学習 連載 合格する子どもの伸ばし方

【社会】大学入試改革を見据えて10歳前後にやっておきたいこと |本物の力を育てる「合格する子どもの伸ばし方」

専門家・プロ
2020年8月13日 松本亘正

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子どものタイプによって、親の関わり方や言葉のかけ方を変えたほうがぐんと伸びる。子どもは、大きく4つのタイプに分けることができる ―― 中学受験専門塾 ジーニアス代表、松本亘正氏の著書『合格する子どものすごい伸ばし方』から、わが子のタイプを知り、子どもの力を伸ばす方法を紹介します。

「社会は暗記」「受験前に詰め込みで何とかなるもの」というのは、私が中学受験をした1990年代では通用した手法です。私大文系の入試問題で、用語をいかに覚えたかどうかが合否を分けるというのは、いまでも変わってはいません。

でも、中学受験、公立高校受験はそうではありません。国公立大学受験では「グラフや資料を読み取る問題」が多くなっています。

そして、2020年度から始まる大学入学共通テストでも、その傾向は高くなります。「グラフや資料を読み取る問題」で差がつくのです。

グラフや資料を読み取る力でぐっと差がつく

この分野は、まわりの大人が読み方を教えてあげないと、いつまでも自分で読み取ることができません。いい問題集も市販されていないので、塾では毎年夏に新しいデータを用いて、資料の読み取り問題を大量に作り、中学受験生に解かせています。

ただ、なかなか自宅で学習するのは難しいので、10歳までは、割り切って暗記や体験に力を入れましょう。

1、あとで覚えることになる統計は10歳までに暗記してしまう
2、五感を使った体験を重視する
3、都道府県名を漢字で覚える、位置をだいたい把握する

統計の暗記は、未就学時から小学校低学年までにかけてはじめることができます。

「りんごの1位は?」『あおもり』
「じゃがいもの1位は?」『ほっかいどう』

これくらいのやりとりなら、小学校低学年でもできますね。

まだどの位置にあるかというところまでは、わからなくてもかまいません。食卓に出るものから、少しずつ覚える練習をはじめていきましょう。

統計集では『日本のすがた』(矢野恒太記念会・国勢社編 矢野恒太記念会刊)がおすすめです。ずっしりした資料集ではなく、もともと子ども向けに書かれたものです。小学4年生にもなれば、自分で読める子も出てくるでしょう。

旬のものに触れたり、実体験をたくさんさせよう

次に、「旬」のものを教えてあげるといいですね。

たとえば、中学受験では次のような問題が出されます。

「高知県はなすの生産がさかんで、促成栽培が行われます。なぜ促成栽培が行われているのでしょう」

解答は「冬から春にかけて出荷することで、高い利益を上げるため」なのですが、これを意味もわからずに暗記している受験生もいます。そもそも、なすが旬を迎える時期がいつかを知らない子も少なくありません。夏が旬のなすを、冬から春にかけて出荷すると、ほかの地域ではあまり生産されていないから高く売れるのです。

中学受験では、サンマの旬の時期がわかっていないと解けない問題や、レタスがどの時期にどこから入荷されるかを問うような問題が出されています。

受験直前期に暗記することもできるのですが、すべてのことを暗記しようとすると膨大すぎて追いつかなくなってしまいます。

でも、「大人の常識」を身につけていると、答えを出せます。旬は家庭の会話のなかでわかってくるものですから、子どもとたくさんの会話をしたいですね。

五感を使った体験も大切です。社会科見学で名所に出向く「見るだけ」の経験は、意外と忘れてしまうもの。実際に五感で経験すると、記憶に残るものです。

「せっかくあちこち旅行に連れていったのに、その問題をうちの子は間違えているんです!」

という相談を親御さんから受けることがあります。旅行に連れていって名所を観光したのに、問題になるとできないというのです。残念ながら、これはあります。

でも、田植えをした経験は、子どもの記憶に残っているものです。

4年生の米づくりの回で、稲作の順番だけではなく、中干しをする理由まできちんと答えられる子がいました。「よく覚えているね」とほめたところ、

「だって、千葉県の棚田でお米を作っているから」とのこと。

家が農家ということではなく、定期的に棚田で稲作体験をしたのだそうです。五感を使った体験は記憶に残るものだと実感しました。

農作業までは難しくても、旅行先でできることをひとつ紹介します。

それは、「その土地の名産品を食べる」ということです。

それもちょっと特殊な経験が望ましいですね。たとえば、高知県に旅行に行くなら「カツオの藁焼き」がおすすめです。

「昔はこうやって焼いていたんだよ」
「なんでこんなに火を通す必要があるのかな」

とちょっとした会話もはさんで、理由まで考えられます。

何より、火が勢いよく燃え上がるのを見ながら、串に刺したカツオを手に持っていたこと自体が記憶に残りますよね。すると、あとで「高知県の土佐清水港はカツオの水揚げ量が多い」と習ったときに、「あっ」とつながっていくのです。

沖縄に行ったら、あぐー豚を食べるだけでなく、ぜひ公設市場で売られているさとうきびを買って、ガジガジ噛ませてあげてください。たった100円です。

都道府県名を覚えて、位置まで把握することは、10歳頃に集中して取り組みたいこと。

漢字で覚える習慣をつけなければ、いつまでも書けるようになりません。10歳という年齢は、子どもが親の言うことをぎりぎり素直に聞ける時期ですし、10歳までは暗記重視でいいのです。この時期をすぎると、そろそろ「考える力」を身につけていく必要があります。ですから、10歳前後には、都道府県名を漢字で覚えさせ、位置もだいたい把握できるようにしておくのが望ましいですね。

12歳までは、親が資料の読み取りに関わろう

「グラフや資料を読み取る問題」はなかなか家庭でできるものではありません。そんななかでもできることを、解説しておきます。

12歳まで

まだ小学生ですから、「ここだけはおとうさん、おかあさんが関わるね」と宣言してしまいましょう。テストの見直しや、解き直しは、まず子どもが自分がすすんで取り組んだりしません。子どもにとっては過去のことで、振り返るのも面倒なのです。

でも、「資料を読み取るタイプの問題」だけは一緒に復習しましょう。とくに、ただ資料に書いてあることが正しいか正しくないかを判断する問題は、自分では復習もしにくいうえ、自分で「わかった」と思い込んでいることが多いのです。そこで、根拠にした資料や文章に○や印をつけさせ、「だからこの答えになるんだね」と手伝ってあげてください。

子どもは突然、自転車をひとりでこげるようにはなりません。親の手伝いや補助輪があって、徐々に補助輪なしでこげるようになっていきます。それと同じです。

どういう考えをたどればいいのか、親から見て当たり前に解けそうな問題だからこそ、その考え方を伝えてあげたいものです。

12歳以降

中学生になったら、さすがに親がとなりで勉強を手伝うことはほとんどなくなるでしょう。子どもから求められてはじめて、英単語を暗記しているかどうかのチェックをするくらいの関わり方になると思います。

でも、公立高校受験でも資料読み取り問題は多く出題されるので、差がつきます。ですから、こういう問題が苦手であれば、自分で専用のノートを作って、左のページに問題を貼り、右のページに自分なりの解説を書かせてみましょう。

どうしても苦手な分野は、「マイ問題集」を作るのがおすすめです。

ただし、注意したいのは、あまり時間をかけすぎないようにすること。1週間に1、2問にとどめ、出てきて間違えたらそのノートに追加していくといいでしょう。

イラスト hashigo(silas consulting)


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