連載 男女別学を考える

伝統ある男子校のオーソドックスがいま新鮮に・高輪|男女別学を考える#6

専門家・プロ
2024年3月15日 杉浦由美子

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男子校、女子校といった男女別学校が共学化する例が続いています。いっぽうで、男女別学だからこそできる教育のよさもあるという声があります。男女別学校の現在と今後を考える連載です。

2024年度の中学受験では男子校の人気が復活しています。その中でも、志願者の増加が目立つのが東京都・港区の高輪中学高等学校です。

2023年度入試で前年比300人も志願者を増やしましたが、2024年度入試ではさらに多くの受験生が志願をしました。

理由の一つは大学合格実績が伸びていることですが、人気の秘訣はそれだけではないようです。

そこで今回は高輪を訪れて、入試広報部長の松崎武志先生にお話を伺いました。

(写真提供:高輪中学校)

基礎学力がきちんと身につくオーソドックスな教育

今年、高輪中学が志願者を増やすだろうと、私は予想していました。理由は中学受験塾の講師たちが生徒に高輪を受験するように薦めていたからです。

なぜ、講師たちはこの学校を推すのか。

まず、入試問題に癖がなく、対策がしやすい。

そして、入試問題同様に、教育の中身も奇をてらったことはせず、オーソドックスで質がいいからです。

中学受験塾は進学塾なので、生徒には中学に入った後もちゃんと勉強をして、希望する大学に進学してほしいと願っています。そうした思いの先に、高輪があるわけです。

「4教科入試、算数一教科入試、帰国生入試と複数の入試方法がありますが、入学後は最初からコース分けをすることはありません。5教科をバランスよくしっかりと学ばせていきます」(松崎武志先生)

そのために、入学すると「課題をキチンと提出すること」を指導していきます。また、定期考査で一定の点数以下を取ると、課題が出たり、補習があったりもします。そうやって基礎学力を高めていった上で、中3からは選抜クラスと一般クラスに分かれ、中3の1学期からは高校のカリキュラムに入っていくという、典型的な進学校カリキュラムです。

自主性を育みつつ見守る、程よい手厚さ

(写真提供:高輪中学校)

面倒見がいい一方で、手取り足取りといった過保護さはありません

「文化祭なども、生徒の自主性に任せて運営をさせます。ただし、危険なことが起きないよう、教師がキチンと見守っていきます」(松崎先生)

「見守る」という姿勢は、教室の造りにも表れています。廊下側の窓が大きく、廊下から教師が生徒の様子を見守れるようになっています。

「泣いている生徒はいないか、喧嘩をしている生徒たちはいないか、ゲームをやっている生徒はいないか」と見守るそうです。

校内を案内してもらうと、いわゆる「インスタ映え」する華やかな設備はありませんが、所々にフリースペースがあったり、衝立がある自習室があったり、貸し傘が置かれていたりと、生徒が快適に生活できるように工夫がしてあります。

宿題や小テストは常時ありますが、他の進学校に比べて特段、多くはありません。

すべてにおいて程よい手厚さが保護者の評価が高いポイントのようです。

伝統校らしく地に足のついたグローバル教育

「なにか新しいことをやっているわけではないです」と松崎先生。

では、なぜ、人気が高まっているのでしょうか。それは2023年ぐらいから始まった男子校の人気復活と関係をしています。

男子校の多くは伝統校です。高輪中学校も、元々は1885年に京都、西本願寺により創立された学校です。1901年に高輪に移り、1906年に仏教と離れ、高輪中学となりました。今の名前になってからでも、120年近い歴史があります。

今、そういった伝統校の持つオーソドックスな教育が見直されているように思えます。

グローバル教育がトレンドですが、実は多くの伝統校では海外への研修や留学、海外との交流を古くから行っています。

高輪でも希望者は海外への語学研修や留学制度を利用できますが、20年もの歴史があります。

また、ハングル語やマケドニア語の講座を行うこともあります。教師がハングル語を勉強していたり、オンライン英会話でマケドニア人と知り合いマケドニア語を学び始めたりするところから始まりました。

教師の働きかけをきっかけに、マケドニアに興味を持った生徒たちが集まって、マケドニアサークルを作り、2023年には同好会に昇格しました。

男子校のよさは男子が素直に「好き」を追求できること

「異性の目がないので好きなことに打ち込める点は男子校のよさですね」(松崎先生)

高輪中では、マケドニア研究同好会のように、生徒が自発的に興味あることを課外活動にしていく動きも盛んです。

まず、「これをみんなでやろう!」と何人かの生徒が集まって、サークルができます。それが人数が集まって認可をもらうと同好会になり、学校から予算が降りるようになります。そして、同好会がさらに育っていくと部に昇格します。

松崎先生が顧問をする旅行・鉄道研究部は、「私が顧問になった頃は数人の小さな同好会でしたが、今では120名の校内最大規模の部です」とのこと。

他校では模型作りだけを行う鉄道部もありますが、高輪の旅行・鉄道研究部は「鉄道」をテーマにありとあらゆることを行います。

「部員たちが合宿旅行のプランを考え、プレゼンし、投票でどこに行くかが決まります。顧問の私は負担が少ないプランだと助かるんですが、そうはならないですね(笑)。今年の春は、在来線で大阪まで出て、九州までフェリーで行きました。旅の間に、電車のモーター音やチャイムの音を録音する部員もいます」

この電車が発する音を録音する鉄道ファンを「音鉄」というのだそうです。

他に、運転シミュレーションゲームをプログラミングする班もあれば、模型を作る班もあります。

また、最近、サークルから同窓会に昇格したのが折り紙同好会。まず巨大な折り紙を作って、それを折って作る大きな作品で、2023年の文化祭では大賞を受賞しました。

このような男子校らしい個性的な活動もありますが、ゴルフ部やダーツ部といった洒落たイメージの部活もあります。

男子が好きなことを追求しつつ、勉強面もキチンと指導してもらえる学校であるわけです。

まとめ

時代が変わっても、基礎学力や自発性、自立性が社会から求められることは変わらないはずです。そういったものを育てるように、ブレない教育をしてきたからこそ、高輪は今、人気を集めているように見えます。

 

※記事の内容は執筆時点のものです

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