連載 中学受験の「新」常識

暗記と反復に頼らない4科の攻略法|下剋上受験著者 桜井信一さんに聞く 中学受験の「新」常識【2】

専門家・プロ
2020年12月24日 天海ハルカ

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中学受験は賢い子だけのものではない。普通の子こそチャレンジすべき。この連載ではいままで当たり前だと思ってきた中学受験の常識を見つめ直します。著書『下剋上受験』や『下剋上受験塾』で多くの受験生とその保護者から支持を集める桜井信一さんに、中学受験の常識についてお話をうかがいました。
桜井信一

オンライン塾「下剋上受験塾」主宰。中卒の両親のもとで育ち、自らも中卒になる。 娘の下剋上のために一念発起して小5の勉強からやり直す。塾には行かず、父娘の二人三脚で偏差値を41から70に上げ、100%不可能とされた最難関中学「桜蔭学園」を目指した。その壮絶な受験記録を綴った『下剋上受験』はベストセラーに。 2017年1月には待望のドラマ化。学習講座「桜井算数教室」「国語読解記述講座」では、のべ2000人の親子が参加し人気を博した。2020年、オンラインの「下剋上受験塾」を立ち上げた。

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自身の経験からオンライン塾を開始

――桜井さんはオンラインで塾を始めたとうかがいました。

はい、私の勉強法をより広く届けたいと思い、オンラインで「下剋上受験塾」を始めました。進学塾の先生は勉強が得意な人たちですが、勉強が苦手な子はもっと低いレベルでもがいているんですよ。私は子供たちと同じレベルでつまずいた経験があります。私なら彼らと同じ目線で教えられるんじゃないかと思ったんです。

たとえば算数では私が実際に問題を解く過程を見せています。子供たちは私がどこを暗算で済ませてどこを筆算するのかという途中経過を見て、解き方を身につけていくんです。

算数は見かけほど難しくない

――中学受験の算数は難しく、本当に解けるようになるのか不安になる親御さんも多いのではないでしょうか。

中学受験の算数をやってみると全然できず、やる気をなくしてしまうかもしれませんね。実は6年生になって解く入試レベルの難問より、受験算数をはじめる第一歩のほうがよっぽど大変です。

でも算数だけで言うなら、標準的な学力の子はだれでも難関校を狙えます。私も最初は「こんな問題小学生にできるか!」と思いましたが、今では妥当なレベルだと感じています。算数は時間をかけてじっくり伸ばしていく教科なんですよ。

――特殊算や数列など覚えるものが多くて苦労されているという話もよく聞きますが……。

たしかに算数として考えると難しいですが、目線をさげれば実はそこまで難しくありません。複雑に見える数列も九九で考えられたりお金など日常生活に置きかえればピンときたりするので、要は考え方なんですよ。

子供は答えが合っているかだけを気にしてしまうものですが、だいじなのは考え方や解く手順。オンライン塾でもそこを重視しています。

 

▲等差数列も、見方を変えれば九九で考えられる。

国語は読解力ではなく作業力

――国語で求められるのはどんな力でしょうか。

読解力を気にされる親御さんが多いですが、必要なのは作業力だと思っています。現に私は活字が苦手で読書もしませんが、国語は得意ですから。

記述も文の構造や関係性を理解して組み立てていくので、やっぱり作業力です。たとえば「AとBが原因でCになった」という関係性を理解できれば、AやBやCがわからない言葉だったとしても組み立てることができ、記述問題で完全解答できます。同じようにすれば選択肢の問題も解けるんです。

――長文は最後まで読み切るのも大変ですよね。何かコツはあるのでしょうか。

私は分速500文字というスピードで読むことを想定しています。入試で出るような3000字の文章なら6分で読むということになりますが、この6分は洗面器に顔をつけているくらいの根性で読み切ってもらう。途中でわからない言葉に出くわしても、まず最後まで読み切って問題を解いていくんです。解いているうちにヒントは増えてくるからとにかく一度読み切ることです。

源氏物語を初めて現代語に訳した与謝野晶子も、同じような読み方をしていたと思うんですよね。最初はわからない言葉ばかりで、与謝野晶子も苦労しながら訳していたはず。

でもひとつの文を訳せたことで次の文も訳せるようになって、その繰り返しでだんだんわかる部分が増えてくる。最後のほうはかなり楽に訳せるようになったんじゃないでしょうか。

この「与謝野晶子勉強法」はまさに中学受験の読解ですよ。文章を読み切って問1を解くとそこまでの内容がわかり、それが問2のヒントになる。設問は連鎖しているから、最後の問題を解き終えて初めて読解が完成するんです。

国語の読み方をちょっと教えると、頭のいい子はすぐ理解して結果につなげます。40点の子が100点になることも十分ありうる教科なんですよ、国語って。

理科と社会は興味と関心の時間をとろう

――理科と社会は暗記に苦労するお子さんが多いと聞きます。

首都圏だと傾斜配点を実施する学校が多いので、理科と社会へかける時間は少なくなりがちですよね。

正直に言うと、短時間で暗記する方法なんてありません。理解もせずにとにかく暗記と言われても無理でしょう。

理科と社会は興味と関心の教科です。ゆっくり学べば自然と頭に入ってくる教科なので、成績を上げるにはじっくり取り組む時間が必要です。そのためには算数と国語をいかに短く済ませて時間を確保するかが重要なので、結局は算数と国語の勉強次第ということになりますね。

受験直前に取り組むべきは「今一番やりたくないこと」

――6年生は、1月中旬~2月上旬が受験本番という場合が多いと思います。今すべきことは何でしょうか。

残り1ヶ月ありますが、やり残したこと全部に手をつけるほどの時間はありません。ここまで来たら、テクニックや根性論という話ではないと思うのです。

だから私からのアドバイスは「自分が一番やりたくないことをやる」です。今この時期にできていないと思うことは、今までやらないで来たことだと思います。算数の速さとか理科の電池とか、とにかく今一番やりたくないことが一番重要なことのはずです。最後に自分がやりたくないことを頑張ったら、少し良いことが起きる気がしませんか。

※記事の内容は執筆時点のものです

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