連載 中学受験との向き合い方

弱音の受け止め方、吐き出し方 ―― 中学受験との向き合い方

専門家・プロ
2021年2月08日 やまかわ

首都圏の一部では、4人に1人の小学生が挑戦するともいわれる中学受験。子供の受験に親はどう向き合えばよいのでしょうか。この連載では、『中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由』の著者である、田中純先生に中学受験との向き合い方をテーマにさまざまな話を伺います。

イライラやモヤモヤは日々の生活の中で少しずつ溜まっていきます。それを解消するためには、身近な存在に話を聞いてもらうことが大切です。中学受験のケースでいえば、親や友人、先生に話を聞いてもらうことで、気持ちを一新して勉強に励んでいる受験生も多いのではないでしょうか。

今回のテーマは『弱音とどう向き合うのか』。親はどのようにして子供の弱音を受け止めるべきなのか、そして親自身はどこで弱音を吐くべきなのか――これらについて解説します。

子供の弱音の受け止め方

弱音によって受け止め方・向き合い方もさまざまです。弱音というのは大別すると「吐けば吐くほど気持ちが沈む弱音」と「吐き出しきることで気持ちを切り替えられる弱音」の2種類あります。順に対応を見ていきましょう。

自己否定をしてどんどん落ち込む弱音

吐いてはいけないのは、「自分はダメな人間だ」という雑な捉え方をして、むやみに落ち込んでしまうような弱音でしょう。わが子がこうした弱音を吐いてしまったときは「どこが?」「なにが?」と3回くらい質問して、ダメな人間だと思った理由をより具体化させてみるといいですね。行動へのダメ出しは有効な場合があっても、人間へのダメ出しはただ毒になるばかりです。このことは前号でお伝えしましたね。とりわけそれが自分自身に向かうとき、それは“精神的な自家中毒”で、ただただ苦しいばかりです。

なにがダメなのかをはっきりさせることで、弱点を克服しよう、違う部分でカバーしようと、さまざまな対策が思い浮かんでくるものです。このようにして弱音を吐き出しきったら、その次には前を向けるようになるはずです。

吐き出すことで気分転換ができる弱音

一方で、どんどん吐き出すべきなのは、愚痴や負け惜しみなどのイライラを含んだ弱音です。いつまでも心の中に留めてわだかまりを持つよりは、言いたいことをいってサッと水に流すべきです。これは、生ごみ処理や毒の洗浄に喩えられたりします。

家庭内で子供の弱音を受け止めるときは、まずは親が肯定的に愚痴や負け惜しみを受け止めてあげることが大切です。そのうえで「親にちゃんと弱音を吐けるっていうのは、けっこう勇気のいることだよ。すごいじゃないの!」「あなた、けっこう面白い話ができるんだね」というように教えてあげることで、子供自身が長所に気づけることがあります。

弱音を聞いてダメ出しをしたくなったときは

子供の弱音を聞いているときに、この子はあまりにも打たれ弱すぎだな、ちょっといいすぎなんじゃないかな?と思うこともあるかもしれません。そんなとき、

「それってあなたにも責任があるんじゃない?」
「なんでも周りのせいにしてるように見えるけどな」

などと、子供が弱音を吐いているのを遮って、このようなダメ出しをするのは禁物です。周りの人に弱音を吐くのは、気持ちが一杯いっぱいの状態のときです。コップにぎりぎりまで溜まった一杯の水を想像してみるとわかりやすいかもしれません。相手がこうした精神状態のときに、なにかコメントを足してはいけません。ダメ出しをしたり「○○したらいいんじゃない」と促したりしてもいけない。

そうではなく、まずは溜まりきった弱音を吸い取ってあげることです。「それは悔しかったよね」「ずいぶん頭にきているみたいだね」「もうちょっと詳しく教えてよ」と、子供の気持ちを汲み取りながら話を引き出しましょう。

そして親目線で見て「少し気持ちにゆとりが出てきたみたいだな」と感じられたら、「ほかにもいいたいことはある? 私もひとつ思ったことがあるんだけど、言わせてもらってもいいかな?」と切り出して話をしましょう。ダメ出しであれ、提案であれ、ひとつのエクスキューズを事前に入れることで、子供も親御さんの言葉を聞く姿勢を持ちやすくなります。

怒気などをはらんでいては子供が委縮してしまいますから、感情的にならず、さわやかに自分の伝えたいメッセージをわが子に向けてみましょう。一杯いっぱいのコップの水も、気持ちも、汲み取ってもらうことでゆとりができ、ゆとりができれば新たに注ぎ入れることも可能になります。

親自身が弱音を吐きたいとき

親自身も弱音を吐き出したくなることがあるでしょう。しかし弱音を吐き出したくても、誰に吐き出したらいいのかわからない人も多いのではないでしょうか。また、ついつい子供に対してフラストレーションをぶつけてしまうこともあるかもしれません。同級生で中学受験を志しているママ友に相談しようにも、妙なライバル意識に疲弊することもあるでしょう。

望ましいのは、中学受験を経験した先輩のママ友に話を聞いてもらうことです。先輩たちも似たような状況は経験済みだし、その体験談もひとつの安心材料になりえます。ちょっと余談ですが、私はお子さんが小児がんを患った親御さんがカウンセリングなどの講習を受けて『小児がんピアサポーター』になるというプログラムに関わっていますが、『中学受験パパママピアサポーター(仮称)』がいたら、役に立つだろうかと空想しています。

“弱音”をどう読むか

“弱音”と書いてどう読みますか? “よわね”と読める一方で、“じゃくおん”とも読めます。“じゃくおん”は音楽用語でpp(ピアニッシモ)「弱い音」という意味です。強い音と弱い音が相まって陰影やハーモニーが生まれるのが音楽の素晴らしさですね。人生も同じように、ときには弱音を吐くことで日常生活にメリハリがつけられるものです。溜め込み過ぎないように定期的にリフレッシュをして、親子で中学受験に立ち向かっていきましょう。そして、ppは耳を澄ますと聞こえてきます。悩みや辛さをうまく言えないと感じている子供にとって、言葉になるかならないかの微かな心のつぶやきに、親がじっと耳を澄ましてくれる。子供の命をも守るこの「耳の澄ませ方」については、機会を改めてお伝えしましょう。


これまでの記事はこちら『中学受験との向き合い方

※記事の内容は執筆時点のものです

田中純
田中純 専門家・プロ

開成中学校・高等学校、国際基督教大学(ICU)教養学部教育学科卒業。神経研究所付属晴和病院、中高教諭、学校カウンセラーを経て公文国際学園開講準備に参加。現在は赤坂溜池クリニックやNISE日能研健康創生研究所などでカウンセリングやコンサルテーションを行っている。「一家にひとり、一課にひとりのコミュニティ・カウンセラー」を育てることを目標としている。著書「ストレスに負けない家族をつくる」「中学受験は挑戦したほうが100倍子供のためになる理由」(みくに出版)

この記事の著者

編集・ライター。学生時代から都内で6年間塾講師を務める。塾講師時代は、おもに作文・国語・英語の科目を担当。小学生から中学生までの指導にあたる。現在は編集・ライターとして教育関連をはじめ、街歩き・グルメ記事の執筆取材をおこなう。

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