連載 「下剋上受験」桜井信一 特別インタビュー

中学受験は、勉強のミスを防ぐ努力が大切|「下剋上受験」桜井信一 特別インタビュー(10)


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両親は中卒、それでも娘は最難関中学を目指した! そんなインパクトある実話がベースのTBS系ドラマ「下剋上受験」……。その原作者である桜井信一氏に、自身が監修を務める「マイナビ家庭教師」のこと、中学受験のこと、勉強方法についてなど、受験生を抱える保護者はもちろん、すべての親御さん必見の話を聞いた。

何がカッコよくて、何がカッコ悪いのか? この意識を変えないかぎりミスは直らない。だらしない字も、いい加減に解くクセも直らない

――前回は「ミスは防ぐ方法を考えることで減らせる」というお話でした。それ以前の問題として、「字が雑なので計算ミスがなくならない」「ていねいな字で書くように何度言っても変わらない」……そんな悩みもよく聞きます。

そもそも「ていねいに書かせよう」という発想が違うのではないでしょうか。「そんな字だと6か0かわからないじゃない!」と叱って直る話ではありません。約分の際などは小さく書きますので、確かに汚い字だと自分でも混乱してしまいますね。

でもこれを強制的に直させるには、小5や小6の子どもは大きくなり過ぎていると思います。叱って親の言うことをきかせるのはもっと幼い時分までで、そろそろ「自分」という意識が芽生えだしたタイミングですから、力ずくで抑えつけるのは少し無理がある。

ならばどうするか? その「自分」という意識をうまく利用してやればいいんです。一時、ジーンズを極端にずらして履く若者が街にあふれました。あれ、どう見てもダサいですよね? でも彼らはカッコいいと思っている。つまりだらしないことをカッコ悪いと思っていないわけです。

雑な字はだらしない服装と同じで、ホントにカッコ悪い。ミスをするのもカッコ悪い。トップアスリートはミスした瞬間をカッコ悪いと感じているからこそ、ハードな練習を乗り越え一流の選手になっているわけです。ミスに対する意識が一般人と圧倒的に違うわけですね。

つまり何がカッコよくて、何がカッコ悪いのか? この意識を変えないかぎりミスは直りません。だらしない字も直りません。いい加減に解くクセも直らないわけです。ただし、「自分」という意識があるタイミングで、一方的に否定してもダメなんです。

――大切なのは、あくまでも子ども自身に気づかせること、なんですね。

一流のアスリートはなぜミスをなくしたいと思っているのか。どれくらい強い意志でもって防ごうとしているのか。これを染み込ませるようにゆっくりと話すんです。インターネットの映像をいくつも準備して、禁煙セラピーと同じ要領で見せるわけです。

「ほら!コッチがいいでしょ?」なんて押しつけてはいけません。「だからアスリートってあんなにカッコいいんだね!」と本人に言わせる。自分で決めさせる。親に決めてほしくない年頃なんです、彼らは。決定権を子どもに与えたまま、誘導するわけですね。サッカーでもフィギュアでも、その子が興味を抱く対象で何がもっとも説得力があるか見当をつけて、そこを突く。くすぐる。するとミスはかなりの確率でなくなります。

娘がとてつもなくミスの多い子だったので、私自身ミスについてはずいぶん頭を悩ませてきましたが、結局のところ「意識を変える=ミスが減る」、これに尽きるのではないでしょうか。

しかもこれは中学受験に必要不可欠な公式なのに、どこのテキストにも書かれていません。人間はミスをする生き物です。ヒューマンエラーなんて言葉を持ち出すと、ミスは当然の権利みたいに感じて堂々と行使しちゃいそうです。

しかし、ミスを防ぐ対策を講じていないことはやっぱり恥ずかしいのです。小学生には厳しい注文かもしれませんが、これができる子がいる以上、そして学校側がその能力を要求している以上、負けてられないのです。

――学校側は、ミスを防ぐ努力をしてきた子を求めている、と。

「私立中学にはなぜ入学試験があるのか?」をお子さんに考えさせながら、ぜひその部分を話してあげてほしいなと思います。

そもそも何かを書くという行為は何かを伝えるために行うわけですよね。それは答案用紙であっても同じだと思うんです。そこにミスがある、間違いがあるってことはその伝えようという意識が低いってこと。手紙だってそうですね。大事な相手に送る手紙は慎重に書きます。

では、慎重に書く理由ってなんでしょう。そこを突き詰めると入学試験との向き合い方がわかってきます。受験生がメッセージを送るのは、答案用紙が相手ではありません。ほかの受験生が相手でもありません。学校側に話しかけられるたった一度きりのチャンスが入学試験なのです。

答案用紙は受験生が学校側に気持ちを伝える手紙のようなもの。つまり受験というのは、入学させてほしい学校との対話なのではないでしょうか。

「これはちゃんとできます」「これも大丈夫です」「それはかなり苦労しましたが、できるようにしてきました」「こんなに練習してきましたので、けっしてあきらめません」 そんなメッセージをひとつひとつ伝えるイメージで答案用紙に文字を書き込む。答案は伝える相手を意識して書くことではじめて、ていねいな「ことば」になるものです。

こちらの精一杯の気持ちが答案用紙を通じてしっかり伝われば、学校側はそれに応えて必ずや頷いてくれることでしょう。

文◎「マイナビ学生の窓口」編集部

※この記事は「マイナビ家庭教師」Webサイトに掲載されたコラムを再編集のうえ転載したものです


■「下剋上受験」桜井信一 特別インタビュー バックナンバー

※記事の内容は執筆時点のものです

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