中学受験ノウハウ 連載 今一度立ち止まって中学受験を考える

大学入学共通テスト導入。中学受験への影響は?|今一度立ち止まって中学受験を考える

専門家・プロ
2021年3月03日 石渡真由美

2021年からセンター試験が廃止され、大学入学共通テストが導入されました。新しい大学入試は中学受験にも影響を与えるのでしょうか?

今後も続く大学入学共通テストの迷走 今すぐ中学受験がガラリと変わることはない

2021年から新しい大学入試がスタートしました。改革の内容はずいぶん前から発表されていましたが、土壇場になって英語の民間試験の活用が見送られたり、国語と算数の記述問題を出題しなくなったりと、未だに混乱が続いています。しかし、問題傾向自体は新大学入試で求められる「思考力」「判断力」「表現力」を重視する方向に変わっているのは確かで、今後もこの流れは続いていくと思います。

では、中学受験にはどのような影響が出てくるのでしょうか? もともと難関校では、何十年も前から思考力や記述力を問う問題を出題していたので、大学入試が変わったからといって、あまり影響はないでしょう。

御三家中と呼ばれる学校以外でも、たとえば海城中では毎年社会で250字程度の記述問題が出題されていますし、浦和明の星女子中などでも指定字数はありませんがだいたい200文字程度の記述を要求する問題が国語のテストで問われています。広尾学園中や三田国際中といった新興の上位校もこぞって「思考系」の問題を出題してきました。以前は大学受験の改革に大きな影響を受けていた中学受験ですが、昨今は中学受験の方が大学受験より一歩も二歩も先んじている印象です。

影響が出てくるとすれば中堅校以下の学校でしょう。実際、2021年の入試でも中堅校以下の学校で思考力や記述力を問う問題を出す学校が増えていました。ただ極端に難しい問題を出す学校はありませんでした。

私は、大学入学共通テストはあと5〜6年は迷走するのではないかと考えています。それが落ち着くまでは、難関校はこれまで通りの入試問題を、中堅校は新大学入試をやや意識した問題を出す程度で、今すぐ中学受験がガラリと変わることはないと考えています。

先の入試を心配するのなら、注視すべきは東大入試

私立中高一貫校は大学進学実績を意識しています。それが生徒募集に大きくつながるからです。特に難関校は東大合格実績が非常に重要になってくるので、東大入試に合格できるような優秀な子を入れたいと思っています。そのため、東大入試は常に注視しています。

かつて東大でも選択問題を出題していた時代がありました。それが40年くらい前から記述問題を出すようになり、しばらくして私立の難関中学の中学入試でも記述問題が出されるようになりました。このように、難関中学は常に東大入試を意識しているのです。

しかし記述が多い東大入試も、突き詰めていくと基礎的学力を重視していることがわかります。『ドラゴン桜』の桜木先生も「基礎をしっかりやればいい」と言っていましたよね。つまり、どれだけ多くの知識や解法を知っていて、それをどう組み合わせられるかが重要なのです。

思考力・記述力も知識が土台

少し古い問題ですが、1983年の東大入試の日本史の問題で「江戸幕府が各藩に参勤交代を強いた理由」を問う記述問題が出題されました。

参勤交代が、大名の財政に大きな負担となり、その軍事力を低下させる役割を果したこと、反面、都市や交通が発展する一因となったことは、しばしば指摘されるところである。しかし、これは、参勤交代の制度がもたらした結果であって、この制度が設けられた理由とは考えられない。どうして幕府は、この制度を設けたのか。戦国末期以来の政治や社会の動きを念頭において、150字(句読点も1字に数える)以内で説明せよ。

学校の授業では「藩の財政を弱めるため」と習ったと思いますが、現在ではこうした定説も見直されています。今では「戦国時代が終わり、平安な世の中になった。すると、主君に対する忠誠心が見えにくくなってきた。そこで主君に対する忠誠を確認するために行った」、そして「結果として藩の財政が弱まった」といった見方をしています。戦国末期から江戸時代周辺の基本的知識が頭の中に入っていないと、十分な記述解答は作れない問題です。この問題は少々古いですが、こうした問題は昨今の思考力・記述力を問う問題の類型といえるでしょう。

今は中学入試でも、塾・学校で扱わない題材を取り上げた問題が増えてきています。長い文章や表・グラフなどを読み込んで、答えを出す問題です。読解力、情報整理力、そして思考力や記述力といった力を測っているのでしょう。

たしかに中学受験生がこうした力を伸ばすことは大事です。しかし小学生が(大人も)、自分がまったく知らない世界のことを考えるのは難しいのです。思考力や記述力といった力は、知識偏重だった教育を見直すために生まれた魔法の言葉のように感じますが、実はこれらの力を伸ばすには、ベースの知識が不可欠です。そのためにも、見聞を広げておくことが大事です。

中学入試では科学的な内容や社会的な内容など、幅広く出題されます。そういうときに、「知らないからわからない」となってしまわないように、日頃から家庭でも広く知識を得る時間を作ってほしいと思います。

家庭で気軽に知識が得られるのはテレビ番組でしょう。たとえば、社会問題を取り上げる『NHKスペシャル』や、地域の歴史や地形に詳しくなる『ブラタモリ』などはおすすめの番組です。こうした番組を見ながら、「これってどう思う?」「どうしてこうなったのだろうね?」と、親子で対話してみるのもいいですね。たくさんの知識を家庭で吸収し、思考力や記述力といった力の土台をしっかり築いておきましょう。そうすれば、大学入試の中身が変わろうと、中学入試の中身が変わろうと慌てる必要はありません。


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※記事の内容は執筆時点のものです

宮本毅
宮本毅 専門家・プロ

1969年東京生まれ。武蔵中学・高等学校、一橋大学社会学部社会問題政策過程卒業。大学卒業後、テレビ番組制作会社を経て、首都圏の大手進学塾に転職。小学部および中学部で最上位クラスを担当し、多数のトップ中学・高校に卒業生を送り込む。2006年に独立し、東京・吉祥寺に中学受験専門の「アテナ進学ゼミ」を設立。科目間にある垣根は取り払うべきという信念のもと、たった一人で算数・国語・理科・社会の全科目を指導している。また「すべての子どもたちに自発学習を!」をテーマに、月一回の公開講座を開催し、過去3年間でのべ2000名近くを動員する。若い頃からの変わらぬ熱血指導で、生徒たちの「知的好奇心」を引き出す授業が持ち味。

■著書

『はじめての中学受験 これだけは知っておきたい12の常識』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 同音異義語・対義語・類義語300』(中経出版)
『文章題最強解法メソッド まるいち算』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える理科85』(KADOKAWA出版)
『中学受験 ゴロ合わせで覚える社会140』(KADOKAWA出版)
『ケアレスミスをなくせば中学受験の9割は成功する』(KADOKAWA出版)
『合格する子がやっている 忘れない暗記術』(かんき出版)

この記事の著者

フリーライター。子供の誕生をきっかけに、わが子の成長に合わせ、ベビー雑誌、育児・教育雑誌、塾専門誌で取材執筆。6年前に子供の中学受験を経験したものの、国立大学の附属中学で併設高校が無かったため、その3年後に“高校受験生の母”、またその3年後に“大学受験生の母”も体験。中・高・大の3つの受験を知る受験ライター。