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エルニーニョ現象とラニーニャ現象 入試で問われるのは考える力

2018年7月31日 ゆずぱ

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いわゆる難関中学校の入試問題で、エルニーニョ現象やラニーニャ現象が頻繁に出題されています。気象現象としての基本的な知識が問われるのは当然ですが、このエルニーニョ現象やラニーニャ現象が登場する問題には特徴があります。それは、文章や会話文から答えを読み取る力や、グラフや表から答えを導き出す力が求められるという形式が多い点です。問題の出題例を交えながら解説いたします!

南米の気象条件が世界中に異常気象をもたらす

気象現象はとても複雑であり、ある地点の気象現象が世界中の気象に影響をもたらすと考えられる事例があります。その代表格が、エルニーニョ現象とラニーニャ現象です。日本からみて地球のほぼ裏側にある南米の気象現象が日本の気象にまで影響を及ぼすというのは不思議な現象のように思えますが、地球規模で事象をとらえたり、気象分野の基本事項をおさえたりしていれば、論理的に説明できるものもあります。中学受験ではその論理的な考え方が求められます。

エルニーニョ現象やラニーニャ現象を正しく理解するためには、理科の気象分野の基本的な事項をおさえておく必要があります。例えば、太平洋の赤道付近では常に貿易風と呼ばれる東風が吹いているということ。ほかに、暖かい海水の上空には湿った空気の上昇気流が発生し 、積乱雲が発生しては雨を大量に降らせるということも理解している必要があります。また暖かい海水は海面に向かって上昇し、冷たい海水は海底へ沈み対流が発生するという点も基本事項としておさえましょう。

エルニーニョ現象と日本への影響

エルニーニョ現象とは、南米のペルー沖の海水の温度が上昇する気象現象です。数年に1度の頻度で発生しています。

さて、ここからが本題です。このエルニーニョ現象が発生する原因はなんでしょうか? そしてこの現象が発生した結果、何が起こるでしょうか?

エルニーニョ現象は、定常的に吹いている東風(貿易風)が弱まることから始まります。南アメリカから太平洋に吹く東風が弱まると、太平洋の西側にある暖かい海水が南アメリカの西岸付近まで到達して、太平洋全体の海水の温度が上昇するというカラクリです。

エルニーニョ現象が発生すると、通常時はインドネシア付近で発生している積乱雲が東へ東へと移動します。その分、インドネシア付近に高気圧がはりだし、日本の南方は高気圧でおおわれます。この高気圧により日本の気候に大きな影響を及ぼします。

複雑な気象現象なので必ずとは言えませんが、日本の南方が高気圧であることで日本は低気圧におおわれ夏の日照りが減り冷夏になる傾向が、そして日本の南方が高気圧であることで偏西風が通常より北側に吹くため、冬には西高東低の気圧配置が弱まり暖冬になる傾向があります。

ラニーニャ現象と日本への影響

ラニーニャ現象とは南米のペルー沖の海水の温度が下降する気象現象です。エルニーニョ現象と逆の現象ですね。同じように、ラニーニャ現象が発生する原因と、この現象が発生した結果、何が起こるかを考えてみましょう。

ラニーニャ現象が発生する原因は、エルニーニョ現象と反対です。定常的に吹いている東風(貿易風)が強まることから始まります。南アメリカから太平洋に吹く東風が強まると、太平洋の西側にある暖かい海水が西側にとどまり、太平洋全体の海水の温度が下降するという流れです。

ラニーニャ現象が発生するとインドネシア付近の暖かい海水がその場に停滞するので、よりいっそう積乱雲が発達します。そうなると日本上空は高気圧におおわれます。この日本をおおう高気圧が日本に大きな影響を与えます。

エルニーニョ現象と同様、気象現象なので100%とは言えませんが、日本上空の高気圧により夏は晴天が続き猛暑になる傾向が…そして冬には西高東低の気圧配置が強まるとなるため厳冬となる傾向があります。ちょっとした南米の気象の変化が遠く離れた日本の気候にも影響を与えるんですね。

これらのメカニズムは気象庁のHPで確認することができます。

関連リンク:日本の天候へ影響を及ぼすメカニズム|気象庁http://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/data/elnino/learning/faq/whatiselnino3.html

中学受験において問われるのは知識ではなく考える力!

エルニーニョ現象とラニーニャ現象を発端とした、気候変化のメカニズムを説明してきましたが、中学受験入試では、そのメカニズムが知識として問われることはあまりありません。重要なのは基礎知識を理解して考える事ができるかどうかという点。

知識の例としては、高気圧は下降気流が発生して良い天気になる……、低気圧は上昇気流が発生し雲ができやすい……、などです。特に難関中学校ではこれらの基礎知識をベースに、文章やグラフや表などを読み解く力を求める問題が本当によく出題されています。

ペルー沖で魚が取れなくなる理由は? 実は設問に答えが!

渋谷教育学園渋谷中では、エルニーニョ現象が発生した時には南米のペルー沖では魚がとれなくなるという理由を問う問題が出題されています。そんな知識は持っていないですよね!? でもその答えは、問題文に書かれた会話から読み取ることができるようになっているんです。海底の水塊が上昇することで海面に栄養が運ばれるという「青潮」の話が書かれています。

エルニーニョ現象が発生すると、西から暖かい海水が東へ東へと移動するので、ペルー沖で海底の水塊が海面へ上昇しないという知識さえあれば、魚が取れにくくなるということが推察できるようになっているんです。

日本で梅雨明けはどうなるか? 実はグラフに答えが!

本郷中では、エルニーニョ現象が発生すると日本の梅雨明けは例年に比べてどうなるかを問う問題が出題されています。これまた小学生が知識として持っている事はありませんよね。答えは問題文のグラフにあります。統計データがグラフや表として掲載されており、そのグラフの傾向を見るとエルニーニョ現象が起こった年は梅雨明けが遅れる傾向にあることが読み取れるのです。

これはエルニーニョ現象が起きると、遠く離れた日本の気象にも何らかの影響を与えるという前提知識とグラフを読み取る力があれば解けるようになっています。

最低限の知識は必要。他の気象現象と区別ができるか?

最後に、やっぱり最低限の知識はおさえておくべきという例をご紹介します。桜美林中や桐光中など複数の中学校で出題されている出題形式があります。選択肢に複数の気象現象を並べて、区別できるかどうかを問う問題です。細かい内容は知らないまでも気象現象の概要をおさえているかを試したいのでしょう。中学入試においておさえておくべき気象現象はいくつかあります。

a.エルニーニョ現象
・南米のペルー沖の海水温度が通常より高くなる現象。
・日本では冷夏となり暖冬となる傾向がある。

b.ラニーニャ現象
・南米のペルー沖の海水温度が通常より低くなる現象。
・日本では猛暑となり厳冬となる傾向がある。

c.ヒートアイランド現象
・都市の中心部の気温が郊外に比べて島状に高くなる現象。
・都市化が進む前の1980年代ごろまでは発生していなかった。

d.ダウンバースト現象
・積乱雲からの強い下降気流が地面に衝突した際に強風が吹く現象。
・積乱雲は上昇気流で発生するが、積乱雲の衰退期には下降気流が発生する。

e.フェーン現象
・山の斜面に衝突した風が山頂を経て反対側の斜面に吹きおろす現象。
・吹きおろす風は気圧の下降と共に温められ、ふもとの気温を上昇させる。

まとめ

エルニーニョ現象とラニーニャ現象は南米のペルー沖で発生する気象現象ですが、遠く離れた日本の気候へ大きな影響を及ぼすことが知られています。中学入試の問題では、これらの気象現象の基本知識が求められることもあります。

ところが、難関と呼ばれる中学校では、基本的な気象分野の基礎知識を理解したうえで、問題文に書かれた内容やグラフや表から読み取る力を求められたりします。気象分野の基礎的な知識をおさえると共に、知識がなくても慌てずに問題の文章やグラフを見て冷静に考えることが重要です!

※記事の内容は執筆時点のものです

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