連載 なるほどなっとく中学受験理科

[地学分野]身近な気象「フェーン現象」のしくみと、入試問題での扱われ方|なるほどなっとく 中学受験理科

専門家・プロ
2020年11月06日 水溜 兼一(Playce)

学習範囲が広く、難しいイメージがある理科の中学入試問題。難関校に多くの子どもを合格させてきたカリスマ講師・小川眞士さんが、子どもの理科力を育むためのヒントを伝えます。

前回に続き、地学分野から気象をテーマに掘り下げます。今回は「フェーン現象」。例年ニュースでも話題になるこの現象について小川先生が解説し、入試の問題での扱われ方や解答のポイントも伝えます。

フェーン現象のしくみと、入試での扱われ方

近年は夏になると各地で最高気温更新のニュースが話題になります。その原因のひとつが「フェーン現象」といわれています。フェーン現象とは、空気が山を越えて風下側に吹き下りるときに、風下側の空気が風上側よりも乾燥して気温が高くなる現象です。

フェーン現象の問題を解くためには、まずそのしくみを理解する必要があります。空気が山にぶつかって上昇するとき、100m上昇するごとに気温が約1℃下がります。空気中には水蒸気が含まれていますが、空気が上昇すると、冷やされた空気に含みきれなくなった水蒸気が水滴となって出てきて雲ができます。このとき水滴が出始める温度を露点といいます。

雲ができると100m上昇するごとに気温が約0.5℃下がります。雲ができた空気がさらに上昇し、雨などを降らし、水蒸気が減った空気が山を越えます。このとき山を下る空気は、高度が100m下がるごとに温度が約1℃上昇します。そのためふもとでは気温が高くなり、湿度は下がります(※)。

※実際のフェーン現象では、雲が上昇する過程で雨が降らないケースもあります。また、気温によっては雨でなく雪になる場合もあります。入試問題では、考えやすいように、現象を簡略化しているのが一般的です。

フェーン現象を扱った典型的な問題として、ふもとの空気の温度や湿度、山の高さなどいくつかの条件を問題のリード文で示したうえで、雲が出始める高度、頂上での空気の温度、山のふもとでの空気の温度や湿度などを計算して求めるものがあります。

これらの問題を解くために注目しなければいけないのが、問題の前提条件として、リード文と一緒に示されることが多い、表①(気温と飽和水蒸気量の関係)と式②(湿度の計算式)です。この表①は暗記する必要はありません。飽和水蒸気量は表やグラフで示されますので問題で示された条件を正しく読み取って、いかに式を使うかが問題を解くカギになります。

■表①

■式②

では、表①と式②について説明します。空気には水蒸気が含まれています。表①は、決められた気温で空気1m3に含むことができる最大の水蒸気の量(飽和水蒸気量)を示しています。ちなみに、飽和とは最大限まで満たされた状態を意味します。たとえば、気温20℃の場合は、1m3の空気中には最大で17.2gの水蒸気を含むことができます。気温20℃で1m3に17.2gの水蒸気を含む空気はそれ以上の水蒸気を含むことができないので湿度は100%となります。また、20℃で1m3に8.6gの水蒸気を含む空気の湿度は50%となります。

山を上昇していく空気は気温が下がるので含みきれなくなった水蒸気が水滴になります。先ほど、雲ができ始めるときの温度を露点と言いました(普段あまり意識しませんが、雲は小さな水滴や氷の粒の集まりです)。つまり、露点とは、空気が冷やされ空気中に含まれる水蒸気が水滴になり始めるときの温度のことです。表①のように、空気1m3中に含むことができる水蒸気量(飽和水蒸気量)は温度によって変わるので、露点は空気中に含まれる水蒸気の量によって決まります。

式②は湿度を求める式です。湿度とは、その空気の飽和水蒸気の量に対する、空気中に含まれる水蒸気量の割合です。1m3の空気中に含まれている水蒸気量を、その気温の飽和水蒸気量で割ると湿度が求められます。先ほど説明したように、気温20℃で1m3に17.2gの水蒸気を含む空気の湿度は100%になります。

飽和水蒸気量・気温・湿度を把握して計算

では、試しに次の図で考えてみましょう。

いま、風上のふもと(A地点)の気温が24℃・湿度68%の空気があった時、この地点の空気の飽和水蒸気量は表①から21.8g/m3とわかります。A地点の空気1m3に含まれている水蒸気量は、湿度が68%なので式②にあてはめると、次のとおりです。

湿度68(%)= □ ÷ 21.8(g/m3)× 100
□ = 14.824(g/m3

したがって、A地点の空気に含まれる水蒸気量は、14.8 g/m3(小数第2位を四捨五入)となります。

次に、この空気が上昇して雲ができはじめるB地点の高度を考えてみましょう。B地点まで空気に含まれる水蒸気量14.8g/m3は変化しないので、この水蒸気量が露点になる気温は表①から17℃であることがわかります。雲ができる前の空気は100m上昇するごとに1℃下がります。ふもとの気温は24℃なので、17℃になるためには700m上がることになるので、雲ができ始める高度は700mです。

この雲を含んだ空気がさらに2000m上昇して山頂(C地点)に達すると、気温がさらに下がります。雲ができ始めると空気は100m上昇するごとに0.5℃下がるので、2000m上昇すると10℃下がり、山頂での気温は7℃になります。気温が7℃になったC地点での湿度は100%なので、飽和水蒸気量は表①から7.8g/m3となり、この空気は1m3に7.8gの水蒸気を含むことになります。ここで、雲ができ始めた高度700mの地点から2700mの頂上まで、空気が2000m上昇することで空気1m3あたり7.0g(=14.8-7.8)の水蒸気が水になったことになります。

山頂のC点で7℃になった1m3に7.8gの水蒸気を含む空気が今度は山を下ります。このとき、空気が100m下降するごとに1℃気温が上昇するので、2700m下のふもと(D地点)では、気温は34℃になります。D地点で空気中に含まれている水蒸気量は山頂のときと変わらず、7.8g/m3、表①から34℃のときの飽和水蒸気量は37.6g/m3とわかりますので、式②にあてはめると、D地点の湿度は次のようになります。

7.8(g/m3)÷ 37.6(g/m3)× 100 = 20.7…(%)

したがって、D地点の湿度は21%(小数第1位を四捨五入)となります。つまり風上で24℃・68%だった空気は山を越えた風下では34℃・21%の高温で乾燥した空気となるのです。

フェーン現象は、問題ごとにふもとの気温・湿度や山の高さの数値は異なりますが、各地点の気温や湿度、そして1m3中に含まれる水蒸気の量、雲ができる高度の求めかたは同じです。しくみをきちんと理解し、示された条件を正しく読み取って、計算する練習を着実にこなすことが、フェーン現象の問題を解くポイントとなります。


これまでの記事はこちら『なるほどなっとく 中学受験理科

※記事の内容は執筆時点のものです

小川眞士
小川眞士 専門家・プロ

小川理科研究所(東京都豊島区)主宰。都内の中学校教諭を経て、四谷大塚進学教室理科講師に。開成や桜蔭の特別コースを約25年間担当、コース生28人全員が開成中学に合格した実績を持つ。教務主任や副室長も務めた。2009年4月に小川理科研究所を開設。主な著書に、『中学受験 理科のグラフ完全制覇』(ダイヤモンド社)、『これだけ理科』(森上教育研究所スキル研究会)、『カンペキ小学理科』(技術評論社)がある。

この記事の著者

雑誌・新聞の編集・ライターを経て、現在は、通信教育企業のキュレーションサイトや大学案内のライティングなどを担当。