連載 男女別学を考える

伝統女子校が選んだ「生き抜く力」を引き出すアクティブ・ラーニング 和洋九段女子|男女別学を考える#8

専門家・プロ
2024年7月16日 杉浦由美子

0
男子校、女子校が共学化するケースが増えていますが、いっぽうで、男女別学だからこそできる教育のよさもあるという声があります。男女別学校の現在と今後を考える連載です。

非認知能力の重要性が叫ばれる中、注目されているのがPBL (Problem Based Learning)型学習です。

PBLとは「問題解決型学習」「課題解決型学習」などと訳される学習法で、教師が黒板に板書をし、それを生徒が書き写すという授業ではなく、与えられた課題について生徒たちがディスカッションしたり、グループワークをしたりするアクティブ・ラーニング型の授業です。

今回はこのPBL型授業を早くから取り入れ、総合型選抜入試対策にも結びつけている伝統校、和洋九段女子中学校高等学校の広報室長・小林玲子先生にお話を伺いました。明治30年創設の伝統校は、これからの時代を生き抜く力をどのように育もうとしているのでしょうか。

(写真提供:和洋九段女子)

時代の変化へ対応し、生徒の自主性を重んじる教育へ

──PBL型授業を積極的に取り入れてらっしゃいますが。(杉浦)

学科の授業でもPBL型授業を取り入れています。

たとえば、国語の教科書で森鴎外の『高瀬舟』を学んだ時に、安楽死についてどう考えるかというテーマを提示して、それに対して、グループディスカッションをさせ、資料にまとめさせ、発表をさせます。

意見を交わす中でルールとして、発表者や発言者の意見を否定しないということを決めています。仮にうまく発言できなくても、周囲は「発表をした勇気や姿勢」を拍手で称えることにしています。

これによって、「否定されない」という安心感の中で生徒たちは自由に発言ができるようになっていきます。

──このPBL型学習により、どのような成果がでていますか。(杉浦)

生徒の保護者の方からは「引っ込み思案な子なので積極的になってほしい」という希望を耳にすることがあります。実際、中学からPBL型授業をやっていますと、人前で話すことが上達していきますし、傾聴力もつきます。

和洋九段の生徒は、2023年度実績で卒業生82人中61人が推薦入試で進学をし、そのうち21人は総合型選抜です。総合型選抜の入試では面接やグループディスカッションが行われることもしばしばありますから、それの対策にもなっているように思います。

しかし、なにより、生徒の自発性が養われることが最大のメリットだと思っています。ホームルームの時間にも、PBL型授業で、たとえば「〇時以降はスマホに連絡しないようにしよう」など、クラスのルールを生徒たちが作ることもあります。

──伝統的な女子校というと、学校側がこまかくルールを作って管理をするというイメージもありますが、それとは違うんですね。生徒の自主性を重んじているように聞こえます。(杉浦)

かつては当校も過保護で、生徒が失敗しないように「それはしちゃ駄目よ」と先回りして行動を止めるようなところがありました。しかし、それではこれからの世界で生きぬく力が育たないのではということで、「今後100年続く女子教育」を学校全体で考え、方向転換をしました。

今はボランティアや部活、コンテスト出場なども本人たちの自発性を重んじ、なんでも挑戦するようにサポートしています。「全国高校生政策甲子園」や「全国学校空手道コンクール」創作部門といった少しニッチな大会でも生徒たちは結果を出しています。そういうチャレンジをする中で、ときには失敗することもありますが、それも大切な経験になると考えています。

受験もそうですね。学校としてはこれくらいの成績ならあの大学を受けてもらいたいなということがあっても、本人が違う大学を選ぶならそれを応援します。

受験に関しても、一般選抜向けの学力を高めるための指導ももちろんですが、総合型選抜などの推薦入試の対策も生徒に寄り添って進めていきます。

取材を終えて

スタディステーション(写真提供:和洋九段女子)

被服室(写真提供:和洋九段女子)

──和洋九段女子の学校案内のパンフレットでは、現役の教師4人がPBL型授業について討論をしているページがあります。

PBL型授業に積極的な教師もいれば、基礎学力を重視したいという教師もいて、双方率直に意見を交わしていて、学校案内ではちょっと珍しいタイプの内容になっています。

教師も生徒も自由に自分の意見をいえる風通しのいい文化であることがよく分かります。

校舎を見学すると、話題の本が並ぶ図書館、温水プール、一人に一台のミシンが設置される被服室、20時まで使用できるスタディステーション(自習室)、大きなプロジェクターが設置された教室など施設が充実していますが、華美なところはありません。

いわゆる「インスタ映え」を意識した設備ではなく、あくまでもより良い教育のための設備だなと感じます。

ネイティブの英語教師も6人いて、放課後になると、生徒は彼、彼女らの元を訪れて会話をしたり、英検などの面接の練習をしたりするそうです。

生徒の自発性を重視する誠実な教育方針が随所に見える学校でした。

(杉浦)

※記事の内容は執筆時点のものです

0