共学化を選んだ元・伝統女子校が見据える、グローバル社会に求められる教育・三田国際|男女別学を考える#9
埼玉では今も残る男女別学の公立高校。これを共学化すべきという声があがり、話題になっています。
私立の女子中高一貫校でも、毎年のように共学化する学校の情報が出てきます。
そこで今回は、2015年に女子校から共学化した三田国際学園中学校・高等学校を取材しました。
共学化した元・別学校の中でも、入学偏差値は上がり、合格実績も伸び、教育の内容も評価・注目されている学校です。
大転換を成し遂げ、躍進を可能にした背景にあるものとは何なのでしょうか。副校長・広報部長の今井誠先生、広報副部長・国語科教諭の守谷剛先生にお話を伺いました。
100年の伝統を見つめ直し選んだ多様性社会への対応
(写真提供:三田国際学園)
三田国際学園中学校・高等学校は、1902年に創立された裁縫学校が前身。
それが三田の地に移り、1916年に三田高等女学校として創設された、100年の歴史をもつ伝統女子校でした。
戦後、戸板中学校・戸板女子高等学校となり、現在の世田谷区用賀に移転しましたが、共学化にあたっては、かつての「三田」を校名に取り入れることで、創立者の思いへの原点回帰も示しています。
長い伝統をもつ別学校の共学化にあたっては、OBやOGが強く反対することも多いですが、三田国際の場合は大きな問題にならなかったそう。
「共学化には、同窓会も賛同してくださいました。多様なグローバル社会に貢献できる人材を育むためには、男女という身近な多様性を取りこむ共学化が必要である。それはまさに、学園の創立者・戸板関子が目指した実学を重視する教育の延長にあるものだと、当時を知る同窓会会長が認めてくれたのです」(今井先生)。
さて、この100年の伝統をもつ女子校が、共学化の先に築いている教育とはどのようなものでしょうか。
授業は「貢献」を軸に据える「教えない授業」
三田国際の授業の特徴は「教えない」ことです。教師が問題の解き方や知識を教えるのではなく、生徒に考えさせ自分の考えを発言させる授業を行い、グループディスカッションも常に行います。
「本学の生徒の3割は帰国生で、欧米で育った生徒も、イスラム圏で育った生徒もいます。ですので、ひとつのテーマに対しても、多角的な視点で議論ができます」(守谷先生)
たとえば、国語の授業で「伊勢物語」の「あずさ弓」を取りあげたときのことです。男女のすれ違いを描いた恋愛の物語で、ヒロインは最後、亡くなってしまいます。しかし、別のエンディングはないかと考えさせ、グループディスカッションを行いました。
こういったグループディスカッションは、別学校の場合、「異性の目がないから生徒は意見を述べやすく、授業の自由度が増す」とよく言われます。逆に言えば、共学だとハードルが上がるのでは、とも想像できます。特に恋愛をテーマにすると、さらに難しくなりそうですが……。
「中学3年生の授業だったので、誰かに恋心を持った経験がある子もいれば、まったくない子もいます。そういった性別や経験値の違いも含め、多様な視点からいろいろな意見が出てきました。多様な意見を述べることが、授業への『貢献』になるという考え方を、生徒たちには繰り返し伝えています。そのため、誰かが勇気を持って発言したら、みんなで拍手をします。『頑張って発言したね』とお互いの意見を認め合い、褒め合うようにして、発言への心理的安全性を確保するようにしています」(守谷先生)
なかには入学した当初はなかなか発言できない生徒もいますが、そういう生徒が、アンケートでは意見を書くということもあります。教師がそれをチェックし、次の授業で発言を促し、授業をフォローしていくとのことです。
「女子は周囲の様子をみてから発言をしがちですが、男子はどんどん発言をすることが多い。男子の存在により、より意見交換の活発さが増すこともあります」(今井先生)
多様な社会を生き抜く力を身につける。共学化も、授業のあり方も、目的ではなく、そのための手段なのだといいます。
充実したIT機器やネットワーク環境で、生徒主導のICT活用を
生徒に考えさせる方針は、授業だけではありません。
三田国際はICT教育で、2018年からApple社による「Apple Distinguished School」に認定されています。
校内はWi-Fi完備で、生徒一人に一台のiPadを持たせていますが、学校側が管理するICT活用ではなく、生徒たちが主導していることも特徴。
生徒たちが運営する「BUILD委員会」では「最終的にはルールなしでもいいようにしたい」を目標に、ネットのリテラシーや決まりを話しあって決めていきます。
実際の学びの場では、生徒が教師にiPadの使い方を教えるシーンもあるとか。学校や教師が生徒を管理するトップダウンではない教育の場が提供されています。
学校側がきめ細かい配慮をした上で、生徒の自発性を尊重し、自立させていく。新しい時代を見据えた学校のあり方がそこにはありました。
取材を終えて
(写真提供:三田国際学園)
三田国際は、共学化を機に、偏差値も大学合格実績も大きく伸長しています。
四谷大塚偏差値は、2015年は39だったのが2024年現在は58と19ポイントもあげており(※2月1日女子で比較)、大学合格実績も2024年度実績で東大が2名、早稲田が43名、慶應が36名、そして、プリンストン大学など、多くの海外大学にも合格しています。
しかし、取材の冒頭で、はっきりと宣言がありました。
「うちは大学合格を目的とする学校ではありません」(今井先生)
目的はあくまで、グローバル社会に貢献できる力を育むこと。大学合格実績は、この目的を追求するなかで出てきた結果にすぎない。
今も偏差値が大きな意味をもつ日本の中高一貫校にあっては革新的とも言える教育方針を貫くいっぽうで、お話からは、伝統校ならではの底堅さも伝わってくるのが印象的でした。
「共学化は確かに大改革でしたが、それを機に辞める教員は結局出ませんでした。建学の精神や目指す教育のビジョンを、改めて皆で考え、共有できたことは非常に大きい」(今井先生)
別学を続けるからこそ守れるものもあるけれど、共学化したからこそ成し遂げられることもある。改めてそう感じさせられる取材でした。
※記事の内容は執筆時点のものです
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