中学受験ノウハウ 連載 公立中高一貫校合格への道

【公立中高一貫校受検合格に向けて】2024年度の振り返り |公立中高一貫校合格への道#11

2024年4月27日 ケイティ

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都立中学校など公立の中高一貫校には、いわゆる「入学試験」は存在しません。代わりに行われる「適性検査」を受(「受」ではなく)することで、6年間の一貫教育に「適性」があるかどうかを見られます。本連載では、公立中高一貫校を目指すうえで踏まえておくべきことは何なのか、私立受験とは具体的に何がどうちがうのか、公立中高一貫校合格アドバイザーのケイティさんにうかがいます。

こんにちは!公立中高一貫校合格アドバイザーの、ケイティです。公立中高一貫校合格を目指す、保護者のための「ケイティサロン」を主宰しています。

今年も、公立中高一貫校の受検(私立中学の「受験」とは異なり、適性「検査」によって入学が決まるため、受「検」といいます)を検討なさっている保護者の方向けに、お役立ち情報を配信していきたいと思います。

改めまして、2025年度以降受検組のみなさん、よろしくお願いします!

さて、新学期のバタバタも落ち着き、いよいよ受検勉強に本腰を入れ始める時期になってまいりました。

このタイミングで一度、2024年度受検はいったいどのような変化が起こっていたのか、受かった子はこの時期どんな力を持っていたのか……などなど、振り返りをしていきたいと思います。

【公立中高一貫校の転換期?】倍率はおだやかに減少傾向

公立中高一貫校が続々と開設されている地域を除いて、倍率や難易度はある程度落ち着いたという感触です。

たとえば東京都立中の倍率は約4倍。
6倍、7倍が当たり前だった時代と比べると、ずいぶん穏やかになってきた印象です。

といっても、超有名どころの私立中学でも倍率は2~3倍ですから、比較すると公立中高一貫校の倍率はまだまだ高いと感じる方がほとんどかと思います。

実際のところ、倍率が下がってきたとはいえ、「入りやすくなった」とは全く感じられません。2024年度も変わらず厳しい競争があり、模試でA判定を連発していたような子でも「まさか……」が「普通に」起こるのが公立中高一貫校受検です。

倍率低下については、私立を含む高校無償化の影響で公立中高一貫校のメリットが無くなったという意見もあるのですが、私は少し違うと見ています。

「安い学費で行ける」という理由で公立中高一貫校は語られがちですが、年間300組以上の保護者の方を見ていて感じるのは、「安いから」目指している方はほとんどいらっしゃらないということです。

もちろん公立の学費で通えるというのは大きな魅力ですが、それだけで目指すには過酷すぎるほど狭き門であることはもう広く知られています。

また、全くの塾なしで合格した子は稀で、どこかしら塾に通って対策したうえで臨む子がほとんどなので、様々な合宿や季節講習代も含めて年間100万円規模を投入できるご家庭が多いことも分かります。

加えて、公立中高一貫受検向けの通信教材も今はいくつかあり、受検対策のスタート時期が早まっている、つまり(本来の公立中高一貫校の主旨に反して)対策にかかる期間もトータル費用も上昇していることも、よく言われています。

さらには、公立中高一貫校は公立にも関わらずとんでもないスピードと難易度で授業が進むために、入学後の塾通いも視野に入れないといけない点も、いまの時代のお父さん、お母さんたちは情報収集力が高いですから把握したうえで臨んでいらっしゃいます。

つまり、家計が助かるから都立中に……県立中に……という訳ではなく、「思いっきり六年間、学んでほしいから」「内申を気にしてばかりの3年間にしてほしくないから」「勉強熱心な仲間と切磋琢磨して上を目指してほしいから」など、金額などの表面的ではないもっともっと本質的なところを見据えて、受検を検討している方が多いように感じています。

また、昨年の連載からの繰り返しにはなりますが、適性検査はひたすら試行錯誤して手を動かしたり、難解な文章を読んで長い作文を書いたりと、気が遠くなるような対策が必要なので、親も子も、「絶対にこの学校で学びたい」という強い意志がないと、そもそも2月3日まで走り続けることは難しいです。

そのため、私立の高校が無償化するなら無理に行かなくても……と受検を控える選択をした人が仮に受検していたとしても、本気で対策を進めてきたご家庭にとっては、手ごわいライバルにはなりえません。

よって、見た目の倍率が多少下がったからといって入りやすくなったかというと全くそんなことはなく、7倍だったときも、4倍になった今年も、本気で臨んできた子たちの層の中で五分五分の勝負になるのが公立中高一貫受検、とお考え頂ければと思います。

倍率低下は「人気が無くなったから」ではない!

ここ2,3年、「都立〇〇中の倍率が3倍ほどに落ちたのは、人気が無いからでしょうか?」といったご相談をちらほら頂くようになりました。

たとえば都立武蔵や都立富士など、2021年に募集人員が拡大されたことも見た目の倍率が下がった要因の一つではありますが、開設当初に倍率が十倍を軽く超えていた時期を覚えていらっしゃる保護者の方からすると、倍率低下は手放しで喜べない不安があるのだと思います。

まず、少し遡った話をお伝えすると、たとえば2010年代、各都立中から輩出された一期生が東京大学を始めとする華々しい大学合格実績を叩き出すなど、インパクトのあるニュースもあり、また、公立の学費で私立並みの学習環境で学べるという魅力もあって、しばらくは公立中高一貫校ブームが続きました。

しかし、「賭け」「くじびき」とも言われるほどの倍率の高さや、適性検査の対策のしづらさが徐々に知れ渡り、「それほど対策はしていないけれども一応受けてみようかな」というチャレンジ受検者層が減っていきました。

これが、まず、公立中高一貫校黎明期に起きた倍率減少の理由です。

そこから数年経ち、中学受験熱がピークとなっているこのタイミングで時代に逆行するかのように倍率が低下したのは、また新たな理由があると考えています。

それは、先ほどもご紹介したように「学費の安さ」というメリットが無くなったからではなく、

  • (特に都立中)ここ2,3年のとてつもない難易度と合格ラインの低さにより、対策の難しさが改めて認知されたこと
  • 受検対策開始時期の低年齢化により、高学年になってからの新規参入の壁が高まったこと
  • 年間100万円規模の塾代がかかることが一般的に知られていること
  • 入学後も中学受検時以上にハードな学習が続き、塾通いがまだまだ続くことを視野に入れなければいけない点が知られていること
  • 個性を伸ばす環境や手厚いフォローのある、魅力的な私立の選択肢が広がっていること
  • コロナ禍を経て、ネームバリューや偏差値にはこだわり過ぎず、確率の低い挑戦を避ける安全志向の傾向が(中学受験業界全体で)あること
  • ここ数年の通知表の厳しさから、報告書をネックに感じる保護者が多いこと

こういった、様々な「困難」や「他の選択肢」が明らかになり、(言い方は悪いですが……)ブームに乗って対策を始めるのではなく、保護者自身が非常に冷静なまなざしで公立中高一貫校を考えた結果、選択肢として「第一候補にはならない」と判断した方はかなりいらっしゃると感じます。

つまり、学校として人気が下がるような何か問題がある、というような理由ではなく、「情報が集まりやすくなったことによる冷静な買い控え」が、今起こっている、第二次の倍率低下期だと考えてください。

実際のところ、上記のような様々な要因をふまえても「それでも熱望する」という濃い層が残っているのが現状なので、見た目の倍率低下とは裏腹に、門の狭さは今後も継続すると考えています。

公立中高一貫校に受かった子に共通する特徴

公立中高一貫校は、地域によって様々な特徴があり、600字規模の作文を書かせるような学校もあれば、街づくりの企画・提案をさせる問題があったり、ほぼすべて算数に振り切った学校もあったり……と個性豊かです。

しかし、今年合格した子が、今の時期(5月頃)に持っていた特徴は何だったかと言われると、「書く力の高さ」だと断言できます。

そもそも記述が多い適性検査で受かるのだから、書く力が高いのは当たり前だと思われるかもしれませんが、たとえば記述がほぼ無い公立中高一貫校を受ける子でも、同じことが言えるのです。

また他にも、理系は得意だけれど、適性検査Ⅰ(作文分野)は点が伸びないと感じている子や、総合成績の低空飛行状態が続いていたような子でも、同じです。

受検対策が始まって間もない今の時点で書く力が高い子は、後半戦に入って文章読解力が伸びてきたり、他の分野が底上げされてきたりする中で、グッと順位を伸ばし始め、模試を受けてもそれほどの乱高下を起こさない傾向があります。

私の主宰しているオンラインサロンでは毎月作文のグランプリをやっており、過去数年分の先輩方の作文も遡って読むことができるのですが、今の時期にお手本として選出されている子の合格率を改めて見てみると、8割、9割にのぼることが確認できます。

まだ夏の天王山も訪れていない春の時期に、熱心にこういったイベントに参加する時点で相当な熱量を持っている子たちであることは間違いないのですが、それにしても、書く力の高さと合格率の相関関係は強く感じています。

「書く力」というと非常に曖昧ですが、分解してみると、いくつかのポイントが見えてきます。

①問われていることを正確に把握し、まっすぐ答えていること

(余計な情報まで入れていたり、途中で方向性の迷子になっていたり、堂々巡りを起こしたりすることなく、問に対して正確に打ち返すことができている)

②書けそうなこと、ではなく、書くべきことを書いている

(与えられたテーマに対して、自分が書けそうな話で勢い任せに書くのはなく、「相手は自分に何を書かせたいのか」を冷静に判断できている)

③細かな表記ミスがない

(誤字脱字等のミスをゼロにすることは難しいですが、そうは言っても、「緊張感を持って読み返せば気づく」レベルのミスは当然修正した状態で提出できる慎重さがあること)

④読みやすい字で書ける

(字のうまい、下手ではなく、採点者に対する最低限の礼儀として、雑さのない字を書くことができること)

このようなポイントを総合的に満たすのが、望ましいレベルの「書く力」です。

ご覧になってお分かり頂けたかと思いますが、単純に「記述がうまいかどうか」「作文が得意かどうか」ではなく、学習や相手に対する丁寧な姿勢を持ち、日頃から頭の中を整理して言語化する習慣の積み重ねが、「書く力」となって表面にあらわれているのだと思います。

一朝一夕で身につくものではありませんが、一番効率が良いのは親子の対話の中で認めながら伸ばすことです。

文系、理系問わず、「解きっぱなし」「書きっぱなし」にならないよう、お子さんがどんな文章を書いているのか、どんな姿勢で取り組んでいるのか、積極的に関わって頂ければと思います。

最初からうまく書ける子はいませんし、本番の時点で相手を唸らせるようなものすごい文章が求められるわけではありません。

  • ほとんどの受検者が思いつくようなごく普通の内容を、条件を漏らさず、丁寧な字で書くこと。
  • 問われていることからずれていないか、確認して整理してから書き始めること。

この二点をくり返し伝えながら、合格に直結する書く力を伸ばしていって頂ければと思います。

まとめ

さて今回は、2024年度の振り返りとして、倍率の見通しと、合格者が「今」際立って持っていた力についてお伝えしました。

次回はもう少し深堀りして、合格者の学習状況や家庭のフォロー体制について、例を挙げながらご紹介していきたいと思います。

まだまだ手探りで対策を進めていかないといけない時期ではありますが、間もなく、怒涛の模試ラッシュ期(6~7月)がやってきます。

まずは夏休み前まで、丁寧な学習習慣の完全定着を目指していきましょう!

▼公立中高一貫校の受検体験記もぜひご覧ください

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※記事の内容は執筆時点のものです

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