連載 中学受験との向き合い方

勉強の中だるみを乗り越えるには ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2020年7月02日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

受験勉強は長い戦い。休息も必要です。しかし、休憩から再び机に向かうには、ある種の“強さ”、強い意志力が必要です。なぜなら、弛緩モードから緊張モードへの切り替えはその逆よりも強い力を必要とします。ゴムひもは、引っ張ったものを手放すより引っ張るときに力が要るように。

勉強に疲れて休憩していたら「もう少し休みたいな、もう少し……」というように休むことがやめられなくなり、勉強を再開しにくくなる。そういった、いわゆる“中だるみ状態”からの立ち直りには“強さ”が必要なのです。「結果にかかわらず中学受験は価値がある」と私が申し上げる一つの理由は、中学受験はこの“強さ”を鍛える絶好の機会だからです。

粘り強く子供を見守る

親目線で子供を見ていると「この子は一度休んだらダラダラしてなかなか勉強に戻ろうとしないな」と感じることがあるかもしれません。もしもお子さんの中だるみが常態化しているようにみえる場合、親御さんはどんな対応をするべきでしょうか。

もしも子供の意志力を鍛えようとなさるのなら、基本的に『見守る』姿勢を維持してほしいです。自分の行動を自分で選択させ、実行させるのです。しかし、ただ待っているだけでは、状況は一向に改善されないという不安が沸いてくることもあるでしょう。そこで、“強いる”のではなく“促す”、いわばファシリテーション感覚で子供にアプローチしてみましょう。ファシリテーションとは「(facilitation)とは、人々の活動が容易にできるよう支援し、うまくことが運ぶよう舵取りすること」(日本ファシリテーション協会)です。

子供の休息の見守り方

「ゲームばっかりやってないで、いい加減に勉強しなさい!」

こうした命令を下すことは、子供に勉強させるための手っ取り早い手段のひとつです。親の命令どおりに、机に向かうことはあるでしょう。しかし、素直にしたがっているように見えても、子供は「親にいわれたからしょうがない。勉強するか……」という気持ちで机に向かっているだけにすぎません。こうした姿勢が続いてしまうと主体性や当事者意識が育ちにくいです。勉強や中学受験に対するモチベーションも徐々に下がり、より中だるみを招く要因になりえます。

「何もいわないで待つ」「何か親側でアクションを起こして待つ」というように、親の待ち方にはいくつかのパターンがあると思います。こういうときは、どう待って欲しいのか子供本人に聞いてみるのもいいでしょう。

「『そろそろ勉強する時間じゃない?』って聞いてほしい? それとも黙って見守っていてほしい?」

「休憩してから自分で動き出したときには褒めてほしい?」

などと質問して、親子間で意識のすり合わせをしてほしいですね。

欲しい支援を子供が自分で考える。親はそのアシストに徹するという形が理想的です。それは、子供自身が受験勉強のプロセスを取り仕切るディレクターになるということ。両親に叱咤激励されることも含めて、受験生本人が計画を組み立てていくのです。冒頭で書きましたように、休んで気持ちが緩んでいる状態から立ち直り、机の前にもう一度座るためにはエネルギーが必要になります。それを自分だけの力でやるのか、それとも親の力を借りるのか。その点を話し合って自分自身で決めることは、受験を自分事として考えるための第一歩になるでしょう。

誰が誰のために中学受験をするのかを理解できれば、毎日のルーティンを粘り強くこなしていけると思います。中学受験は「やりたいこと(例えばゲーム)をやらない我慢」と「やりたくないことをやる我慢」の強さを鍛えるジムのようなものです。

親は子供が気持ちを切り替えた瞬間を見逃さない

子供がやりたいことを我慢して机に向かったその瞬間は、親がアシストするタイミングのひとつです。親御さんは森の中で獲物を待つハンターになったつもりで、この一瞬を見逃さずに、声掛けをしてほしいと思います。ハンターですから、騒いでいたのでは獲物が近づいてきません。目を凝らし耳を澄ましてじっと待つ、これがハンターの心得です。

たとえば「お、ゲームを続けたかったのに勉強に取り組んだ? どうやって気持ちを切り替えたの?」と問いかけてみましょう。見かけのうえでは、ただ勉強をやり始めただけに見えるかもしれません。しかし、子供の心の中では、「もっとゲームをしていたかった自分」と「勉強を始めるべきだと思っている自分」の綱引きがあったはずです。それを見逃さず声を掛けてみてください。

これから先の人生でも、疲れて気持ちがイマイチのらない状況がきっと出てきます。そんなとき、親の声掛けで得た気付きを思い出せれば、やるべきことに取り組めるようになるでしょう。克己心は受験が終わっても一生役に立つ、大切な財産です。

中学受験をする意味を定期的に親子で確認する

中だるみを防ぐためには、子供自身がなぜ中学受験をするのかを理解し、当事者意識を持って勉強に臨むことも大切です。中学受験は多くの場合、親御さんの「わが子を私立中学に入れたい」という思いから始まります。しかし、たとえスタートがそうだったとしても、受験の過程で子供に少しずつ当事者意識を芽生えさせなくてはなりません。「私は私のために中学受験をする」と子供が考えられるようにするためには、親子間での意識のすり合わせが必要です。

成長に伴い、子供の考えは変わる

  • 中学受験をすることについてどう思っているのか
  • 志望校についてどう考えているのか
  • 将来はどんな大人になりたいのか

これらはいわば、中学受験の表テーマです。こうしたテーマをお正月や塾の年度替わり、季節の変わり目に親子で話し合っておくのは大切なことだと思います。中学受験の勉強は4年生から開始すれば約1000日の期間をかけますが、その間に子供はめまぐるしく成長します。成長にしたがって考え方も変わっていくのです。お互いに感情的にならずに、中学受験に対してどう思っているのか、忌憚なく話し合う機会を作ってほしいと思います。子供が納得できないまま強引に塾に通わせても、集中して勉強させることは難しいでしょう。

親子で気持ちよく中学受験と向き合うには、細かなルールを見直すことも大事です。一日どれくらい勉強をするのか、ゲームは一日どれくらいやっていいのかなど、約束事も親子で見直してアップデートしてほしいですね。

言葉にしていない部分にも目を向ける

中だるみを予防するために大切なのは、親子で話し合うこと、子供の話に耳を傾けること、そしてもうひとつ。言葉にしていない『想い』に目を向けることです。「算数は嫌い!」と子供が言っていたとしても、内心では少しずつ好きになり始めているかもしれません。あるいは、「○○中学に入りたい!」といっていても、本当は違う志望校を心に秘めているかもしれません。

中学受験の裏テーマは、合否を越えた一生ものの生きる力をこの約1000日で身につけることです。本人がまだ気づいてない部分や、言葉にしにくい部分に光を当ててあげることで、自分の成長に気付けたり、気持ちをまっすぐ相手に伝えられるようになったりするものです。これらは前向きな気持ちで勉強する姿勢にもつながります。親御さんの上手な声掛けで、お子さんが中だるみから立ち直れるようにファシリテートしてほしいですね。


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。「一家にひとり、一課にひとりのコミュニティ・カウンセラー」を育てることを目標としている。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。

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