連載 中学受験との向き合い方

緊張・不安・苛立ちを緩めるアイスブレーキング ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2020年6月17日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

家庭よりもビジネスの場で耳にすることが多い「アイスブレーキング」。直訳すると「氷を割る」という意味になります。初対面の人が集まる場では、お互いの心やその場の雰囲気が、まるで氷のようにカチコチに固まってしまうことがありますよね。そんなふうに張りつめ、固まってしまった状況を打ち砕く(ブレーク)する ―― すなわち、心の緊張をほどくための技法がアイスブレーキングです。

英語のニュアンスはさておき、打ち砕くというのは”力ずく”な感じもするので、私は氷をとかす、硬いものを柔らかくする、固体の氷を水のような自在に形状変化できるものにする、という意味でアイスブレーキングという言葉を使っています。

家庭にとってのアイス

家庭内でなんとなく重苦しい空気や、居心地の悪い空気を感じることもあるでしょう。親子間や夫婦間で喧嘩をした直後には、当事者以外の家族もなんとなく気まずい思いをしがちです。あるいは、誰かが学校や会社でイライラすることがあって、それを家に持ち帰って夕飯時に口数が減ってしまう……という状況もありがちです。

ここ最近の出来事でいえば、緊急事態宣言が出た直後のご家庭でも「アイス」が張りつめていたかもしれません。親は自宅でテレワークをして、子供も自宅で学習をする。普段とは違う日常にイライラしたり、鬱陶しさを感じたりした人も多かったと聞きます。子供の受験にも「アイス」は張りつめがちです。入試が近づくにつれて子供がナーバスになってイライラしたり、親御さんまで緊張感を持ってしまったりします。

家庭版アイスブレーキング

こうした「アイス」をとかすために、家庭内でどのような試みができるでしょうか。ビジネスの場では、初対面の人同士が集まったときに簡単な世間話や自己紹介、ワークなどをして、互いの緊張を和らげます。これらが氷をとかす(緊張をほどく)わけです。一方、家庭内でアイスブレーキングをする場合、特にかしこまったことをする必要はありません。家族全員が少しだけ気持ちを緩められるようなひとときが、たった数分あるだけでもいいのです。

家庭内で重苦しい雰囲気を感じたときは、誰かが「ちょっと軽く遊ぼうか」と家族全員に声をかけられるといいですね。アイスブレーキングの最重要要素は笑いです。タイミングとしては、一家団欒の時間や夕飯時など少しゆとりがある時間がおすすめです。

「にらめっこ」をするのもいいし、「アルプス一万尺」のような簡単な遊びをするのもOKです。少しまとまった時間が取れそうなときは、トランプやしりとりをしたり、家族みんなでお笑い番組を見て笑いあったりするのもアイスブレーキングになります。

勉強がうまく進まないときや、試験・テスト前は、気持ちがネガティブになってしまいがちです。受験生だけでなく親御さんも、日常のなかで小さな不満は積もっていきます。山積みの家事に心をすり減らしたり、明日の会議のことを思うと恐ろしくて眠れなくなったり、誰しもが大なり小なりの緊張・苛立ち・不安を抱えるものです。

そんなとき、私たちは知らず知らずに息が浅くなったり、暗いため息をついたりします。息詰まったら息を抜く。ため息をつくなら、明るく盛大に笑顔のため息をつく。そして家庭内でもアイスブレーキングを取り入れて、「はっはっは」と笑いながらストレスガスを放出しましょう。

入試本番前は適度な緊張感を保つ

入試直前期は、受験生の気持ちが特に張りつめやすいタイミングですね。しかし、だからといって「緊張感をゼロにしなければ!」と力(りき)んでしまう必要はありません。(「緊張をなくそうとして力んじゃった!」も笑いを誘うジョークですね)試験当日の緊張感は、ありすぎてもなさすぎても注意力が散漫になります。強弱を自在にコントロールできる緊張感を持って受験に臨んだ方が、よい結果は出やすくなるものです。

ただ、試験会場に向かうお子さんが、あまりにも緊張しすぎているように見えたら、ほんの少し緩むようなアイスブレーキングをすることをおすすめします。にらめっこでもいいでしょうし、簡単に手を握って励ましたり、以前に紹介した「3・2・1・0リラクセーション」をしたりするのもいいでしょう。子供の表情が少しでも緩んでいるように見えたらアイスブレーキングは大成功です。親御さんも「やれることはやったんだ」と開き直って、子供が帰ってくるのを笑顔で待ちましょう。

家族が気軽にアイスブレーキングを持ちかけられる関係性を

「クリニクラウン」という分野があります。直訳的に「臨床道化師」と訳されています。ご老人のケアや病気の子供のケアを、「遊びと笑い」でおこなう活動です。クラウンのシンボルは、赤い鼻。私も先日必要があって「ピエロ鼻」を通販で買いました。5個セットで約1,000円です。届いてみて驚いたのは、一つひとつが電池で点滅するようにできていました。5つもあるので鼻と両目と両耳に装着して光らせようと思っています。

誰かと楽しむ時間を多く持つことは価値があります。また、楽しませよう、笑ってもらおうという心遣いで家全体の雰囲気がよくなります。冗談交じりに仕掛けたことがスベッて笑いものになってもいいのです。そうした風通しのいい家庭は家庭自体が丈夫になります。家庭が「家にいると言えて癒える」場として機能し、ストレスに負けない丈夫な気持ちを育みます。家庭内で張り詰めた冷たい空気を感じ取ったら「(冗談交じりに?)パパ抜きでババ抜きでもしてみようか」などと、誰かがアイスブレーキングを持ちかけられる。そんなフレキシブルな関係を築いてほしいですね。


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。「一家にひとり、一課にひとりのコミュニティ・カウンセラー」を育てることを目標としている。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。

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