとしている雰囲気が感じ取れます。

ロッカーや靴箱の上が斜面になっていて、物を置けないようにしているのも、配慮のひとつ。「靴箱の上に忘れ物をした」「ロッカーの上に放り投げて忘れてしまった」という生徒にありがちなミスを物理的に防いでいます。長年に渡って積み重ねられてきたノウハウと手厚い配慮で、生徒たちの学習や生活をフォローしていきます。

フラットな生徒と教師の関係性。ボトムアップ型の教員組織

さて、男子校はなぜ、いったん敬遠される流れがきていたのでしょうか。

以前、大手塾で学校情報を管轄している方を取材したときに、こういう話を聞きました。

「昔ながらの男子校では、教師が『静かにしろ』といえばそれが通用する場合があります。男子は縦社会になじみやすいので、その教師を上だと認めたらいうことをきく、という考え方です」

つまり、昔ながらの「男子校」文化は、縦社会で、上にみなが従うという、いわゆる体育会系だというわけです。

かつては企業や団体など大人の組織の多くもトップダウン型だったので、そういった上下関係に馴染みやすい文化は、社会からも歓迎され得るものでした。しかし、多様性や変化が重要視される時代になった今、昔ながらの「男子校」の文化は、保護者に敬遠されることも出てきました。

「聖学院は、従来からそういったトップダウン型の縦社会ではありません。まず、生徒と教師はフラットな関係性です。私は化学を教えていますが、生徒の方が私より賢いと思って生徒と関わっています。また生徒の好奇心を大切にしているので、授業で生徒から質問があったときも教師が全てを答えられるわけではなく、『じゃあ、調べようよ』と生徒にiPadで調べさせ、それをみんなで共有することもあります」(早川先生)

こういう指導方針は、生徒の自立心や自発性を育みます。

教員の組織もトップダウンではなく、ボトムアップです。現場の先生が『こうやったらいいのではないか』とアイディアを考え出すと、それを試みることができ、よければ周囲に共有されて広がることがしばしばあります。コロナ禍の際のオンライン授業も、ひとりの先生が『やってみていい?』と取り入れて、全体に広めました。ユニークで個性的な先生が多いので、いろいろなアイディアが生まれてきます」(早川先生)

伝統のカルチャーは変えず、教育の内容は新しくしていく

新しいことにも積極的な先生方のもとで、STEAM教育も盛んにおこなわれています。情報の時間に学んだ動画編集の技術や3Dプリンターの使い方を他教科でも活かすことがありますし、教科横断型の授業も行われています。また、探究学習は「どこかで見たような優等生的なテーマを調べておしまい」になりがちですが、聖学院の場合、「メンズ脱毛」を実際に試して比較検証したり、プログラム言語Pythonで実用性のあるソフトを開発したりと、独創性も中身もある探究が行われています。

聖学院では生徒たちが起業することもあります。2016年に始動した「みつばちプロジェクト」は、生徒たちが今も経営陣として活動し、採集した蜂蜜を使用したジャムなどの商品開発、仕入れ、販売ルートの開拓を自分たちで行っています。

学習面や生活面での指導が手厚い一方で、生徒の個性や意思を尊重し、可能性を広げていくのが聖学院の教育であります。

「“Only One for Others”を教育理念にもち、個を大切にする教育を実践してきました。時代が変わってもそのスピリッツの部分は変わらず、コンテンツを変えていくという方針ですね」(早川先生)

上のいうことに黙って従うことを教えるのではなく、フラットな関係性の中で、自発的に考えて行動することを学ばせる。こうした聖学院の精神は継承されつつ、教育の内容は時代のニーズに合わせて変化させていくわけです。

まとめ

多くの伝統校が時代の流れに自校のカルチャーを融合させる必要性に迫られていますが、聖学院の場合は、もともとの聖学院カルチャーに時代が追いついてきたという印象を受けました。そのため、伝統のよさを守りながら、新しい教育を実践していけるわけです。

ミッションスクールらしく、細長い塔の中の上にはベルがあり、毎朝、鳴ります。趣のある絵が多数、飾られる講堂では、毎朝、全生徒が集まって礼拝を行い、先生方の話を聴きます。プロテスタントは個々の個性や能力、多様性を認める教えです。その精神が教育に反映されていると思いました。隣り合わせに、同じ法人の女子校、女子聖学院があって、創立記念祭(文化祭)は合同で行い、交流も行っています。

※記事の内容は執筆時点のものです

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