他家受粉とは~自家受粉に対するメリットと受粉システムの具体例
他家受粉とは、「1つの植物の花粉が、異なる株のめしべについて受粉すること」です。植物全体として自家受粉よりも他家受粉が多く、その理由として遺伝的多様性を維持するためといわれています。
遺伝的な考察は「自家受粉と他家受粉~長所と短所および受粉システムの違いとは?」に詳しく解説しましたのでご覧ください。この記事では、他家受粉を維持するために植物が備えている受粉システムの仕組みを中心に説明します。
Contents
他家受粉のメリットとは~自家受粉との比較
「同花受粉」と「同株内の異花受粉」は遺伝子的に同じで、自家受粉と呼ばれます。それに対して他家受粉は、異なる株の間で行われます。自ら移動することのできない植物にとって、他家受粉を実現するには他者のサポートが不可欠ですから、自家受粉とは全く次元の異なるレベルで仕組みを構築する必要があります。
その具体的な方法は次節で説明しますが、それほどまでして植物が実現しようとする他家受粉のメリットを最初に要約しておきます。冒頭で紹介した記事には、遺伝子モデルを用いて自家受粉と他家受粉の遺伝パターンを解説していますので、詳しくはそちらをご覧ください。
▼こちらもチェック
自家受粉と他家受粉~長所と短所および受粉システムの違いとは?
他家受粉のメリット1 :遺伝的多様性
同じ株同士で自家受粉を行ない続けた場合は、子孫が保有する遺伝子の種類は変わりません。一方他家受粉では、全く異なる環境で育った株によって生じた、多様な遺伝子が新たに持ち込まれます。
その結果、子孫の遺伝子パターンは次第に増えていきます。遺伝的多様性とは、環境が変化したときに生き残るのが「新たな環境に適応できる遺伝子を持った個体である」という考え方に基づきますから、他家受粉であれば常に環境変化への準備をしておくことができます。
他家受粉のメリット2 :不利な遺伝子が発現しない
仮に、ある株に環境適応するうえで不利な遺伝子があった場合、自家受粉では不利な要素も発現してしまう可能性が残ります。一方他家受粉であれば、不利な遺伝子を保有していても、発現することはありません。
以上のようなメリットを享受するために多くの植物は、生き残り戦略として自家受粉よりも他家受粉を優先するという選択を行い、あらゆる壁を克服しながら実現してきたといえます。
他家受粉のしくみ~植物の例で見る受粉システム
生き残り戦略として、植物は自家受粉と他家受粉のどちらを優先するのか選択しますが、一方を選択したからといって他方の道を完全に閉ざしてしまうわけではありません。他家受粉が成功しなかった場合に自家受粉を試みるケースもあれば、結果的に自家受粉による種子と他家受粉による種子の両方が作られるケースもあります。
生き物ですからさまざまなパターンがありますが、植物においては多くの場合、自家受粉よりも他家受粉の優先度を高くする傾向がかなり強いということです。そのためにどのような仕組みを備える必要があるのか、具体的に見てみましょう。
他家受粉のしくみ~他者に受粉を媒介してもらうための工夫
そもそも他家受粉とは、自らが訪れることのできない他の株から花粉をもらうのですから、誰かに花粉を運んでもらう必要があります。単純にお願いしても手伝ってくれる者はどこにもいませんから、よほどの工夫をしなければ種は途切れてしまいます。
その結果、じつに多様な作戦と対策が生み出されてきました。
◎ 虫媒花
昆虫に花の色・形・においで場所を知らせ、蜜や花粉を食料として提供し、体についた花粉を昆虫に運んでもらうという作戦です。花粉を大きめにして、粘り気をもたせ、昆虫の体につきやすくします。蜜腺を花の奥において、昆虫がもぐり込むことによって花粉が体につきやすくするといった工夫もこらしています。
◎ 風媒花
花粉を風に運んでもらうという作戦です。虫媒花と違って花びらは必要ありませんし、蜜腺やにおいを用意することもありません。ひたすら風に乗せることだけを考え、花粉は細かくさらさらで、大量に作り出してあとは風にまかせるというスタイルです。例えばマツの花粉は空気袋(気のう)をつけて、フワフワと風に漂います。
◎ 鳥媒花
蜜を用意して、ハチドリやコウモリなどに目立つ花びらで知らせるという作戦です。においよりも、花びらの色や形を工夫します。
◎ 水媒花
水草などは、花粉を水に運んでもらう作戦をとります。例えば水中に生息するセキショウモなどは、「おばな」も「めばな」も体から離れて浮かび上がり、水面を漂う花粉によって受粉します。
他家受粉のしくみ~自家受粉への対策(その1)
植物の多くは同じ花の中に「おしべ」と「めしべ」がありますから、他家受粉を生き残り戦略として選択した場合は、「同じ花」または「同じ株」の花粉が柱頭についた場合の対策をほどこす必要があります。
具体的には、同じ花や株の花粉であれば、花粉管の成長を止めて受精にまで至らないようにする仕組みを備えます。「S遺伝子」と呼ばれる遺伝子を持ち、「花粉」と「めしべ」が同じS遺伝子を持っていれば花粉管の成長を止め、同じでなければ正常に受精するというものです。
他家受粉のしくみ~自家受粉への対策(その2)
同じ株に、「おしべ」か「めしべ」か一方しか持たない「単性花」は、自家受粉そのものを避けるための仕組みといえます。ウリ科のウリ・ヘチマ・キュウリ・カボチャ・スイカ・ユウガオは、単性花の例として覚えておきたい植物です。
他家受粉のしくみ~自家受粉への対策(その3)
同じ花の中にあっても、「おしべ」と「めしべ」が異なる時期に成熟するようにすることによって、自家受粉を避ける仕組みを備える場合があります。また「おしべ」と「めしべ」を空間的に離れた位置に配置することによって、自家受粉を避けるというケースもあります。
さらに「同じ株内での異花受粉(隣花受粉といいます)」を避けるために、株の中で開花時期を変えるという工夫をしている植物もあります。
まとめ
◎ 多くの植物は遺伝的多様性を維持するために、他家受粉の戦略を選択しています。
◎ 他家受粉を実現するために植物は、他者(昆虫・鳥・風・水)に花粉を運んでもらうためのさまざまな工夫をしています。
◎ さらに植物は自らの自家受粉への対策として、さまざまな仕組みも備えています。
※記事の内容は執筆時点のものです
とじる
お気に入り機能は
会員の方のみご利用できます
会員登録のうえログインすると
お気に入り保存できるようになります。
お気に入りのコンテンツは、
マイページから確認できます